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鬼畜外道より愛をこめて  作者: キノコ飼育委員
準備中!☆下拵え中!☆種蒔き中!
59/77

合言葉に愛をこめて

何とか二週間以内に……!

ここはキャッシュの拠点にして『越後屋』本店。


招待されなければ行くどころか発見すら叶わぬ享楽の街、『ゴールドベガス』。


コロシアム、賭博、VR売春、電子ドラッグ。


刺激的でダーティな遊びの楽しめる、しかしVRシステムの闇の顔を凝縮した街。


その街並みを一望できる一際大きく高級なホテルがある。


上品な金塗りのホテルは、入り口に『金貨の溢れる、地球の柄の袋』のマークが描かれている。


そのホテルの最上階から街を眺めつつ、キャッシュは思う。


(本当に、こんな街を造らせてまで運営は何がしたかったのでしょう)


それは、ほんの嫌がらせだった。キャッシュはVRシステム法を破りに破ることを行い、世間にWoRの異常に気づいてもらおうとしたのだ。


もちろん簡単に止めさせられるだろうと彼は予想していた。

しかし、


(VR売春、電子ドラッグ。どちらもVR法の禁忌と言っていい。しかしそもそも何故出来た? そして何故それが問題にならなかった?)


うっすらと、嫌な汗をかきながらキャッシュは思考を続ける。


(何故出来たか、システムを書き換えられれば電子ドラッグも売春もできなかった。しかしそれをしなかった。なのに何故問題にならなかったか……それは表沙汰にならない確信があったから?……有り得ない。いったい何万人がプレイしていたと思ってる。世界界をまたいでプレイヤーがいたんだぞ?)


ぐるぐると思考を廻すが、結局いつものひとつの可能性に辿り着く。


(そんなものどうにでもなるくらいの大企業……いや、政府か? 何かの巨大な実験? ならば監視されている? 何のために?こんな大掛かりな街まで作って)


だがやはりその可能性は口にすれば失笑もの。


彼はこんな、神の技としか言えない現状を創った存在の狙うメリットを予測することができないでいた。


(……駄目だ、どう考えてもデメリットが大きすぎる)


もし彼がネット小説をたしなんでいれば、『異世界トリップキタコレ!』とか適当に結論付けただろうが、生憎彼にそんな趣味はなかった。


故に思考の泥沼に嵌まっていた。


と、そこへ


『ボスゥ!!!』


ドアを吹き飛ばす勢いで『銃面相』が現れた。


「……ニック、ノックくらい『飽食堂で襲撃を受けた!!』! 状況は!?」


『いや、もう終わってる……俺以外全滅した』


「なん……だと? だ、誰だ!? 誰がやった!」


『「デスペナルティ」だ……いきなり不意打ちで襲撃された』


「『デスペナルティ』が!? 何故!?」


『わからねぇ……通信は妨害されて転移で脱出もできなかった。俺はビッグマグナムで応戦してボスだけでも逃がそうとしたんだが……』


「私は居なかった、と」


キャッシュは悔やむ。


完全に自分のミスだったからだ。


何故なら、彼は飽食堂から帰っていたことを警備である『銃面相』たちに伝えていなかったのだ。


どころか、今の今まで忘れていたくらいだ。


(クッソォ!! 私は大馬鹿だ!! いくら気が動転していたからといってこんな重要なことをなぜ忘れていた!!)


『あぁだから、だからすぐにアイツらのとこに戻ろうと……だけどよぉ、みんな、みんな死んでた!!『名前』が灰色に変わっちまった!!』


『銃面相』は泣いていた。


機械となった体は涙など零れないが、確かに彼は無力な自分に、死んでいった仲間に泣いていた。


それを見て、消えた家族(ファミリー)を思って、キャッシュはギチリと奥歯を噛んだ。


「つくづく、舐められたものですねぇ……」


その己と敵への憤怒をこめた眼光は、〈メニュー〉にある〈ギルドメンバー〉の項目、その灰色(ゲームオーバー)に変わった名前を見続けていた。


(必ず、代償は支払ってもらいます。……今まで、ありがとう……すまない)


心の中で報復を誓って。


その時である。


そのプレイヤーの死を表す灰色に



「……は?」



再び光が宿ったのは。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ハーイ☆みなさんコンニチハ!!!


『THE 委員長』のサチです!


みなさん、唐突ですが本気って大事だと思いませんか?


本気を出すというのは人生に悔いを残さないためであり延いては心の充足にも繋がります。


本気の告白、本気の戦い、本気の関係、本気の誠意。


いずれにせよ、本気を出すっていうのは素晴らしいです。


本気を出すことで初めて伝わる気持ちもあります。


そして今私は、



「すいませんでした……」



本気の土下座をしています。


何でってほら、店の中で戦闘やっちゃったし、天井ぶち抜いちゃったし、三枚。

しかしなんでヒロトさんは腕組んで突っ立ってるんですかね?


