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鬼畜外道より愛をこめて  作者: キノコ飼育委員
準備中!☆下拵え中!☆種蒔き中!
55/77

自由同盟の皆様に愛をこめて

リアルが大変忙しくなって参りました。


これからは今回のような不定期更新が続くやもしれません。


それでもお付き合い頂ければ幸いです。



あ、そうそう。


先に言っときます。


この話はフィクションです。


登場する氏名、団体は完全に架空のアレです。


作者は厨二です。



以上を踏まえて、楽しんで頂ければこれ以上なく嬉しいです。

「どうもどうも皆さんお久しぶりですね! 僕が月一回の定例会をサボってルリに押し付けてから会わなかったから半年ぶり? なんにせよ皆さんお元気でしたか? あそーですかそれはそれは! あれ? あれあれ? あれあれれ? 皆さんどうしたんですかまるでハトに豆鉄砲喰われたみたいな顔をして? あ、そうかこの仮面ですね? イメチェンにデザイン変えてみましたが中身はちゃんと私ですよ!!」



ラヴが演説でもするように仰々しく喋りたてる。



だがその場にいる者は完全に硬直し、床に捨てられたままの皮と血まみれなラヴの顔を交互に見つめている。


その反応をつまらなそうに眺め、スッとラヴの後ろに控えたルリ。


ラヴは先程までルリが座っていた席につくとまた話し出す。


「それにしても一体全体何故私を呼んだのですか? ルリがいれば私は必要ないでしょう? それなのに「……てる」はい? 今なんと?」


ぼそりと、場にいる全員の気持ちを代弁したのは先程までルリを恫喝していたあの男。


男は嫌な汗を流しながら叫ぶ。


「狂ってる! お前らは頭がおかしい! どうしたら人の皮をマジに被って変装しようなんて考えられる!! そっちの女もだ! なんで今の見て平然としてやがる!!」


「なんでって……そりゃ剥いだ時に後ろでコーラ飲んでたからだぜ?」


なに言ってんのこの人とでも言いたげに、いかにも軽く返すルリ。


「なんでしたっけ? 確かここに着いた時にいきなり『貴様に断罪を下す!!』っておっさんがハッスルしてきたから飲み込んで一緒にハッスルしたんでしたっけ? で、その時に『私法機関』の様子を見に行こうとして、たまたま剥いだばかりの皮があったから着ていったんです」


