その撃鉄に愛をこめて
『ではこれにて……』
『はい、これからもどうぞご贔屓に』
大口の麻薬取引。
いつも通りに港の第三倉庫、をダミーに首都の真っ只中にあるデパートの仕入れ倉庫でトン単位のブツを取引した。
何故かその日は“たまには”みたいな考えのもと、私自身が現場に出た。
まだ組織が小さかった頃はこうやって足で契約を取りに行った。
銃に囲まれたこともあった。警察に見つかったことも、売られそうになったことも。大切な仲間が殺された。ほとんど特攻のような形で仇を取った。新しい仲間が増えた。パイプが、バックが、同盟組織ができた。
そうしてすこしづつ規模を大きくし、今では構成員421人の大組織に成長した。
もちろん、全員の顔と名前も知っている。
アディはカミさんに逃げられた。
ジョットは来週結婚する。
メリッサはもう掃除屋を廃業だ。
チャックはまだ若くて暴走しがちだがいい奴だ。
隣にいるディエゴは組織を立ち上げた頃からの腹心だ。
私は今、とても幸せだ。
たくさんの仲間、大組織、広い縄張り、大量の金。どれも大切な私の財産だ。誰にも渡さない。
あぁ他者の不幸の金額を考えるだけで頬が緩む。
このゲス野郎? 暴言に対する慰謝料を払わせますよ?
きっとこれからも、この素晴らしき儲かる日々が続くだろう。
そう、思っていた。
『……ところでゴルードさん。貴方の部下の方々は、あれで全部ですかな?』
『? おっしゃる意味がよく……』
『ですから、ここの10人と外のスーツ10人と私服の48人と8台の車の64人とホテル待機の14人とセーフハウスの(ジャキッ!!)……おやおや』
『何が言いたいのです?』
袖から飛び出した拳銃を素早く相手に向ける。
訓練の賜物か、部下たちも一斉に動き相手の護衛を完全に封じ込めた。
制圧完了。
逃走ルートは6パターン。
今私達に大きく敵対しているのはゴルサリーノとウルフェミール、それにチャイニーズマフィアども。
こうも直接的に手を出してくるかは(“敵対”から“戦争”に突入するため)疑問だが、有り得なくはない。
しかしここの警察には友人がたくさんいるから多少派手に動いても問題はない。
『もう一度聞きます、何が言いたいのです?』
それに、私の能力を使えば例え敵に囲まれて至近距離からマシンガンを乱射されても大丈夫だ。
故に今考えねばならないのは仲間の心配だけ。
場を制圧され、銃を向けられている男はしかし、未だに余裕を崩さない。
いや、それどころか、どこか壊れた笑みさえ――――――
『仕方ないのですよ……妻と子が人質なのです』
まずい!!
『退避ッ!!』
咄嗟に仲間に叫ぶが、すぐに辺りが光に包まれ、意識が落ちた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次に目を覚ますと、
『ここは……』
『ボス、下がってください』
真っ白な空間。
壁も天井も、どころか床さえ白過ぎて何だか宙に浮いているようだ。
周りには私の仲間が全員揃っていた。
そう全員。
構成員421人全員が私の周りに居た!!