うら若き乙女にだけ土下座させといて(ピキピキ)。


ちなみに目の前には雄々しく仁王立ちする女性と、その後ろに青筋浮かべて控える男性。


真っ赤な紅蓮のごとき朱髪を目深に被ったコック帽の中に閉じ込め、清潔な白のコック服に赤いネクタイでアクセントを加えた物を身に纏っています。


その名も『悪食』チラノスさん。


かたやこちらも目深に被ったコック帽の中に蒼い髪を閉じ込めコック服を着た男性。


『偏食』スタッフさん。


二人合わせて『暴食姉弟』。


基本店で暴れる輩は万死、だそうです。


その二人ともが激怒しているのは発している小宇宙(コスモ)でよくわかります。


「…………弟よ」


「……なに? 姉ちゃん?」


「すまんがお前が話してくれるか? 私がコイツと話すために口を開けばそのまま喰い殺してしまいそうなんだ」


ちょ!? じょ、冗談ですよね?


「了解姉ちゃん」


そう、私に向かっては一言も発さずに後ろに下がったチラノスさん。


代わりに『偏食』スタッフさんが前に出てきました。


「……サチさん」


「はい」


「『飽食堂』……グルメギルドというのがどれくらいイロモノかご存知ですか?」


「……いえ」


「ギルドランクをあげる“ギルドポイント”。多種多様ありますが中でもそのギルドが掲げる目標を行えば加算される“専用ギルドポイント”はボーナスと言っても過言ではないほど加算される……では“グルメギルド”は何が専用ギルドポイントになると思いますか?」


「……知らないです」


「ありませんでした」


「……は?」


ありませんでした?


過去形?


「無かったんですよ、稼ぐ方法。専用ギルドポイントに比べれば霞のような一般ギルドポイントしかありませんでした。何故なら、“グルメギルド”なんて存在しなかったんですから」


「“グルメギルド”が、存在しなかった……?」


「ええ、存在しない種類のギルドでした」


「ま、まさか!? やったんですか?! 『新たな先駆け』を!?」


『新たな先駆け』、それは運営による公式クエストのひとつ。


冒険者ギルド、商人ギルド、生産ギルド、法治ギルド、PKギルド。


この五つがギルド結成時に選べるギルド。


しかしもし、これに当てはまらない種類のギルドを結成したいとき、『新たな先駆け』のクエストを行うのです。


それは『○○ギルド』を結成し、S級ギルドに到達することで運営にその種類のギルドの有用性を証明し、公式種のギルドに選ばれること!!


そうすれば公式ギルドと同じ特典が付くのです。


しかし――――――


「拠点、名刺などの一切のサポートなし、集めれるのは小数点もざらな一般ギルドポイントのみ、どう考えても死んだときに引かれるポイントのが多いというあの修羅のクエストを……成功させたのですか」


そう、修羅の道という言葉が陳腐に聞こえるほどの廃っぷり。


大抵のギルドは五種のギルドから選んで呼ばれたい名を自称するだけなのに……。


「すごい……ですね」


「血の滲むような努力の果てに、成功させました」


スタッフさんが過去を懐古するような微笑をたたえています。


「大量のモンスターを狩り、ボスモンスター単独討伐を繰り返し、さらに膨大な種類のある〈調理〉スキルのミスを繰り返しながら熟練度を上げ、たった二人でこの拠点『HOTEL 飽食堂』を立ち上げたのです……それをあなた方は―――」


うぅ、返す言葉も無いです。


彼らの誇り、それを壊しまくって暴れま「下らんな」


は?


「……今何と?」


表情の無くなったスタッフさんが、声を発した人、ヒロトさんの方を向いた。


対しヒロトさんは、いっそ傲慢と言える態度で、


「下らんと言った。たかがネタギルドひとつ、正義の前には取るに足らん」


おい、おいおいおいおい!


こいつバカですか?!


この状況でそんな失礼極まりないこと言ったら


「ギャアアアアアアアアアアアアス!!!!!!」


あ、やっぱり。


チラノスさんが〈変身〉しました。


一瞬身体がぶれ、すぐに現れた見上げるほどの、十メートルはあるその巨体。


全身を覆う紅い鱗に、血のように妖しく輝くルビーの突起が背筋から尻尾に生え、額には角として存在しています。


あまねく全てを咬み切る強靭な顎と牙。


翼こそなく、また二足歩行だがそれは正しく“ドラゴン”。


『ブラッディ・ルビー・ジャバウォック』


こと単純な筋力においては上から数えた方が早いと言われるほど上位に位置するドラゴンです!


しかし――――――


「サイボーグ……?」


そう、彼女は肩から先が全て黒塗りの鋼鉄で出来ていました。


左手のある箇所にはまるでミキサーのように五本の、三メートルはあるブレードが付いており、右手は指ではなく自在に曲がる鋭利な五爪になっています。


しかし、まるでこの半竜半機が彼女であると表すように、頭の上にはちょこんとコック帽が乗ったままです。


「もう許さん、喰い殺してくれる!」


「姉ちゃん」


「止めるな弟よ、もはや我慢ならん!!」


「違うよ姉ちゃん……俺もだ」


メキメキと膨張した筋肉がコック服を破り、二メートルほどのスレンダーな『竜人(ドラゴノイド)』になるスタッフさん。


目に痛い極彩色の水晶の突起が肩や背筋、尻尾に生えており、全身は蒼い鱗に覆われています。


竜と化した頭に目は鋭く黄色に光っており爪は短いが鋭利、ずらりと並んだ牙は鰐や狼のソレより恐ろしい。


でもやっぱりコック帽だけはしている。


あと肉切り包丁も。


……こんな種類の竜人(ドラゴノイド)、いましたっけ?


見たことありません!


あ、見てる場合じゃありませんでした!