雨が降ってきた時にたまたま道端に傘が落ちてたから使いました、とでも言うように。


何の気負いも、罪悪感も、自慢も、忌避も、興奮もなく、ただ当たり前の、ついでに効率を良くしただけだと。


そう、この仮面の男は言っているのだ。


「それにしても酷いですよね、『断罪を下す』なんて。厨二臭いし何よりゲームと現実の区別くらいつけて欲しいものです」


やれやれ、とでも言いたげに肩をすくめるラヴに、男はとうとう“禁句”を告げる……告げてしまう。


「狂ってる、狂ってやがる!! こ、この『異常識じ」


しかしここで状況が一気に動いた……彼らにとって悪い方向へと。


まず男は台詞を最後まで言うことなくぶっ飛んだ。


水平に宙を舞い空中庭園の縁、欄干に叩きつけられ動かなくなった。


それを行ったのはラヴ――――――ではない。


長く、人間の胴体よりもなお太い、大きな吸盤が大量についた触手だった。


その触手の先は、フックの背に繋がっている。


海の暴君『クラーケン』。


それが『賊世界』を纏めあげる女海賊『レディ』フックの種族だ。


「……ウチの新入りが失礼したね。どうかこれで手打ちにしてやってくれないかい」



そういって頭を下げたフック。


それを見て再び石のように固まる自由同盟の者たち。


一組織の長が、それも構成員500人超のS級ギルドという巨大な組織の長が頭を下げたのだ、それも当然だ。


しかし反面、“正しい判断だ”とも考えた。


何故なら彼女の手下の男が、ラヴに対する『禁句』である『異常識人』と言いかけた瞬間。


空気が歪んだ。


どぷんと、触れるだけで身が腐る腐水のように退廃的な空気が瞬く間に場を侵す。同時にその暗い水底に引きずり込まれるような引力が絡みついてくる。


その発生源は、いつも以上に爽やかで、陽気に、優しく喋り出す。


「いえいえ! 全然全くこれっぽっちも気にしてませんから頭を上げてください!!」


そう言うと、さっきから男が立っていた場所をガリガリと、まるで何かを探すかのように四方から引っ掻いていた幾本もの木の腕が、スルスルと音もなく床に沈んでいく。


そして彼らはようやく思い出した。


かつて自分達と同じ境遇の組織がもうひとつあったことを。


自分達の中で最もイカレていた者達のことを。


そして――――――




たった四人の子ども達に凄惨に虐殺されたことを。



「それで? どうして呼んだのかいい加減教えてくれませんか?」


人差し指を仮面の頬に当てコテンと首を傾げるラヴ。


いちいちコミカルに動くラヴに答えたのは最初に司会進行をやっていたキャッシュ。


妙にのろのろとした動作で懐から懐中時計を取り出し、側面のツマミを覚束ない手でクリクリしながら言う。


「……緊急も緊急の事態だったから一応ギルド長全員が集合しないと内外に示しがつかないからです」


「へー、しがらみって面倒ですね! あれ? でも嫉妬マスクさんは?」


「連絡がつかないのです。我々と同じくトリップしているはずなので、恐らくは……」


キャッシュの様子を見てラヴはハッとし、悲しげに、しかし気丈に言った。


「そう、ですか……でもきっとしぶとく復活しますよ! 今までもそうだったじゃないですか!」


「「「ッッッ!!!」」」


この発言に、ルリを除く護衛も含めた全員が喉をひきつらせた。


この優しい健気な発言にほだされたから、ではない。


ラヴが嫉妬マスクの名を出した瞬間に圧力二割増し。

嫉妬マスクが死んだかもしれないという発言で圧力さらに三割増し。

その後の世間一般的に“優しさ”分類の発言で一気に五割増し。


もはや空気が歪むどころか幻覚すら見えそうだ。


護衛達は渾身の自制心でラヴへの攻撃を押さえていた。


それにキャッシュは


「っ!……そうでございますね」


組織のボスとしての意地と根性で返答する。


ダ・ピッホもフックもエニグマーも内心を押し殺し素知らぬ顔だ。


ただし、ルリだけは仮面の内を恍惚に歪めつつ、護衛達が攻撃してきた時のために迎撃用意をしていたが。


そんな彼らを露とも知らず、明るくラヴは話し出す。


「それにしても安心しました!」


「何がです?」


「僕はてっきりこんな状況下に置かれて不安がっている少年少女をよってたかって食い物にしようとしているのかと思ってましたよキャハハハ!!」


その言葉に忌々しげにラヴを睨みながらフックがけん制をいれる。


「……だったらどうなんだい」


「ん〜、そーですねー…………」


ラヴがしばらく思考した後、


「……キャハハァ」


仮面の裏側から漏れたその笑い声に、そこに秘められた身の毛のよだつナニカに彼らは再び背筋を凍らせた。


「あ! そうそうキャッシュさん! 貴方の新作『キャッシュ・パラライズ』、とっても良かったですよ!!」


「あ、ありがとうございます。これからもどうぞ『越後屋』をご贔屓に」


「ところで先程から何を弄ってるんですか?」


「い、いえちょっと……あ、〈コール〉が掛かって来たので少し失礼いたします」


そのままキャッシュはぎこちない笑顔を浮かべたまま席を離れ、エレベーターに乗って下へ。


「ふーん……まぁいいです」