『こ、これは……』
『ボ、ボス?! どうしてここに!?』
『ボスだと? あぁボス! 無事ですかい!?』
『ボス!』
『ボス!』
遠く離れた異国の支部の者や、本社に残していた者、見れば就寝していたのか寝巻きの者も、裸の者も、制服の者も、私服の者も居た。
車の護衛は車両ごと居た。
ただ共通しているのは、全員が武器を抜いていたこと。
支部勤めのクインが聞いてくる。
『ボスも襲撃されたんですか?』
『も?』
『第七支部は謎の機械兵器による襲撃を受けていました。被害は零ですがいきなり辺りが白くなって、ここに』
『そう、ですか……』
似ている。
『こちらは“商船”に乗っていたら上から光が』『自宅に居たときに妙な気配がしたので武器抜いたら、ここに』『うげお前何で全裸?!』『仕方ねェだろ!? 買った女とヤってたら、あの売女ヤバげなことぬかしやがって! ドタマぶち抜いてやったら辺り一面クリームみたいに白くなってこれだよ!』『あぁ旦那様、不法侵入者を撃滅に動いていたらこのようなことに。申し訳ありません、お屋敷をお守りできませんでした』『取り合えず服着ろよ!』『上着貸してくれ!』『断る!!』『あ、フリンジさんお久しぶりです』『おぉ懐かしいな!! 数年ぶりか!』『ボスー、ターゲット殺り損ねましたスイマセン』『どうだ?』『駄目だ通じねえ』『ボスー! 通信遮断されてます!』
やれやれ、ホント元気だけは売るほどある子達だ。
『ディエゴ』
『はい。オイお前ら! 少し静かにしてろッ!! ボスからのお言葉だ!!』
途端にピタッと喧騒が止みこちらを向いてくれる。
すばらしい統率ですね。
『はい皆さん、我々は何の目的か集団で誘拐されましたようです。相手は警察ではないでしょう』
警察ならもう何かしらのコンタクトがあるはずですから。
『取り合えず何故か武器はあるようなのでさっさと点検、戦闘用意。寝巻きのジョットと全裸マンは車にチョッキとスーツくらいありますからそれを着てください』
『『『『『『『ヴィーッス』』』』』』』
『……あと、仮にもカタギの貿易会社のつもりなんだからヤクザな返事は控えましょう』
『『『『『『『ヴィ……え、あ(ザワザワザワザワ)』』』』』』』
『誰もハイって言えないんですか……』
ピンポンパンスポポポーン!!
突如響いた電子音。
私を中心に全方向へ武器を構える部下達。
『何です……?』
スピーカーも見当たらないのに辺りから響いてくる、滑らかだが機械だとわかる合成音声。
〈ご来訪の皆様、本日は『ワールド・オブ・ロード』をプレイして頂き、まことにありがとうございます〉
ワールド・オブ・ロード……聞いたことがあります。
今この多元地球世界で最も流行っているオンラインゲームだとか。
だがプレイ? 何のことだ?
〈この度、皆様は我々『WoR運営委員会』に拉致されました〉
この衝撃的な台詞には部下達は動揺を僅かに隠せないでいた。
たかが民間のゲーム会社が同時に麻薬組織そのものを拉致した、と言ったのだから無理もない。
ふむ、少し話してみますか。
『拉致、ですか。いったい何の目的で?』
〈現在皆様の肉体は凍結し、意識のみをこの世界にダウンロードしております〉
微妙に噛み合ってないこの会話……録音とは舐めてますね。
しかし、凍結? ダウンロード?
〈つまりこの世界は既に電脳世界。その服も武器も肌の感触も紛い物の電気信号です〉
……なるほど、やられましたね。
確かに側にいたディエゴの目を見れば、僅かに“違和感”のある目をしています。
ここが電脳世界ということはつまり、脱出不能の牢獄というわけですか。
〈我々運営が皆様に望むのはこのゲームにおける“悪役”です。皆様、〈メニュー〉と唱えてください〉
『……全員静かにしてろ。〈メニュー〉。っ!』
『ちょボス?!』
『何を!?』
『うるさい黙れ……なるほど、「利用規約」か』
〈そこに書いてありますように“悪役”の皆様には一般プレイヤーと違い特別なギルド専用ポイント、『罪業ポイント』が存在します〉
〈そのポイントは100から始まり一日10ポイント減ります〉
〈0になりますとゲームオーバー〉
〈皆様は死にます〉
『……どうすれば助かるのです?』
どうせ録音でも呟かざるを得なかった。
〈皆様は現在E級ギルド『悪\(^^)/バンザイ(仮)』のギルド員となっております。ギルド員が世間から悪事と見なされる行いをすれば、その凶悪度によって『罪業ポイント』が加算されます〉