「ちょっとお二人とも!」


「「邪魔するなら貴女も喰いますよ?」」


見事なハモり。


流石は『暴食姉弟』、タッグを組めば喰えぬモノ無しと言われる訳です。


じゃなくて、


「いえ手伝わせてください」


全身に〈超能力〉を纏い二人の側につきます。


首を傾げているクソ野郎に一言言わせてもらいましょう。


「ヒロトさん、あなた覚悟してる人ですよね? 断罪するってことは断罪されるってことも覚悟してますよね?」


「なに? 何故私が断罪されねばなら「うるせぇええええええええ!!!」」


言い訳なんざ聞きたかねぇなぁ!!


「ごちゃごちゃ喧しいんです! 漢だったら魂で感じろ拳で語れ!! お前は私を怒らせた!!」


ちなみに私は肉検(肉体言語検定)一級持ち!!!


「ちょ、委員長!!」


「どうしたミドリムシィ!!!」


「何か此方に近づいてきてます後で話し合いましょう!!!」


へ?


慌てた様子のミドルさん。


示す方向を見れば……流れ星?


真っ赤に赤熱した、ナニかがこっちに突っ込んできて――――――


「じゃぁーんけぇえええええんグゥだゴルァーーー!!!!!」


謎の声、同時にチラノスさんの巨体が、スタッフさんを巻き込み真横へ吹き飛んだ。


どうやら二人とも怒りに我を忘れていた模様。


直撃を喰らってしまいましたか。


てかジャンケン?


視線を向けるとそこには、柔らかな光を放つ、しかし猛々しい大鷲の翼を背にひろげた女の人が浮いていました。


ふわりと女の人が地に降り立ちました。


白い貫頭衣を着た、チラノスさんとはまた違う赤さの短髪の、残念なサイズの胸の女性。


「誰が残念だゴルァ!!」


ヒッ!


女の人が地を蹴ったと思ったらいきなり目の前に拳が!


咄嗟テレポ!!!


「へ? ゴブゥ!!!」


あ、イケね。


ミドルさんが後ろに居たんでした。


あ〜吹っ飛んでく〜。


プッ(笑)


てかエスパーですかあの人。


「女の勘だ!!」


さいですか。


「貴様何者だ!」


おっとここでようやく厨二病患者(ヒロト)さんが復活だ!


「アタシはアタシだ!!」


意味ない答えを即答しつつ女の人は厨二病患者さんにも迫る。


その動きの速さに舌を巻きますが〈スキル〉を繰り出す厨二病患者に血の気が引きます。


「〈首刈り〉!」


ちょ! 頭おかしいんですかアンタ?!!


しかし私の驚愕を他所に、


「チョキか! アタシの勝ちだな!!」


女の人の拳は禍々しき大剣を弾き飛ばし(刃に当たったはずなのに)そのまま厨二病患者の顔面に突き刺さる。


「ぶごぁ!!!」


トラックにでも轢かれたように鎧の重さを感じさせぬ軽やかさで地面と水平に飛んでいく。


ザマァ!!


アァーーーンド!!!!!



「グーです!!」


私が上から隕石のように拳を降り下ろす!


「 いわゆる“あいこ”って奴だぁああああ!!!!!」


ふははは!! 漁夫の利イタダキィ!!!


「なる! 確かにあいこだな!!」


天から突っ込んだ私の、超常の力に包まれた拳が女の人の白く細い腕によるアッパーに真っ正面からぶつかり――――――




「でもアタシのグーのが(つえ)え」


真っ向から競り負けた。


「なっ?! ひでぶ!!」


拳のぶつかった地点から衝撃波が爆発し、いつの間にかさらに放たれた女の人の拳に意識が飛びました。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



死屍累々と転がる『私法機関』。


いや、倒れていないのが三人。


それは武器を取り出したり攻撃の意思を示さなかった、レキガンとドシン、クロロホルムだ。


「……えーっとですね」


「……おう」


「……(汗」


“やりやがった”と言いたげなような、“またですか”と苦笑しているような、事態の収拾どうしようかと苦悩するような、微妙な表情。


何故なら彼らは女を知っていた。


レキガンは素材集めの先で、ドシンはかつての『火の七時間』で、クロロホルムは街の訪問者として。


「オーッス!! レキガンに岩ンコフ、それにクロロ!! 久々だな!」


二人に気づいた女は元気よく手を振ってきた。


「ええお久し振りです」


「……」


「『陽光の戦乙女(ヴァルキュリア)』さんよ」


三者三様の返事に女は、赤髪をかきあげニカッと笑った。


『陽光の戦乙女』トリニティ。


仲裁ギルド『如何なる理由あろうとも戦争を粉砕し隊』ギルド長。


そのレベル1000(・・・・)


限界を突破した者達。


全てのWoRプレイヤーは畏敬と畏怖を込めて彼らをこう呼ぶ。


『英雄達』と。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「いやぁーいきなりぶっとばして悪かったねホント!! でも戦争なんてしようとするからだよ?というわけでアタシは悪くないね!!」


たははと元気に笑うこの女性、何を隠そうあの(・・)トリニティさんです!


『陽光の戦乙女』トリニティと言えばあの『英雄達』が一柱!


『英雄達』、それは超特殊クエスト『限界突破』を受け、成功させた者に贈られる称号!


『限界突破』とはレベル999(カンスト)プレイヤーのみが受けられる、しかし発生条件全く不明の伝説的クエスト!!