さほど興味がなかったのか、ラヴは<アイテムボックス>から自分用の紅茶を取り出し、『国家コーラ』の缶を後ろのルリに渡した。


「ねぇ〜、ラヴちゃぁん」


そこにのろのろと嫌に間延びした声が、エニグマーからかけられる。


「はいはい何ですかエニグマーさん!」


「君ってさ、()?」


だが間延びした口調とは裏腹に聞いてきた内容は詰問だった。


それもただ者でないことを確認、いやいっそ弾劾するかのように切り込んできた。


しかしそんなことを言われても何のことやらなラヴ。


「へ? 何って、なんですか?」


「氏名やご職業聞いてるんじゃないよぉ? 君というぅ正体がぁ聞きたいんだよぉ」


「正体って……ただの人間の学生ですよ? 」


戸惑いながらもラヴが否定すれば、


「さぁっきぃ下にいる仲間からぁ連絡が来てねぇ〜、皮の無いだぁれかさんがぁ爆弾で弾け飛んだってさぁ」


「へぇ〜、物騒ですね」


そこへうっすらと汗をかいたフックが口をはさむ。


「だいたい、裏の人間ですらないただの学生が、こんなモノ(・・)を出せるわけないだろ」


「こんな、モノ?」


首をかしげて心底わからないといったラヴ。


そこにダ・ピッホも加わる。


「とぼけるなでR。少なくとも裏に何のかかわりもないはずがないでR」


場にいる全員がそんなことを言い出し、困惑したままラヴは返答を返す。


「と、言われてもですね……僕は別にオレンジの髪の死神代行でも、完全無欠な生徒会長でも、負完全な旧裸エプロン現手ブラジーンズ先輩でも、下克上した生徒会庶務でも、その友達の理由有りきのなんちゃって殺人鬼でも、百鬼夜行率いる若頭でも、赤ちゃん背負った番長でも、影の薄いバスケ部員でも、正体不明なアメフト部員でも、二重人格の闇のゲーマーでも、徐々に奇妙なリーゼントの不良でもないんですよ?」


↑全員スルー。


フックが聞く。


「親はマフィアかい」


「いいえ?」


ダ・ピッホが聞く。


「爆弾を作った経験はないでRか?」


「いいえ?」


エニグマーが聞く。


「現実で人を殺したことはぁ〜?」


「ある訳ないじゃないですか!」


さすがにこの質問にはラヴも本気で驚き否定する。


ラヴの後ろでルリが「ブフッ!」と吹き出していたが。


エニグマーが視線を向けるが、ルリは仮面の口元を隠しながら何でもないとヒラヒラ手を振るのみ。


その間、顎辺りに指を当て考えていたラヴはいくつか得意分野を挙げていく。


「ん〜、敢えて言えば……私は手品が得意です」


「それじゃないわね」


「じゃあ身体がとっても柔らかいです」


「それじゃないでR」


「声真似ができるでR」


「うまいけどぉ、それじゃないねぇ」


そこまで言って、ラヴはふと気づいたかのように


「あぁそういえば……強いて他の高校生と違うところを挙げれば……僕の父は教会の神父だったのです」


「……人身売買でもしてたのかい?」


「まさか! 敬虔な信徒でしたよ。でも死んでしまいましてね」


「……まぁさか」


たらりと、フードの中で嫌な汗をかいたエニグマー。


しかしラヴは躊躇いなく爆弾を放り投げた。


「だから、今は僕が代理で神父やってます」


「嘘だろう!?」


全員驚愕し、真っ先にフックが否定する。


「ちなみに司祭免許持ってます」


「嘘でR!!」


「ちなみに宗派はキリス「ラヴ様!!」あれ? キャッシュさん、どうしましたそんな血相変えて」


無自覚でファインプレーをかましながらキャッシュがエレベーターから降りてきた。


「……説明していただけますか、何故私の部下達(ファミリー)をあのようにしたのかを」


「あのようにって……これですか?」


パチンとラヴが指を鳴らすと、宙にスクリーンが開き、階下の映像が映った。


「これは……あんたがやったのかい」


絞り出すようにフックが聞いてくる。


今日だけで何度目になるかわからない驚愕が彼らを襲っていた。


余りのことに青くすらなる。


「ええ! 美しいでしょう!!」


そこには廊下の壁際に並べられた十字架の群れが映っている。


それは、まるで畑の案山子のように内側から十字に貫かれた人の群れだった。


さらに苦悶と絶望の呻きが映像から流れ出る。


そう、彼らはまだ生きているのだ。百舌鳥の早贄のように。


「……今すぐに降ろして貰えますか」


「はい、〈罠解除〉」


拍子抜けするほど呆気なくラヴは“十字架”を解除した。


ずちゅりと肉のぬめる音が画面から流れ、腕を貫いていた槍が身体の内側に消える。


身体が下がり黒服達の足が廊下に着くと、縦に貫いていた槍が引き抜かれ床に沈んだ。


芯を抜かれた黒服達は廊下にバタバタと倒れていった。


「それで、アレは当社に戦争を仕掛けたいと?」


「まさか! むしろ回避するためにしたんですよ!」


心底心外だと否定するラヴ。


「……なんですと?」


「めんどくさいですが貴方の仰る通り私も一応『ラヴァーズ』の長、いきなり襲いかかられヤられっぱなしじゃあ『ラヴァーズ』の皆はともかくとして私の可愛い友人達(・・・)が大騒ぎして戦争を仕掛けるんですよ……困ったものです」


