朝の挨拶に愛をこめて
顔が落ちている。
可愛い顔
怒った顔
醜い顔
ひどい顔
楽しい顔
溶けた顔
凛々しい顔
崩れた顔
死んでる顔
頭悪そうな顔
強そうな顔
顔
顔
顔
……鏡を見る。
白い、何も、目鼻すら描かれていない顔が映る。
『無』表情。
個性などない。
個ではなく全。
ゆえに『主人公』
……いや、もう違う。
今は違う。
聞こえる。
愛の言葉が。
悲鳴のような、愛の叫びが。
私に色を、性格を、キャラを、仮面を、俺を刻み込む。
意識が浮上する。
ぱちり。
薄暗い部屋に居る。
和室に敷かれた布団の中だ。
「朝……か」
障子から淡い光が染み込んでくる。
(起きますか……ね)
起きようと力を込め、身体に絡み付くものに気づく。
腕がぐるりと首に絡み付いている。
首だけ動かして後ろを見ると、ラヴが眠っていた。
(ククッ……可愛い寝顔ですね)
くかーと眠る彼の顔は穏やかで、昨晩のアレが嘘のようだ。
(さて、起こしま(ギリッ)……あ、あれ?)
いつの間にか腕が締まり始めている。
「つ、月光? 起きてる? 起きてるよな?」
問いかけるが全く反応なし。
どうやらマジに寝ているようだ。
「ちょ、オイ?オ(ギリギリ)い……(ギリッ!!)」
ゴキン!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここはどこぞの厨房。
そこには二つの人影。
「姉ちゃん姉ちゃん、腹減ったよう」
「ん? おぉ弟よ、私も腹が減った。だが少し悩んでいてな」
「何に悩んでるのさ」
「うむ、何を作ろうかとな」
「えー、なんでもいいじゃん」
「そうは言ってもな、せっかくの異世界一日目の朝だ。特別なものがいいだろう?」
「じゃあ満漢全席は?」
「朝からは勘弁して欲しいな」
「フルコース」
「ちょっとな」
「んー、じゃ俺が作ればいいじゃん」
「お前の料理はいつも濃すぎる」
「姉ちゃんのが薄すぎなんだ」
「「…………」」
「ケーキ喰うか」
「そうしようか姉ちゃん」
「それにしても、兄さんはこちらに来てないみたいだな」
「〈ログイン〉状態じゃないしね」
「元気で暮らしてくれればいいが」
「美味しいもの食べてね」
「うむ……そうそう、大口の予約が入ったぞ」
「え? どこから?」
「私法機関からだ」
「……姉ちゃんゴメン」
「どうした弟よ」
「自由同盟からの予約、受けちゃった……」
「…………いつ?」
「…………今日の昼」
「完全に被ってるな」
「完全に被ってるね」
「……ま、なんとかなるさ」
「とりあえずご飯食べよっか」
『偏食』スタッフ
『悪食』チラノス
二人合わせて『暴食姉弟』。
グルメギルド『飽食堂』、ただいま仕込み中。