一人でしか受けられず、更に達成条件もバラバラ!!!


達成出来たプレイヤーは全てのWoRプレイヤーに畏怖と憧憬をこめて『英雄達』

と呼ばれるように……え? 説明被ってる? 何の話ですか?


とにかく!


成功報酬はなんと!!


『レベル1000への到達』と『オリジンクラス』アイテムの贈与!!!


アイテム贈与もすごいですがレベルが999を突破することの方が実はスゴかったりします!!


なんせこのゲーム、こんな言葉があるんです。


『戦闘系プレイヤーの一対一において、レベル1はレベル10を倒せず、レベル100はレベル150を倒せるがレベル200は倒せず、レベル900はレベル998を倒せるがレベル999は倒せず、レベル999はレベル999にしか倒せない』と言われるほど!!(もちろん戦うのが得意でない回復職の方や生産系の方、相性によってはその限りではありませんが)


レベル998とレベル999、たった1しかない差が断崖絶壁の能力差を生んでいます。


何故かこのゲーム、レベル998までは戦ってれば勝手になれますが(注・廃人の意見)そこで経験値はカンストするのです。


そこからいつの間にか999に上がっている、そうです。


それはアイテムを手にした瞬間だったり、ボスモンスターにトドメを刺した瞬間だったり、失恋してゲームにログインした瞬間だった、なんてのも聞きます。


人によっては998になった瞬間に999になる人も。


嫉妬に狂った瞬間だったとかなんとか言ってる人も。


掲示板の一説では『運営がおもしろいと思ったプレイヤーが999、そして1000になる?』と言われてます。


で! つまりレベル1000はタイマンなら私でも勝てぬということ!


まさにカンストを越えたカンスト! 廃人を越えた廃人! つまりは廃神ですな!!


上手いこと言ったぞ私!!


ちなみに達成できたのは全プレイヤー中たったの12人!


『勇者』阿亜吾鐚(ああああ)


『世界の書』バックアップ


独り(ボッチ)軍団(レギオン)』チェス


『ラグナロク』ヨツンタルタニヴン


『宇宙☆魔砲☆少女』カオス・オブ・ダーク・ゼッ○ン


撃墜()天使』ボクレ・ベルフォウ


『破天』トールギス


寝落ち夢落ちツキが落ち『御後がよろしいようで』


『平面』(ドット)


神殺医(しんさつい)』ンメス


『刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀』力カカ


『陽光の戦乙女』トリニティ


です!


どいつもこいつも無くて七癖一人で嵐二人で災害三人よれば天変地異と下から上まで無茶苦茶な方々!


その内の一人がここに!


……正直嫌な予感しかしませぬ。


ちなみにこの人、過去ドシンさんのやらかした『火の七時間』を一人で止めた超実力者。


ビーム撃ちまくる巨人(タイタン)の軍勢をたった一人で。


……フツーに無理ですって。


ちなみに止めた理由は『如何なる理由あろうとも戦争を粉砕し隊』のギルド長だからだそうです。


名前の通りのギルドですよ。


だいたい『英雄達』ってホント好き勝手やるんですよ。


『ラグナロク』は『独り軍団』と毎週のように戦争起こしますし、『勇者』は魔王系のボスをソロで狩り続けてましたし、『宇宙☆魔砲☆少女』はテキトーに爆撃を繰り返す、『撃墜天使』は高高度から自由落下して地面にめり込む。


なにやってんの?みたいな人ばっかり。

奇人変人の類いは、理解に苦しみます。


「ま、とりあえず――――――」


トリニティさんは膝をつき手を組んで目を閉じて祈るような、いえ、実際祈る体勢に。


その姿は先の粗野な姿が嘘のように神々しく、まるで神話の聖女のようで。


すぐに天から優しい光が辺りに降り注ぎ、私達を、ホテルの中を照らしていきました。

その優しい光に殴られたお腹の痛みが引いていきます。


『慈悲』の奇跡。


奇跡、それは神族に与えられる超特殊スキル。


信じられないですが彼女は『慈悲』の奇跡持ち、つまりは神族のようです。


二つ名から考えて『戦乙女(ヴァルキリー)』ですかね?


そして――――――大騒ぎになりました。


再び鳴り響く銃撃の音、人々の怒号。


「さぁて、止めてくっか、ね!」


一瞬で粗野な女に戻ったトリニティさんはホテルのガラスを突き破って中に飛び込んでいきました。


「「ギャァアアアアアアアアアアアアス!!!!!!」」


癒しの光で復活した『暴食姉弟』もホテルに走ります。


どうやら『慈悲』の奇跡、その中の〈全体蘇生〉を使用したようです。


てかやるならやると言ってください死んでた『自由同盟』の黒服達が復活しました。


…………よし!


「待ってください姉御〜!!」


一生ついてきます!!!




