『PK王国』の秘密に愛をこめて
更新ペースを重視し、切りがイイ感じだったので投稿します。
『ハロハロー、終わった?』
赤黒い刀が墓標のように突き立ち並び、レッドカーペットが敷かれた通りで、黒蟻はラヴからの〈コール〉を聞く。
「おう」
黒蟻は失神したレツを適当な店の中に放置し、再び通りで会話を続けた。
『そっか♪ で? やっぱPK王国壊滅?』
聞こえてくるラヴの声は非常にうきうきとしている。
「ん? おう、たぶん壊滅しとる」
『キャハハ!! やった! 流石だね! よいしょっと」
黒蟻の目前の空間が水面のように揺らぎ、ラヴが姿を現した。
「やったぁって……ま、ええわ。とりあえず」
黒蟻はやれやれと肩をすくめ、
「くたばっとけ」
ラヴをぶん殴った。
頭の天辺から拳骨を叩き下ろされたために頭から地面にめり込むラヴ。
「いったいなぁ……いきなりなにするのさ」
めり込んだ頭を引っこ抜きつつ言えば、黒蟻は睨み付けながら弾劾した。
「じゃかぁしいわボケ。ラヴ、レツ呼んだんお前やろ」
「あれ? バレてる?」
「バレいでか、余計な真似しとんちゃうぞ」
そう、黒蟻はこの襲撃はラヴが仕組んだものと確信していた。
今回あまりにもことが素早く進みすぎた。
たまたま宴会が『PK王国』であり、たまたまその日レツも『PK王国』に居て、たまたまそれがレツに一方的に見つかり、たまたま気取られる前に包囲(狙撃手からSRの配置)を済ませ、たまたま野次馬がすぐに集まってきてリングを造り、たまたま炉綺が近くにいて―――数えるとキリがない。
黒蟻は野次馬だけはレツが用意したサクラで、炉綺は偶然だと考えていた。
ちらり、黒蟻は手際よく持ってこられた、レツの乗っていた御輿を見る。
……準備がよすぎる。
炉綺はまあ『炉綺だもの』で説明がつく。
そして黒蟻が予想する、ラヴがこんなことをした動機は大方ルリの前で格好つけることがひとつ、自分とレツを会わせることがひとつ、祭りになりそうなら爆薬放り込む主義なのがひとつ。
そしてそれは大正解だった。
「ごめんごめん、レツちゃんが泣きながら〈コール〉してきたから言っちゃったんだ」
「それが余計や言うとんのや。アイツはいい加減一人で立てるようならなあかん。これはそのええ機会やったんや」
「う」
「それをお前邪魔してくれおって……お陰でこんだけ派手な真似せなあかんかったやんけ」
「悪かったって。……殴らなくてもいいのに」
謝りつつも、若干不満を滲ませたラヴ。
しかし黒蟻はその言葉も両断した。
「殴られんの見越して一人なくせによう言うわ」
「あー、お見通しだね」
「わからいでか」
そう言って黒蟻は、ラヴの隣を見る。
誰もいない空間がある。
そう、必ず隣に居るであろうルリがいない。
それだけで黒蟻は、この友人が殴られるために出てきたと察したのだ。
もしあのルリが隣に居れば、黒蟻はラヴを殴るどころかカウンターを食らっていただろう。
「ホンマ……お前は妙なところで律儀やのう」
「惚れちゃう?」
「抜かせや」
苦笑しながら黒蟻は、ラヴのイタズラを水に流すことにするのだった。
一発殴って気が晴れた、とも言う。
「ん? あ、〈コール〉だ」
『もしーん! ラヴっち? そろそろ帰っていいか? なんか「PK王国」の連中がお前ら除いていきなり全滅したんだが』
「もしーん! もう大丈夫だよ! ね? 逃げて正解だろ?」
『ま、まぁな。じゃ、そっち行くぜ。〈転移〉!』
〈コール〉の向こうで〈スキル〉が発動し、白い光がラヴ達の前に現れる。
その光が消えると、炉綺が突っ立っていた。
「おおぅ?! 大☆惨☆事!! じゃねえか何があった?!」
「ナーイショ! でも黒蟻がやったのさ!」
「マジかよ……パネェな」
呆然と辺りを見渡す炉綺、そして全身から『ワクワク! ワクワク!! 言いたいな! 自慢したいな!!』といった気配を発しているラヴ。
そのうち炉綺がハッとし、