〈ただし、皆様には一般のプレイヤーと違い拠点復活が適用されません〉
〈よって戦闘などにより死亡された場合、蘇生されなければゲームオーバー、つまり死にます〉
〈ギルドが潰されてもゲームオーバー、皆様は死にます〉
〈ギルドが潰される条件はギルド長ゴルード様の〈装備〉にある『ギルドシンボル』、『黄金銃』を奪われる、または破壊されることです〉
〈ちなみにギルドシンボルは〈設定〉より変更可能です〉
〈皆様の役割を下記の皆様以外のプレイヤーに漏らした場合もゲームオーバー、死にます〉
ただ白かった空間にパッと四角い画面が現れる。
そこには『凶悪建設(仮)』だの、『わるい海賊(仮)』だのバカにしてる名前のチーム名が並ぶが、その構成員はそうそうたるメンバーだった。
映画にまでなった女海賊や多世界的テロリスト、中には存在すら疑われていた情報屋や殺し屋、災害指定殺人鬼まで。
〈ただし、例外として皆様の正体に気づけた者がいた場合のみ自己紹介をしても構いません〉
〈ちなみに世間から見て道徳的に善いことをした場合、『罪業ポイント』が減ります〉
〈さらにちなみに、『罪業ポイント』が10000000000000000000000ポイントに到達しますとゲームクリア、現実世界へと帰還できます〉
〈なお、一般のプレイヤーとのハンデを無くすため、皆様の〈メニュー〉には特別に〈ネット〉を加えております〉
〈攻略などにご活用ください〉
〈それでは皆様、『ワールド・オブ・ロード』をこころゆくまでお楽しみください〉
それきり途絶える機械音声。
徐々に白い空間がフィールドを形成し始める。
それらを眺めながら、周囲の不安げな視線を感じながら、私は宣言した。
『……必ずここから出ますよ、我々は』
いいでしょう。
今だけは踊ってあげます。
しかしこの借りは、利子つけて返済させてもらいますよ。
必ず、ね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……以上が我々の辿ってきた道です」
「へぇ〜、そんな裏話があったなんてビックリです! しかしそう言われてみれば納得ですね」
「何がだい?」
「いえね? 私たちが潰した『ジェイソン・フレデイ』の人たちを見ないなーって思ってたんですが、死んでれば当然ですね」
「……アンタ、それについて何も感じないのかい?」
「え? えっと……すいません、パッと思いつかないんで後で〈メッセージ〉しますね」
苦笑しながら応えるラヴは、どう見ても罪悪感などは覚えていない様子だ。
それどころか目を煌めかせながら思い出を語りだす。
「でもやっぱりあの戦いで一番楽しかったのはアレですね。ギルド長のジャブジャブさん!」
「ジャブジャブの奴が……どうしたんでR?」
『殺戮鬼』ジャブジャブ。
かつては遭遇したらわき目もふらずに逃げろと言われていた最強のPKであり、現実では『災害指定殺人鬼』に指定され、都市ごと殺人行為を働いていた魔王クラスの殺人鬼(ちなみに人間)だ。
もとい、殺人鬼だった。
「とっっっっっても! 可愛い死に方をしたんです!! あ、見ます? あの時の映像、撮ってありましてね。今でもたまに見て楽しむんです!」
パッと宙にスクリーンが現れ、スナッフムービーを流し始めた。
最初は二人とも愉しそうに殺し合っていた。
だがジャブジャブが動けないようなダメージを負ってからは酷かった。
一方的になぶられるジャブジャブは痛みに歯を食い縛り、しかし時が経つに連れ命乞いを始め、最期には自ら『殺してください』とまで口にしていた。
その映像をラヴは、それはそれは愉しそうに、恍惚としながら眺めていた。
「あぁ何度観ても素晴らしいです!! 誠心誠意真心こめて彼女をもてなして本当によかった!」
一番最後の映像はジャブジャブが泣き笑いの状態で『頭を食べてください』とラヴの足にすがりついた場面だ。
そこでパッと映像が途切れ、スクリーンが消える。
胸くその悪くなるようなものを見たと、『ラヴァーズ』以外の全員が考えていると今度は少し真面目な声でラヴがまた話を切り出す。
「ところで皆さん、これからどうするつもりですか?」
「どうする……とは?」
「そのままの意味ですよ。元の世界に帰る方法を探すとか、皆さんをこんな風にした奴を探し出すとか」
「そぉれぇをぉ、言う必要ある〜?」
どことなく意地悪な調子で問うエニグマー。