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「パ、パジェロ……」


先ほど粉々に吹き飛んだ誰か、それは、なんと『オフコースギルティ』パジェロさんでした。


ヒロトさんはパジェロさんのもとに走り、彼を揺さぶり起こそうとします。


「パジェロ! しっかりしろパジェロ!!」


……端から見れば確かに感動的なんですがね〜、顔まで覆った全身漆黒鎧の男と全裸のオッサン。


カップリングに悩みます。


つかハードゲイは無理。


「あ、うぁああああぁああああああああああ!!!」


目を覚ましたパジェロさんは飛び起きると錯乱しだしました。


必死に自分の肌を触ったり顔を触ったり。


そうかと思えば血走った目でヒロトさんに掴みかかり、


「逃げろ!!逃げるんだヒロトォ!!!」


「落ち着け! 何があった!!」


「あぁ悪魔だ!! アイツは悪魔だぁああ!!!」


「えぇい! 誰だ!? いったい誰にやられたんだ!?」


「あ、アイツは、アイツは……」


「誰なんだ!!?」


今度は逆に全裸のパジェロさんを締め上げる勢いで問いただすヒロトさん。


ていうかもろ締め上げられた全裸のオッ(パジェロ)さんは、呻くようにその名を告げました。


「ラヴ!! 『異常識人』ラヴだ!!!」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




『異常識人』ラヴ。


その名はWoRプレイヤーなら誰もが知っている。


曰くVRMMORPG史上最凶最悪のPK。


曰く恋人達の守護神かつ嫉妬団デストロイヤー。


曰く出会ったら速やかな自爆推奨。


曰く出会ったら速やかな殺しあい推奨。


曰く拷問大好きサド天使。


曰くスキンシップ大好きマジ天使。


曰く英雄(バケモノ)落ち希望第一位。


曰く|英雄(神)入り希望第四位。


曰く100人のPKKに囲まれ、誰一人逃がさず皆殺しにした。


曰く100人のプレイヤーをノロケ話で砂糖吐かした。


と、いくらでも逸話の出てくる超有名人ですね。


いい逸話に悪い逸話、救ってもらったと言う人もいれば拷問されたと言う人もいる。


しかして一番有名なエピソードは、彼を含めたたった四人で、過去最大のPKギルドだった『ジェイソン&フレディ』を潰し、代わりに『自由同盟』入りしたことですかね。


常軌を逸したその考えと常識を超越した言動と行動、人は彼を、『異常識人』ラヴと呼ぶようになった……そうです。


私は会ったことないんですけどね。


あ、ちなみにパジェロさんは拠点に帰りました。


心身ともに限界っぽかったので。


「『異常識人』ラヴ、ねぇ〜。いったいどんな姿なんですかね」


「え?」


「え?」


どうしましたミドルさん。


「……委員長、私は貴女に『ラヴァーズ』のプロファイリングを渡しましたよね?」


「…………記憶にございません」


ええこれっぽっちも。


「はぁ……我々はどこと戦争していましたか?」


ちょバカにすなし!


それくらいわかるし!


「『ラヴァーズ』ですね!」


「その『ラヴァーズ』のメンバーの顔を知らないでどう戦うつもりだったんです?」


「え? 戦場では逃げる奴はみんな敵で、立ち塞がるのは訓練された敵でしょう?」


「……貴女は産まれる時代と性別を間違えたとつくづく思います」


「いやぁ〜」

照れますな!


ん? 眉間にシワが寄ってるぞ☆


「ハァ……いいですか? 先ずラヴの顔はわかりません。顔の割れてるPKはほぼいませんからね。何故かは知ってますね?」


「えーと、仮面被ってるからですね」


「はい。PK支援組織『マスカレイドパーティー』の取り組みでPKはリアルでの顔バレを防ぐため仮面を着けています。その反面、リアルでのお礼参りを厳禁しています」


PK支援組織『マスカレイドパーティ』、どこにあるのか誰がやっているのか全く正体のわからないPKによるPKのためのPKを支援するための組織。


所属するPK(というか現在全てのPK)は全員支給された、デザイン変更可能な仮面を被っているという厨二組織。


これで零を裂くような殺し名を名乗ってたら完璧でしたのにね!


……何度かスパイを放ちましたが(仮面着けさせたりわざとPKさせたり)全て見破られ放置されたり無限PKされたり。


散々でした。


…………その結果が『メテオ』なのですが。


あんなもの造りたくはなかったです。


しかしこのゲームは今考えても危険すぎるところが多々ありました。


運営の意図は、今はもう次元の彼方ですか。


「次に格好ですが白黒です」


は?


白黒?


「身体の中心線から真っ白、真っ黒に染め分かれたコートを着て、これまた白黒のクマの仮面をつけてます」


白黒の……コート?


あれ? 最近どっかで……


「さらに一人でいることは稀で、大抵恋人であるPK『撃鉄侍』、『歩く戦争』ルリを連れています」


チッ! リア充が……。


……この感じもついさっき……?


あ。


「つかぬ質問をしますがミドルさん」


「なんです?」


「その恋人PKルリって髪は艶やかな背中に流れる黒のストレートでオールバック、三日月の柄が入った仮面に侍みたいな格好、平らな胸ですか?」


「えぇと、はいそうです。会ったことが?」


会ったも何も。


「ついさっき会いました」


あの遠回りに失礼な|爆発物(リア充)!!!


「さっき屋上……で」


カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カンゴトンゴトン、ゴトンゴトン、ゴトンゴトン――――――


「……ょう? 委員長? どうしました?」







……え?