「と、とりま『マスカレイド』さんがくるまでその辺で飯を……」
「あ、スマン。NPC含めて店員も殺してもうたから店動かんで?」
「マジで何やったんだよ……」
再び呆れるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「―――ぶはぁッ!!!!」
突然、池の中から女が現れた。
背には黄土色のトランペット銃、顔には鳩の仮面。
しかしその全身は濡れ鼠でさらには池の泥まみれ。
いつもはお洒落な深緑のコートも、羽根つきの帽子も、今は見るも無惨な状態だ。
ひどい有り様みじめなザマな、死んだはずのハーメルン。
ここは『PK王国』。
の、出入り口の近くにある沼。
通称『負けい沼』。
ここは、都市型PvP施設、闘技場『PK王国』の、敗者が復活するための場所。
そう、『PK王国』の正体は、巨大な地下コロセアムだったのだ。
闘技場とは、『装備喪失』『一時的なステータス低下』など、デスペナルティーを一切無しで復活可能な、純粋に戦闘だけを楽しむための施設だ。
フィールドも様々な物を〈クリエイト〉でき、『整地』『荒れ地』『砂地』『湖』『チェーンネックデスマッチ』『死んでれら城』など特殊なものからネタモノまで用意できるのだ。
そしてここ『PK王国』は荒野フィールド。
そして、そのフィールドに街を建設したのだ。
普通コロセアムの中にショッピングモール建てる者はいない。だから誰もそんなことが可能だと気がつかなかった。
いわばここは、『ホールテクノロジー』で造られた街なのだ。
無論、日々の殺し合いで建物はいつも崩壊しまくっているが、一度造った『フィールド』として登録されているため、朝未明の三時になれば自動でもとに戻る。
「あの……あんのクソアマァアアアァアアア!!!!」
ハーメルンは激怒した。
「いぃいいいきなり不意打ちししやがってぇえ!! しかもよりによってお姉さまのままままえでこころしやがったなぁあ!!」
頬に爪をたてながら、常軌を逸して怒鳴り散らすハーメルン。
「ぶぶっころころころしてやるる……! 『ラヴァーズ』のこしぬけの分際でぇ!! あぁクソッ! あのガキもだ!もろともグチャグチャにぶち犯してから殺してやる!!」
爛々と光る血走った目を仮面の下に隠し、彼女は走り出した。
走りながら〈アイテムボックス〉から『負け犬トリートメントウォーター』(負けい沼の泥を落とすことの出来る唯一の水。非常に高価)を取り出し頭から被る。
泥を落としながら走り、『PK王国』の入り口まで戻る。
と、ちょうど入り口から新しい男が入ってきていた。
草臥れた侍、いや浪人の格好をし、抜き身の蒼い燐光を放つ刀を片手で担いだ男は、その顔の上半分を鬼の仮面で覆い、口許には無精髭が生えたままだった。
狂奔する突スナはその男を視界に収めるや否や狙いを定めた。
一般的ネチケットとして、入り口付近での戦闘は暗黙の了解で避けられているが……所詮“避けられている”程度のこと。
もちろん、彼女はそんなこと意識に上りすらしない。
(八つ当たりにぃい!!シィになああぁああああ!!!!)
背にしていた『終演の調』を抜き、呪殺の『魔弾』を装填、真っ二つにされた。
「えぁ……」
核ごと袈裟斬りに真っ二つ。
ドバッと一気に血を撒き散らし絶命したハーメルン。
それをまるっと無視し、男は己の刀に視線を這わせる。
「あぁ〜ほんとイイ女だよおまえはぁ……特に」
うっとりと血濡れの刀を眺め、
「うなじがエロいぜぇ……」
刀の峰にべっちゃりと舌を這わせた。
すると、刀の蒼い燐光に一筋の紅い光が、まるで紅潮したかのように差す。
「照れるなよぅ……愛いやつだ」
にたりと笑い、彼は刀を抜き身のまま肩にかつぎ、ゆらゆらと歩き出した。
彼の名は『マスカレイド』。
この『PK王国』創始者のひとりであり、武器も姿も性格も変わっているが、『私法機関』に潜り込んだスパイでもある。
『マスカレイド』……いったい何者なんだ……!?