「んー、目的がわかってれば協力し合えたりできますよ?それにこの世界には我々だけでなく『私法機関』もいるのですし。ちなみに『ラヴァーズ』はこの世界を旅しつつ帰る手段を探す予定です」
この台詞には全員が困惑し驚愕した。
てっきり『ラヴァーズ』は帰らずに異世界で俺TUEEEEE!!するのだと思っていたのだから。
「え? アンタたち帰るのかい?」
「もちろん。当然でしょう?」
「な、何故です?」
「何故って……学生ですからね。早く帰らないと進級出来ないじゃないですか」
さも当たり前と言いたげに答えるラヴ。
ますます困惑する面々。
そんな彼らの思いなど丸無視でラヴは話を続ける。
「しかし『私法機関』が私たち『ラヴァーズ』を受け入れてくれるか……それが問題です」
「ぬぅ……確かにあの“正義の味方”気取りどもは厄介でR」
「けどアタシら『賊世界』は『私法機関』どもとしばらく事を構える気は無いよ。とりあえずは陸の拠点作りだ」
「それにぃ、ほぉっといたらぁ、勝手に元の世界にぃ帰るんじゃなぁい? ちぃなみにぃ〜私たちはこっちに残るよぉ」
「もし元の世界に帰るならどうぞ御勝手に、です。数年も組織ごと行方不明になっていたのですから勢力図は大幅に変わっているでしょう。ならばこの世界で心機一転しますよ。復讐相手も次元の向こうですし。あぁそうだ、行き来する方法がわかれば一儲け出来ますかね」
「我輩もこの世界に芸術の息吹を吹かせねばでR。ただし我輩の目的の障害になるなら」
「消えてもらうだけだよねぇ」
各々動機は違えど基本『この世界に残る』を選んだらしい。
「キャハハ!! 皆さんとっても頼りになりますね! まぁ『ラヴァーズ』としましてもこの世界での情報収集が優先ですからしばらくは大人しくしてますよ」
「それでは結論として『私法機関』は放置、当面はお互いこの世界に慣れることを優先しましょう」
つまり、実質お互いに干渉しあわないことにしようということだ。
「えぇー、ではお客様方、本日の『自由同盟』会合はこれにてお開きということで」
こうして、キャッシュによる閉会の挨拶とともにこの特別会合は幕を閉じた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あ、私はこのままルリとここでランチ食べてから帰りますので」
そう言ってラヴは手元の呼び鈴を鳴らした。
それ以外の面々はラヴを無視してさっさと帰っていった。
明るい太陽の日差しのもと、空中庭園にはラヴとルリと――――――
「つまらんわ〜、やっぱルリの読み通りかいな」
黒蟻が居るのみだ。
〈ステルス〉を解き、空気から染み出すように姿を現す。
「や! スクリーン設置お疲れ様、黒蟻」
「ホンマ打ち合わせなしにあんなんすんなや」
どっかりとそこらにあった椅子に腰かけた黒蟻。
「君なら出来るって信じてた!」
「はいはいそらどうも」
「それくらい場の空気読んでやりやがれ」
「よし殺す。んで? 首尾はどうや?」
刀を抜いてルリに斬りかかりながらラヴに問う黒蟻。
「ふふふ、予定通り。今からさらに次のステップ」
上機嫌なラヴは〈メニュー〉を開いて〈コール〉を選択し、繋がったので開口一番、
「作戦開始だよ!!」
計画の次の段階を告げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
死にルール。
殺されたプレイヤーは『DEAD画面』に移動する。
10分以内ならば蘇生可能。
蘇生の手順は『肉体の損壊を回復』→『蘇生』。
上記の手順を省くと『ゾンビ化』状態になり、辺り構わず攻撃するようになる(浄化で死体に戻る)。
ただし、木っ端微塵になると回復できないので蘇生できない。
蘇生されなかったプレイヤーはゲームオーバー、タイトル画面に移行する。
その後拠点にて復活する。
wikiペデアより引用。
ここはグルメギルド『飽食堂』
の本拠地『HOTEL飽食堂』。
の宴会場。
『私法機関』臨時会議場。
そこは、あまりの出来事に静まり返っていた。
全身の皮を剥がれた誰かが入ってきて、さらに爆発し臓物を焼きながら辺りに撒き散らしたのだから当然だ。
何をどうすればいいのか。
とりあえず言えるのは、この誰かはもう蘇生できないということだ。
仮に、この世界での『死』の後に『DEAD画面』があり、ゲームオーバー後に『タイトル画面』に戻れるなら。
ならば彼は生き返り、拠点で復活するだろう。
しかし、無かったら?