「あ、はい。何の話でしたっけ?」


「……委員長から振ってきた話でしょうに」


「しかしその話が本当ならまずいですね」


あ、居たんですかクロロホルムさん。


「何がだ」


あ、厨二病患者が戻ってきました。


「つまりですね、『自由同盟』は本気で我々を潰しに来ている、ということです。会談中を狙った襲撃は我々が居なければ皆殺しにされていたでしょうし、パジェロさんはトリニティさんが現れなければ間違いなく死んでいた。つまり――――――」


クロロホルムさんは一区切り入れ、重々しく告げました。


「彼らは、本気の殺意(・・)を持って我々を殺しに来てるんですよ」


「そ、そんなバカな!?」


さ、殺意? 殺す気で来ている?


いきなり言われてもピンとこない。


もちろん私はさっき黒服さんやら銃頭さんをぶっ飛ばし、ヒロトさんは彼らを斬り殺してましたがそれはもともと生き返らせる予定でした、『監獄(メテオ)』で。


……ちなみに殺人行為自体はこのグロゲーで慣れました。


サイコグラビティでスプラッタな死体を作ったことも……好きではありませんが。

吐きそうになりましたし。

若干頭が痛くなったので。


だから私は、比較的死体の綺麗な拳による撲殺を好むのです。


「委員長、異世界トリップと言えば?」


クロロホルムさんの質問。


トリップといえば、


「チート、内政、俺TUEEEEE……あ」


ようやく至ったその考え。


つまり彼らは、


「そう、彼らは、『自由同盟』はここでもゲームと同じことを使用としているのですよ。この現実世界で」


正気の沙汰じゃないです……!


「そしてさらに不味い情報、皆さん、ラヴの“種族”をご存知ですか?」


「勿体ぶらないでさっさと言ってください!!」


「ハイ! えーと、『聖天使』の『聖天種』です。一度だけ見たことがあります」


「「「「「「「!!!」」」」」」」



場にいる全員が驚愕に顔を染めました。


ヒロトさんはありえんと呟いてます。


私もにわかには信じられません。


PKが『聖天種』だなんて聞いたことないからです!


『神族』


それは、公式チートとまで言われる最強種族の一角であり、転生の仕方の全くわからない激レア種族。


ゲームではEXBOSSとしても登場しています。


その高いパラメータもさることながら、最大の特徴は『種族スキル』の他に超特殊スキル〈奇跡〉、または〈災厄〉を所持していること。


つまりは『種族スキル』が二つあるということです。


ちなみに〈奇跡〉は神族の『聖天種』が、〈災厄〉は神族の『墮天種』が使えます。


そしてそこから幾つかの種類に分かれ、


〈奇跡〉なら〈慈悲の奇跡〉〈加護の奇跡〉。


〈災厄〉なら〈呪怨の災厄〉〈神罰の災厄〉。

所有できるのはひとつだけですが、そのどれもが卑怯なまでにチート級。


例えばトリニティさんの持つ〈慈悲の奇跡〉なら、回復や蘇生に特化しており、本来蘇生できない状態でも易々と復活させれます。


しかし、〈神罰の災厄〉は反対に辺り構わず手当たり次第な“大規模破壊”のみに特化しています。


そしてもしラヴが〈慈悲の奇跡〉を使えたら――――――


「もしもラヴがトリニティさんと同じ〈慈悲の奇跡〉を持つなら、何よりも優先して彼から倒さなければ……」


深刻な顔のミドルさん。


そう、倒した敵を即復活可能な〈慈悲の奇跡〉は最初に倒さないとキリがありません。

さらに〈慈悲の奇跡〉は遠距離から広範囲に高位の回復を行え、しかもその本体は『神族』ゆえに倒しにくい。


出来れば敵にしたくありません。


しかし、


「いや……」


そこに初めてトリニティさんが口を挟んできました。


「むしろ〈慈悲の奇跡〉だった方がアタシはいいね」


「な?! 何故ですか!?」


再生怪人とか最悪じゃないですかやだー!


「弱いからさ」


しかしてきっぱりと返って来る返事。


弱い? 神族が?


てか貴女が?


「アタシは例外だけど本来癒しの力に特化してるってことは、逆に言えば戦闘力は他の神族より低いってこと……でも〈加護の奇跡〉を持つ神族は」


「強い、と」


「そう、周囲の味方、さらにいざとなったら自分自身を超がつくほど強化できる〈加護の奇跡〉は手強い。だからそのラヴってのが〈慈悲の奇跡〉持ちなら、倒すとしたらありがたいってこと」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「僕の奇跡? 〈加護の奇跡〉ですよ?」


ここはとある場所にあるトンネル。


かなり広く、半円状の空間はコンクリートで補強され●●が走っている。


一定間隔で設置されている蛍光灯のプラスチックのように薄っぺらな光が辛うじてトンネルを照らす。


そこをラヴとルリ、黒蟻は歩いていた。


そしてふと、ただ歩くのに飽きた黒蟻が思い出したようにラヴに「お前って『神族』やんな? 全然〈奇跡〉使えへんけど種類(なん)なん?」と聞き、それに答えたところであった。