白黒の仮面がグニャグニャ曲がり、コミカルな『コマッタコマッタ』顔をする。


「……しかしあそこまでする必要が?」


キャッシュは未だ眼だけが凍てついた微笑を浮かべたままだ。


それにラヴは大袈裟な身振りで反論する。


「ありますとも! 偉い人はおっしゃいました、『右の眼をえぐられたら、左の眼も捧げなさい』、と」


「……で?」


「つまり逆に! 右をえぐったら左も責任持って抉るべきなのです!! だから、縦に貫いたら、次は横です!」


「支離滅裂ですねえ……!」


とうとう微笑に罅が入り始めたキャッシュ。


「理路整然ですよ?」


ラヴの仮面がまたもグニャリと曲がり、ニヤニヤした笑顔に変わる。


「戦争ですか?」


キャッシュの両袖から黄金のデザートイーグルが滑り出る。


(あい)し合うなら大歓迎です!」


いつの間にかラヴの右手には白いナイフが、左手には黒い針が5本づつ。


またも正体不明な圧力がキャッシュを襲うが、今度は怯まなかった。


何故なら、自分の大切な、こんな状況になってもまだボスと呼んでくれる大切な部下(ファミリー)が傷つけられたのだ。


その怒りは、大きな力と勇気を彼に与えていたのだ。


ラヴの後ろでは背中合わせに黒服と睨み合うルリ


瞬く間に一触即発の雰囲気。


だが。


「そこまでにしな」


ゴシャアン!!と、空から50メートルはある巨大な錨が降ってきた。


それにより二人が分断される。


巨大な錨は『レディ』フックの一際長く大きなイカ腕に、義手(フック)のように装着されていた


「キャッシュ、アンタの言い分はよくわかる。でも今ここで殺るんじゃないよ。この席での暴力は御法度だ」


凄みのあるプレッシャー、他者を威圧し、従えるのに慣れている女帝としてのオーラがラヴの圧力に割って入った。


さしもの二人も冷静になる。


「……ここはフック様の顔を立てさせて頂きます」


シャッと袖に引っ込む拳銃。


「んー、わっかりました! 僕もこんな偶然の重なった不幸な事故で戦争になるのは辛いです」


煙のように消えるナイフと針。


さっさと元の席に座ったキャッシュが、さぁ話の続きを、としようとしたところで。


ラヴが空気を読まなかった。


「それにしてもフックさん! そんなすぐに暴力を振るってはいけませんよ! 隣人を愛すべきです! それにもうこれはゲームじゃないんですから、誰かに当たって死んでしまったらどうするんですか!!」


「……そうね」


お前少なくともこの皮になったヤツ殺しただろ!! つかいま躊躇なく殺しにいっただろ!! と、その場にいる者の心はひとつになったが、それを口にすることはない。


代わりに、非常に愉快げなルリがまるで告げ口でもするように喋った。


「でもよーラヴ、こいつらにとっては人の生き死には軽いもんみたいだぜ?」


「ふぇ?」


ニヤニヤと、事も無げに、


「―――右から『麻薬王』キャッシュ・ゴルードさん、『連続多世界遺産無差別破壊犯』ダ・ピッホさん、『七界制覇』のジャスミン・フックさん、エニグマーは顔が見えねから知らね」


世界の秘密、その1ピースを喋った。


「!! わかるのですか!?」


これには微笑を貼り付けたキャッシュも驚愕を隠せない。


さらにルリはニヤニヤと続けた。


「わかるもなにも……そっち側じゃあ顔も特徴も割れてる超有名人じゃねえか。そっちのドリルは顔はかけ離れてても主義主張がリアルの『ダ・ピッホ』と同じだし。もっとも、ここ数年で謎の失踪をとげて行方不明って聞いてたけどよー、まさかこんなところでゲームしてるなんてなぁギャハハハハ!!」


そう、最後に嘲笑ったルリ。


その挑発とも取れる態度に、しかしキャッシュは


「違います! 私達を認識(・・)できている(・・・・・)のかを聞いてるのです!!」


微笑を完全に崩して問いただしてきた。


その質問にルリも何かが(・・・)おかしいことに気づく。


「あぁ? ……あー、こりゃ確かにうまくねぇな」


がしがしと頭を掻いて「失敗(しく)った」と呟いている。


「え? ……あぁ!! ホントだ! フックさんがジャスミン・フックさんだ!! 全然気づかなかった!!」


今はじめて気づく意外すぎる真実にラヴは心底驚いていた。


うっすらと額に汗をかきつつキャッシュは続きを話した。


「そう、今まで誰も……数多の世界からの大量のプレイヤーがいるのに誰も我々が誰なのか気づかなかったのです!!」


だがそれは本来あり得ない。


何故ならこのゲームは現実の顔を100%再現するのだ。


仮に芸能人がこのゲームをすればたちまち現実世界と同じくプレイヤーに囲まれるだろう。


そして彼らもまた、裏表は違えど同じく有名人。


ちなみに表側の住人であるラヴが何故ジャスミン・フックの顔を知っているかというと、彼女は映画にまでなった裏表両方の有名人だからである。


「へー、不思議なこともあるんですねぇ」と一人納得しかけたラヴ。


しかしそこに椅子を(ぶっとば)しながら立ち上がったダ・ピッホが怒りを露に怒鳴る!


