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鬼畜外道より愛をこめて  作者: キノコ飼育委員
準備中!☆下拵え中!☆種蒔き中!
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打ち上げに愛をこめて

「じゃあ作戦成功を祝って――――――」


ラヴがグラスを片手に音頭を取り


「「「「「カンパーイ!!」」」」」


皆がグラスを打ち付け、澄んだ音色を響かせあった。


ただしカンパイ言ったのはラヴ、黒蟻、ハーメルンのみ。


ここはPK王国。

のアヴィド通り。

の酒場『リウニョーネ』。


街系ギルド拠点には幾つかあるNPC経営の店で、しかし今はひとつの命あるマスターが経営しているアンティーク調のお洒落な酒場。


よく打ち上げなどに使われる店で、今もまた別の席で宴が開かれ、軽快なグラスの音が響いていた。



しかしルリと『一人全役(オールキャスト)』は無言でグラスを少し持ち上げるのみ。


「もールリも『一人全役』さんもカンパイ言ってくださいよー」


「そーですよお姉さまぁ。さ、カンパーイ!」


「ハァ……ほれ」


疲れたようにひとつため息をしたルリは、ラヴとグラスを軽く当て、ハーメルンには軽く眉間にガラス針を刺し込んだ。


「イッタァアアああああ!!? 痛いですお姉さま! 〈刺突ダメージ倍加〉なんですよスライムは!?」


「うるせぇキモい死ね」


ハーメルン半泣きの抗議にも氷点下の態度を崩さぬルリ。


しかし変態にはご褒美なようで、


「あぁひどいお姉さま! でも感じちゃう! (ビクンビクン!!)」


「だぁああああ!! 死ね!死ね! 死に腐れぇええええ!!!!」


ルリはガクビクしだしたハーメルンに躍起になって斬りかかり、袖から何本も刀を繰り出して串刺しにし、椅子へと張り付けた。


それがさらにハーメルンを恍惚とさせているのだが……。


「ハァ……ハァ……」


「あはぁん……お姉さまったらとってもし・げ・き・て・き(はあと)」


「も……疲れた」


がっくりと項垂れたルリ。


実はかなり珍しい光景だ。


それを肴に今回の計画について話を促す黒蟻。


「で? ちゃっちゃか話せや。いきなり護衛に駆り出しおってからに、フツー最初に説明入れるやろ」


「はいはいわかりましたよー。相変わらずせっかちですねぇ」



コトンと紅茶のグラスを机に置くと、ラヴは今回起こったことの解説を始めた。


「先ず始めに、事件そのものは既に時効です。だからこの説明の過程がどうこう言う反省会ではないので悪しからず」


ネタで前置きしてから。


「そもそも、『私法機関』の偵察はマスカレイドさんに任せるつもりだったんですよ。それがいきなりあぁなっちゃって、正直自分でもビックリしてました」


「あぁ? せやったらホンマは何のために行ったん?」


「んとね、『私法機関』と『自由同盟』の対立を煽る、そのためにこの二人の襲撃の補助をしに行ったんです」


「はいはーい! 私とこの大根役者はギリギリまで〈探知〉系スキルに掛からぬようラヴ様の〈ゲート〉を使い、宴会場の三階上の扉から『私法機関』を襲撃し、可能ならば敵をブッ殺し、無理でもすぐ撤退するよう指示されてました!」


ハーメルンが陽気に手をあげ、『一人全役』も黙したまま頷く。


「その後扉を新しく外に設置、ちゃんと宴会場のある階に繋いで、飛び出してきた彼らを僕の空間に回収したんだ。一撃入れてくれれば充分だし。ま、一番のベストは『自由同盟』会議場に『私法機関』がなだれ込んでくることだったんですけど……急な偵察アンド呼び出しでタイミングを逃がしました。そううまくいきませんね」


「……待てや、つまりお前アレか。あのホテル完全に制御下に入れとったんやな? ……どうやって許可とったん?」


黒蟻の疑問はもっともだ。


ラヴの言ったことをやろうと思えば事前に何十も施設そのものに改造を施さなければならない。


そんなことを己のギルドに誇りを持つ料理人たちが許すだろうか、いや、あり得ない。


しかしラヴは事もなげに仕掛けを語る。


「あ、それは僕が『飽食堂』のスポンサーで、お店を建造してプレゼントしたのも僕だからです。だから元から仕込んであった罠や装置を使ったのです。許可と根回し(ワイロ)もしたしアフターサービスも着けました!」