「そうなん? 初めて知ってんけど」


「言ってませんでした?」


「コイツが話聞いてなかっただけだろ」


「テメェ……使ってもらった覚えないやろ? 〈時空〉でボコられた覚えやったら腐るほどあるけど。せやから、なんやろなーって気になったんや」


「んー、〈慈愛の奇跡〉だったらエージェンヌさんをその場で生き返らせたでしょ。そのくらいわかれよバカが」


「ルリ、ルリ。なに人の声真似して罵倒してるんです? 怒るよ?」


「ついでやから聞きたいねんけど、お前の種族『聖天使』って“種類”なんや?」


「え? どういう意味?」


「ほらアレやん? 『聖天使』ってルビで名前判断しとったやん? 『聖天使(ガブリエル)』とか『聖天使(ミカエル)』とか」


『天界』のEXBOSSとしてフィールドにランダムで出現する『聖天使』。


数種類おり、いずれも『聖天使』と表されるがルビに様々な天使の名前が書かれている。


運営の表記ミス?と掲示板では語られたが、真実は定かではない。


そしておもしろい特徴として何故か『PKプレイヤーのみ』を能動的に襲うのだ。


それも正当防衛でPKされそうになったから返り討ちにしたプレイヤーは攻撃せず、回復とかしてすぐ消える。


(ちなみにPKKは攻撃される)


WoR七不思議のひとつである。


「あぁそれね。んーとね、『聖天使(ルシフル)』だね」


「「……は?」」


聞いたことのない、しかし有名すぎる名を言われ、「あれ? それって『七天魔王(ルシフル)』じゃね?」とか言おうとした二人は、そのまま武器を抜いた。


ルリがラヴの前に、黒蟻はルリの前に立ち、前方を睨む。


対しラヴは笑みを深めた。


自分達の〈レーダー〉圏内に赤い光点(敵)が幾つも光ったからだ。


金属の硬い足音がトンネルに響いてくる。


暗いトンネルの僅かな明かりの元に彼らは姿を現した。


幾人ものバズーカを抱えた黒服たち。


そして、黒光りするリボルバー頭の『銃面相』がそこにいた。


それを見て、ルリも黒蟻も警戒度を半分だけ(・・・・)下げた。


「あ、みなさんお仕事ご苦労様!!」


その集団に元気よく声をかけたラヴ。


「ハーメルンさんに『一人全役(オールキャスト)』さん! 二人ともありがとう!」


そう、ラヴが『銃面相』と黒服たちを労うと、全員の姿がグニャリと歪む。


『銃面相』の黒光りする銃身も、その昏い喪服もぐにゅぐにゅしだし、青く染まる。


青く染まった体が身体としての形を取らなくなり塊に変わる。


すぐに青い塊が『銃面相』とは違う人型をとる。


再び色が変わり、緑一色の赤い羽根付き帽子を被り、上品な深緑のコートを着て、顔の上側のみ覆う鳩を模した仮面をした女になった。


背中には黄銅色に輝くトランペット銃。


『トランペット撃ち』ハーメルン。


彼女は種族である『氾濫する(ウォーターハザード)水溜まり(スライム)』の〈種族スキル〉、〈変身〉を解いたのだ。


黒服たちがどぷりと黒い水に変わり地にビシャリとひとつの大きな水溜まりを作る。


黒い大きな水溜まりはいつの間にか黒い布に変わる。


そして布が盛り上がり、バサッと中から燕尾服を着た目玉の仮面をつけた青年が現れた。


一人全役(オールキャスト)』。


黒い布を腕にかけ、優雅に礼をする『一人全役』。


反対にハーメルンは駆け出しルリに向かって


「お愛したかったですおねえぇぇさまぁあああ!!!!」


例のフージコチャーン状態で抱きつきに飛びかかった!


しかし辺りに何かがぶちギレる音がしたかと思うと――――――


「死ね」


「うわ素やコイツ!?」


ルリは流れるように迫る手を取り背負い投げ地面に叩きつけ→手足にアーミーナイフ投擲して磔に→両袖からガトリングガン取り出して


「〈装填〉〈エレキ・バレット〉」


引き金を引いた。



「あばばばビギャバババブベレブババアがガガがァああああアああん(はあと)!!!」


「喘いでんじゃねぇ気持ち悪ぃんだよボケェエエエエ!!!!」


しばらく辺りに閃光と嬌声が煌めいた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「いやぁ今回はお疲れさま!! ホント助かりました!」


上機嫌にラヴが笑う。


現在彼らは一緒になってトンネルを歩いていた。


「いえいえ滅相も無いですよラヴ様! すごい楽しかったですし! ラヴ様のサポートで楽々逃げれましたから!」


隣で『一人全役』もこくこくと頷く。


「いやいや、私は何にもしてませんよ。そういう意味じゃあの二人もよくやってくれましたね……お中元送っとこっかな」


ラヴは少し思案し呟く。


「いっぱい手に入ったからな〜四人くらい送ろっかな〜」


しかしすぐにルリがたしなめるように口を開いた。


「あ? おい何のためにあいつら誘拐したと思ってんだよ」


「ん? なんとなく?」


「ハァ……あのなぁ」


きょとんと返すいつも通り適当なラヴにルリがため息をつく。


「人質、交渉カード、爆弾に無惨にバラして精神攻撃に盾、なんでもできるんだぜ? それをお前お中元って……」


「でも“彼ら”が協力してくれなかったらこの杜撰な作戦成功しなかったんですよ? ボーナスは付けなきゃ!」


「まぁ……ま、いっか。バレんなよ」


言ってみたものの、そこまで重要でもなかったかとルリが引く。


「もちろん! ん? 〈コール〉だ」


「ピッと! もしもし? あどーもどーも!!! この度はホントにありがとうございました! えぇ、えぇ、ハイ! え? あ大丈夫ですハイ。え?…………へー……はぁ……ふむふむ。あ、はいりょーかいです! 『私法機関』は……帰りましたか。ええ、あなた方はそのままで。はい! またいずれ! あ! そうそうチラノスさん! 今回捕まえた『私法機関』の内四人ほど謝礼と言ってはなんですが差し上げます! いえいえほんの気持ちですから! はい! 女性と男性ならどちらが……あ両方。レベルは……高め。はい! では今から送りますね!」