誰かもわからぬ彼は、『死んだ』ということになる。
「……」
皆わかっている。
何かしないといけないと。
だが何を?
まとまらない思考。
そんな、誰もが茫然自失としている中、彼は、この男はいち早く己を取り戻した。
「みなさん聞いてください!!」
『ホワイトナイツ』副ギルド長ムッシュ『こーめー』ミドルだ。
全員の真っ白な頭が自然と彼に意識を向ける。
「この中に蘇生系統の〈奇跡〉スキルをお持ちの方、または知り合いの方はいませんか!?」
それを聞き彼らはハッとなる。
公式チートスキル〈奇跡〉。
凄まじいまでの補助、回復、蘇生が行える、『神族』の『聖天種』のみに与えられる『種族スキル』。
それは『死にルール』を覆し、数多の負傷を瞬く間に回復させ、勇者に力を与え戦況をひっくり返す。
まさに奇跡の〈スキル〉。
もちろん、『神族』の『聖天種』など滅多に見ない。
が、彼らは僅かに希望を見いだした。
「『聖天種』か……顧客にいたっけかな」
レキガンが〈フレンド〉リストを見返し、
「えと、ええっと知り合いに居たかな? 団員に居ましたっけ?」
「残念ながら居ません」
『ホワイトナイツ』が人脈を探し、
「…………」
力になれぬとドシンが項垂れ、
「ひとり心当たりが……しかし……」
「……こちらの団員、知り合いにもいないか」
黒騎士『断罪者』ヒロトも駄目だった。
ざわざわと他のギルド長も知り合いを探すが―――――
「……全滅、ですか」
僅かな希望は潰えてしまった。
この、誰かもわからぬ人物は『死』が確定したのだ。
「せめて『英雄達』に連絡が取れたら……」
「無い物ねだりだ。正体も不明、〈フレンド〉登録してる奴も皆無な連中だからな」
サチの呟きにレキガンが反応した。
「……この人、いったい誰だったんでしょうね」
「さあ……こんなときに無力なのは辛いですが、せめてこの人のご冥福を祈りましょう」
手を組み黙祷するミドル。
サチも目を瞑り手を合わせた。
その場にいた全員がしばし黙祷する。
「…………あれ? パジェロさんは?」
しかしこの事実にはたと気づいたサチの声が沈黙を破る。
そう、これだけ騒いでいるのにトイレに行ったパジェロが帰ってこないのだ。
「……遅いですね。それにこの爆発音が聞こえないわけが―――」
『もちろんさ、一番至近距離の特等席で聞いただろうぜ?』
謎の声。
次いで扉が爆発した。
ぱらぱらと木片が転がり土煙が立つ中、妙にハキハキとした男の機械音声が響いた。
『はいはい「私法機関」の皆様方!! どーもどーも「自由同盟」だ!』
吹き飛んだ扉から次々と入ってくる数人の黒服達。
その全員が黒光りするバズーカを構え、横一列に整列している。
そして破壊された扉からもう一人。
ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ……。
踵にガンマンのような車輪がついた革靴に、黒服より昏い喪服。
くるくると両手の中で回る回転式連発拳銃。
そして同じく回転式連発拳銃の頭。
もう一度。
回転式連発拳銃の頭だ。
人間の頭が乗るべき箇所に黒光りする大砲のようなリボルバーマグナムが乗っている!