「マジで!? いつのまに?! てかなんでそんな関係なったん?」


「え? んー……風評被害を避けるためと僕の楽しい“食生活”のためにナイショ♪」


この質問にはラヴは答えず、人差し指でシーッとやるだけだ。


そう、言えるわけがない。

実はあそこは店ではなくダンジョンであることや、あの複雑な迷路構造は管制室で意図的に階段の位置をずらしたり転移させることで『厨房』という名の地下四十階に放り込めるとか、ましてやあの二人が仮面を被って『注文の多い料理人』というPKとしてひっそり活動してるなど口が裂けても彼は言わないだろう。


話題を変えるためにラヴは今回の作戦のようなものを失敗させた原因に話しかけた。


「あ、ところで? なんであの会議に呼んだんですか、ルリ?」


「んー? あいつらがこっち完全に舐めきってるのがわかってたからだ」


水を向けられたルリはコーラで口を湿らし、ラヴを呼んだ表向きの理由を話した。


「例えば黒蟻も見てた通り恫喝してきた男、大方こっちの出方を知りたかったんだろ。それに、お前が来なかったら俺らは保護か同盟とかいう体のいい舎弟にでもされてたろ、キャッシュ辺りが『良識ある大人としてあなた方を守ります、だからあなた方も我々に協力してください』、なんつってな」