長々とマシンガンのように喋ったあと、ラヴはその辺の空間に頭を突っ込み(・・・・)


『おーい! プレゼント用に分けてたやつ、そうそれそれ、62番の扉から渡しに行って!』


『Yes,Master』


また首を空間から引き抜き、


「今送りましたよ! あ、着きましたか! はい、ではまたいつか食事に行きますね! それでは〜!」


かなり高いテンションのまま〈コール〉を終えたラヴ。


「……結局なんやったんこの作戦?」


そこへよくわかってない黒蟻が、今回の“作戦”の全容を聞いた。


その黒蟻の質問にニヤニヤと楽しそうにラヴは、


「んー? 知りたい? 聞きたい? 教えてほしい? どーしましょーねー!」


もったいぶった。


「(イラッ)……やっぱえ「オッケー特別に教えてあげます!!」……フゥ……」


またひとつ何かを諦めた顔をして黒蟻は疲れたため息をつく。


そんな黒蟻を無視しラヴは、


「でもそれはちょっと待ってくださいね。ほら、ついたし」


大きな大きな鋼鉄の門の前で立ち止まった。


門には『この門をくぐる者、一切の理性を捨てよ』と彫られていた。


彼らが門の前に立つと、


『合言葉を。一人ずつ前へ』


放送がかかり、門の上のカメラが彼らを捉える。


「じゃあ、私から」


そう言ってまずラヴが前に出た。


放送がかかる。


『愛国者は』


「ろれるりら!」


『通ってよし。次!』


淀みなく答えたラヴに続いてルリが前に出る。


『オービー、ダービー、バービー、正しいのは?』


「オービー」


『通ってよし。次!』


今度は黒蟻。


『―――元気ハツラツゥ?』


「オフコースや!」


『通ってよし。次!』


次はハーメルン。


『オ○ナミン♪』


「DV♪」


『通ってよし。次!』


最後に『一人全役』。


『―――お前の恋人と両親が誘拐された、どちらかしか救えない。で、どっち選ぶ?』


「…………」


『通ってよし。地獄の三丁目、『黄昏トンネル』へようこそ……』


プツッと言う放送の切れる音。


順々に門をくぐった面々は、


「じゃ、行こっか!」


再び門の外へ出た。


そして扉の横、半円描くトンネルの壁に手を置きラヴは唄うように“合言葉”を告げる。


「『僕らの顔を見てほしい』」


またも放送、今度はずっと近くで囁くように。


『顔色が悪いな』


「『外の空気は苦いから』」


『それは良くない。さあ早く中へ』


音もなくコンクリートの壁に、穴がグパリと口を開いた。


そのまま全員が中に入る。


最後尾に居た『一人全役』が穴をくぐると、穴は元通り閉じ、後には継ぎ目すら残らなかった。


中では一行が黙したまま暗い道を進む。


だがその先には先程と違い光がある。


光に向け一行は進みやがて――――――



「うふふ、つい二日前に来たのにもう随分来てない気がするよ」


たどり着いた。


振り返ればそこにはトンネルの開いた岩山があり、辺りは緑豊かな森。


辺りは暗く、しかし色とりどりの光球が妖精のように飛び森を幻想的に彩る。


さらに少し進んで森を抜け、丘の上へ。


上を見上げても空はなく、黒い岩肌が見えるのみ。


何故ならここは地下だから。


月の代わりのような巨大な光源が浮き、ゆっくり動いている。


目線を下に向ければ、そこから華やかな、そうきらびやかで華やかな街が眼下に広がる。



赤レンガで建てられた街並みに色とりどりの花が飾られ、通りには屋台があり、喫茶店で楽しげに会話する男女や酒場で騒ぐ者達、はたまた威勢よく商売する人達もいる。


街全体の光が暗闇を照らし地下であるのを忘れそうになる。


まさに眠らぬ街。


奥には大きな闘技場(コロッセオ)や塔の形をしたダンジョン、漆黒の鋼と透明な水晶で出来た要塞が暗くライトアップされ、荘厳かつ圧倒的な存在感を浮き彫りにしている。


また別の、遠くの街角はお祭り騒ぎで、道行く人々は皆笑顔で武器を振り回し殺し合っている。


爆炎轟音ここまで聞こえる街の喧騒絶えぬ音楽悲鳴嬌声歓声哄笑。


ここは、人によっては酒池肉林と阿鼻叫喚で支離滅裂な地獄の楽しめる天国のように心地好い街にして万人にとっては魑魅魍魎悪鬼羅刹が我が物顔で跳梁跋扈し躍り狂う狂気と衝動の街。



そこは、『PK王国』と呼ばれている。




今回すこしお遊びがすぎたかも。


あと視点がコロコロ変わって読みにくかったかもしれません。


『英雄達』はポ○モンで言う伝説のアレなので滅多に出てきたりしません。


トリッシュさんは……おいおい説明です。


ご意見、感想お待ちしております。

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