よく見ればその怪人の手は鋼鉄で出来ており、眼らしき赤い光が砲口とも言える銃口の奥に二つある。
機械人。
その名の通り、全身完全機械化種族である。
チューンナップされることにより簡単に強くなれるが、常時『五感喪失』状態になる。
そのため視界が常にカメラ越しみたいになったり、赤外線センサーみたいになったりする。
触覚も嗅覚も聴覚も味覚も無くなるので人によっては凄まじく忌避感を感じるだろう。
もちろんそれらは各種センサーで代用できる。
が、例えば嗅覚なら安いパーツで『硫黄の臭いがする』と視界に表示されるだけ。
高いパーツでも布越しに嗅いでいるかのようにぼんやりとしたもの。
ちなみに痛覚は何故かちゃんとある。
出血死のかわりにオイル漏れで動けなくなる。
オイル漏れは動けなくなるだけなので、『ダンジョンでオイル漏れ』→『動けなくなる』→『死に戻りor強制退出によるリセット』→『orz』というのもよく聞く話だ。
『断罪者』ヒロトが驚愕の声を上げる。
「貴様は『銃面相』! 何故こんなところに!!」
『銃面相』と呼ばれたソイツはその質問には答えず、高速で拳銃を回転させながら上機嫌に身体を揺らした(たぶん笑っている)。
「おーおー『黒ムジナ』に『デコ委員長』に『エセドワーフ』! そうそうたるメンバーがそろってるじゃねえか!! こんなところに特攻めなんて依頼人はイカれてやがるwww」
恐らく男と思われる声が銃口から流れ出す。
「答えろ『銃面相』!!」
さらに詰問するヒロトに対し『銃面相』はやれやれと肩をすくめてみせた。
『あーあー相変わらず暑苦しいな「黒ムジナ」のにいちゃんは』
この台詞に『THE委員長』のサチがいち早く反応し、驚愕を露に叫んだ!
「ええっ!? 弟さんなんですか?!」
「違う!!」
「貴女は黙ってなさい!」
「ひぎぃいいいッ!!」
頭を万力の力で締め上げられビクンビクンしているサチを見て、『銃面相』は楽しげに笑う。
『ヒハハハハ!! いやいや、話にしか聞いてなかったがなかなかどーして楽しい嬢ちゃんだ。 いいぜ、嬢ちゃんの面白さに免じてお前たちに「自由同盟」からの要求を伝えよう』
「要求……?」
『銃面相』は(雰囲気的に)ニヤリと笑うと、
『ちょっくら死んでもらえますかね?』
ガチッと拳銃の撃鉄を下ろした。
さらにガッチン!と頭の撃鉄が下りる。
さらに先程の爆破の際に散らばったカードが光りだし、ふわりと宙に浮くとググググと大きくなり形も変わり始める。
光がシャボン玉のように弾け、そいつらが机の上や床に降り立った。
そいつらは、カードでトランプで騎士だった。
成人男性くらいの大きさになったカードのまわりに、紅い手甲具足がふわりふわりと手足のように浮いている。
武装は真っ赤なハルバードにクレイモアを一本ずつ。
そして頭部であろう、これまた浮いた紅い、ハートの飾りの付いた騎士兜からは、ボタボタと涙のような血が流れ出していた。
紙の騎士達はぐっと屈み後ろに跳んだかと思うとすぐに隊列を組み、バズーカを構えた黒服達の盾になるように整列する。
その騎士達を見て漆黒の騎士『断罪者』ヒロトは焦ったように叫んだ。
「近衛騎紙だと!?」
「近衛騎紙?! 何ですそれ!」
「『異常識人』ラヴの紙兵だ! 『モンストロ』の中で見たことがある! 近接特化型の人形だ! 強いぞ!」
『おーよ! 依頼人が買い取った奴を貸してもらったのさってかチャッチャと俺に愛されろ!!〈ビィッグマグナアアァーム〉!!!』
〈スキル〉発動により『銃面相』の頭が更に巨大化し――――――
ガチッッッ!!!!
直径ニメートルの砲弾が宴会場に発射された!!
やっと話が進み、戦闘パートですよ!
……カットするかもですが。
感想をお待ちしております。