いつものように胸を張り自信満々に答える。


しかしぶっちゃけると彼女は何かしらの理由をつけてラヴを呼ぶつもりだった。

だいたいの人間は“今の”状態のラヴを見て手を出そうと、関わろうとはしないからだ。


そもそも相手は予想通りこちらを従属させようとしていた。


ならばその慢心をぶっ潰し敵対ないしは無関係から関係を築こうと考えたのだ。


もちろん、一時従属して油断させ後ろから刺す、という選択肢もあった。


それならラヴを呼ばなければいいだけ。


ラヴに無断で待機させてあった『一人全役』のひとりを使うのみ。


何にせよ、先ずは心を読んで情報の何もかもを強奪してから。


そしてその結果『『自由同盟』脅威度低し』と判断、ああなったのだ。


「なるほど〜。ん? でも待って? そこでどうして僕につながるの?」


「そりゃあれだ、ああいう公式かつ緊急の場にはいくら嫌でも組織のボスが行かなきゃダメなんだよ。舐められちまう」


飄々とそ知らぬ顔で返答していく。


「ん、言われてみればそうだね。むしろ今までよく呼び出されなかったね僕」


「この俺が上手いことやったからな」


「さすが! 僕の恋人は頼りになるね!!」


「へっ、当然だろ」


「ホントホント! 頼りになるね!」


「お、おう……だろ?」


「ホント……頼りに(じゅるり」


「あ、あれ? ラヴ? 落ち着け、な、落ち着けよ!?」


徐々に雲行きが怪しくなってくる。


何故か既にラヴは飛びかかる体勢を整えていた。


「あ、スンマセーン、この焼き鳥セット2つ頼んますぅ」




しかしいつものことと黒蟻は華麗にスルーし、近くのウェイトレスに追加注文する。


「ハァハァおねぇさま、ピンチのおねぇさまぁハァハァ……ウッ」


たくましい想像(もうそう)力を発揮して鼻血を垂らし始めたハーメルン。


『ねえお兄さん、今からエロエロなシーンが見れるのかな! わっ! なんで目隠しするのやめてー!』


『一人全役』が左手に嵌めたパペットとコントをやりだした。


「お待たせしましたー」


エロメイド服を着たウェイトレスが焼き鳥の山積みされた皿を2つ持ってきて机に置く。


黒蟻は焼き鳥の串を三本纏めて掴んでガツガツ喰らうと、気に入ったのか今度は皿ごと手にして跳び上がり天井に張り付いた。



その刹那、黒蟻の居たテーブルが入り口を突き破った弾丸の大瀑布に巻き込まれ粉々に吹き飛んだ。


唸るような猛々しい駆動音と、あまりの連射性の高さから極太レーザーにすら見える鉛の激流は止むことなく横薙ぎに移動し、店内を舐め尽くすように破壊していく。


カウンターに居たマスターを弾けさせ酒のコレクションが砕けて酒の滝を作る。


別のテーブルに居たプレイヤー数人が咄嗟に防御スキルを使用するが、“何かに当たった”ことを感じたのかそこを粉砕せんと射線が集中する。


あっという間に防御を削り切った弾幕が彼らを飲み込み、激流に血煙が添えられた。


床が壁がテーブルが椅子がランプが余すことなくどこもかしこも粉々にバラバラに木っ端微塵に破壊されていく。


永遠に続くかと思われた超掃射は、店内を三往復してからようやく止まった。


木々や埃が舞い煙に覆われた店内。


通りに面していた壁は入り口もろとも無くなっている。


しばらくして煙が晴れると、そこには無事なところなど少し―――――は、ある。


「やれやれ。俺の出番はなしか」


両手に小太刀を抜いた、虹色に光り輝いているルリがAmericanなジェスチャーで呆れる。


「ふふふ、たまには僕も働かなきゃね」


自分を庇う位置に立つルリのさらに前に、ゲートを開いていたラヴが笑う。


「えっと二人は……『一人全役』さんは華麗に僕の後ろに逃げてそこにいる、ハーメルンさんは……椅子に張り付けられてたから、死んじゃった?」


「うしっ!」


首を傾げるラヴにグッと拳を握るルリ。


しかし、木切れの隙間から水が這い出してきた。


「あ、居た!」「F●CK!!」


ぐにゃぐにゃと水が形を持ち多少ボロくなったハーメルンになる。


しかしその雰囲気はガラリと変わっていた。


「……クソ虫が、私はお姉さまとラヴ様以外に、きき傷つけられるのがいい一番嫌いきら嫌い嫌いなんだよぉオオオオ!!!!」




背中に手をまわし己の愛銃『終焉の調(トランペッター)』を構え強力無比な呪殺の『魔弾』を装填、背中から胸へと赤黒く煌めく刀に貫かれた。


「……え?」


呆然と、自分から生えたその刀の先を見れば、ピンポン玉くらいの球体が割られている。


それが『スライム種』にとって最悪の弱点である核だとわかる前に、〈スキル〉が発動する。


「〈妖刀喰肉〉」


ズチュルと核が刀に染み込むように喰われた。


ついで液体の自分も今己を貫ぬく刀に吸い込まれていく。


そして、意識が途絶えた。


手の平から生えた赤黒く煌めく、まるで心臓のように鼓動する妖刀を収納しながら、片手に皿を持った黒蟻は辛そうに言う。



「あかん最悪や、焼き鳥埃まみれや」


ぽいと皿を捨て黒蟻は、そのまま外へ向かう。


「ちょ!? 黒蟻! なんで殺っちゃうのさ!?」


背後から聞こえたラヴの声に、黒蟻は振り向くことなく答えた。


「感動の再開邪魔するヤツは死んでもしゃあないやろ? それに“ここ”やったら砕け散っても死なへんし」


入り口、とはもう呼べぬ空間を通り外へ。


通りには人気がなくなり遠くの方や屋根に野次馬の山が見える。


そこら中に転がった黄土色に光る薬莢により地面が覆われている。


そして目の前には、シ○ゴホッドが不法駐車されていた。


「アウトォーー!!!」


黒蟻の叫び(ツッコミ)が、空へと虚しく響き渡る。


「……さすがやな、ウチより先にツッコミかい」


そこに高く幼さの残る声がかけられた。


見ればシャゴホ○ドの上に誰かが乗っていた。


いや、黒蟻の予想した通りの人物が居た。


色素の薄い首筋に掛かる程度の長さの銀髪を赤いリボンでくくり―――


柔らかな脚を赤と白のニーソで覆い―――


さりげなくクマのマークの入った運動靴を履いて―――


ぷにぷにとした天使のように愛らしい幼い身体に、純真さを表すような白と紺色の学校指定体操服を着用した―――


赤い赤いランドセル型マガジンから給弾ベルトで繋がったリコーダー型三連バルカン砲を軽々と手に持つ、クマ耳がチャームポイントの茶色く塗られた溶接工のような仮面をした少女がいた。


バルカン砲の多数の銃口を再び黒蟻に向け少女、『魔法少女バルカンブラウン』は言った。


「ウチと今からデートしようや……姉ちゃん?」



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