「不思議などではないでR!! これは奴らの、“五人の天才達”の陰謀なのでR!!!」


「へ?」


もちろんいきなりのことにラヴは戸惑うしかない。


そこにキャッシュが重々しくラヴに告げる。


自分が、自分達が、いったいどれほどの絶望に囚われ、今日まで時を刻んで来たのかを。


「私は、我々は、このゲームを遊びでやっていたのではないのですよ」



そうして彼は語り出す。


自分達がこのデスゲーム(・・・・・)『ワールド・オブ・ロード』に囚われた日のことを――――――




語ろうとした。



が、



「え? あ、うん。遊びじゃなかったんですね。ええ、いいと思いますよ、うん」


いきなり挙動不審になり、後ろのルリとヒソヒソと話し出すラヴ。


ただし丸聞こえだったが。


「(ル、ルリ、どういう意味だと思う?)」


「(そりゃ言葉通りに、命かけてやってたんだろ……ほら、価値観は色々だし)」


「(で、でも有名人だったんでしょ? リア充だったんでしょ?!)」


「(そういう奴に限ってある日ふと虚しくなって何もかも捨てたくなるもんだ……金はいくらでもあるだろうし)」


わかってるよとでも言いたげな、優しい目で(仮面でわからないが)キャッシュを見るルリ。


「ちょっと待ってくださいませお客様!? 何か誤解がございます! 我々はゲームをしていたのではないのです!!」


「そ、そうでR! 我が輩達はこの世界で真剣に生きていたのでR!!」


「え、あ、うん……うん、わかってますはい」


「だぁーー!! だ・か・ら! あたしらは遊びでやってたんじゃないんだって!!」


「わかってます、わかってます……僕が悪いんです。初めて見る異文化につい戸惑ってしまって……」


僅かに俯いて落ち込むラヴ。

時折「まだまだ愛が足りないなぁ……」と悲しげに呟いている。


その肩を叩いて慰めるルリ。

もちろんラヴに見えない角度でキャッシュらを指差し、細かく震えて笑うのを我慢している。


それに気づいていっそ殺そうかと考え始める面々。


それをしないのは裏側の人間であることを匂わせている先程から鋭すぎるルリと、階下の私法機関への警戒。



そもそも彼らは気が短い方ではないが、舐められたままにするような存在でもない。


このガキどもに社会の厳しさを教えてくれようかとも考え出していた。


この異常事態に平然としているのも、多少イカれた子どもがゲームの延長のように勘違いしているだけかもしれない。


こんな政治的な場で好き勝手に振る舞えるのが言い証拠だ。


それに確かにこの気色の悪い圧力には驚いたが慣れればどうということはない!!


だいたいいくら不気味で正体不明な存在でも、今の自分達だって人間を遥かに越える力を持っている。


レベル的には同一。


連合してリンチにかけて脅せば案外――――――



(イケるかも……ねぇ? あっはははははは!!! 実にカスらしい単純稚拙な思考回路です……ま、予定通りですが)


もちろん、そんな考えはラヴの後ろに控えたルリに筒抜けだったが。



(しかし気づいてるんですかね? 自分が必死で恐怖を否定してること、思考がかなり単純で短絡になってること……ラヴの手の中ですね)


ニヤニヤとした雰囲気と楽しげな思考に反し、ルリが彼らに向ける心情はやり飽きたゲームのモンスターの行動AIを先読みしてる気分に似ている。


ようは、“またか”である。


(萎縮、恐怖、逃走、忌避、反撃、憤怒、否定、連合……どの感情もどの行動も、ラヴにとってはただの甘い砂糖菓子ですよ?)


ルリは、瑠璃架はずっとその光景を見てきた。


ラヴの、月光のとなりで。


自分が手を貸さずとも、月光が何もかもを滅茶苦茶にし飲み込んでしまうのを。


(さて、せいぜい月光さんの玩具として、楽しく踊ってくださいね……)



この場で何もかもを知る参謀は、ラヴが仕掛けている喜劇を、ラヴにしか向けない暖かな眼差しで見守った。

団体名は架空です。


団体名は架空なのです。



大事ですよー。

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