誓いのハグに愛をこめて
前話で何故魔王が反抗できてるのか、という質問が来たのでその説明を追加しました。
あと、一番最後にも付け足しましたので先にそちらを確認してからご覧ください。
しかしまぁ前話に比べて書きやすいのなんの。
ここは内装がひどく損傷したモダン風の部屋。
そこの床でルリは自身の武装を調べていた。
そこへ、空間を揺らして黒蟻が現れる。
「ただいま〜」
「おう、お帰り〜って、なんだお前かよ」
「お前ほんまアイツ以外に冷たいの」
「たりめぇだバーカ。なんで身内の前でまで生徒会長演じなきゃならねんだ……で?ラヴは?」
「おう、仕事終わったから俺だけ戻ったんやけどな、アッチは今仕上げや」
「ハグ? キス?」
「ハグや」
「てことは洗脳レベル1か」
「本人曰く、“アロマテラピーと様々な演出効果によるリラクゼーション”らしいで。やっとるのは高度な洗脳やけど……ん? フロストとジャックは?」
「フロストは研究活動、ジャックはお菓子作りだとよ」
「パンプキンパイ出ても俺食わんで」
「カボチャジュースもな! ギャハハハハ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドスリ。
腹に、最近よくある全く慣れない熱を感じる。
熱い。
熱い。
下を見ると己の腹に根本までナイフが突き刺さっていた。
そのナイフを掴む細い指、腕、肩、首、そして顔を見る。
「なん、で……?」
相変わらず慈母のような顔を浮かべる男を見る。
「え? 大好きだって言ったでしょ?」
突き刺さったナイフが、横に走った。
そこでやっと声が出た。
「あ、う、うあああぁぁあぁぁ!!!!」
びしゃびしゃと血が腹から吹き出す。
だが高い魔力が直ぐに傷を塞ぐ。
「んふふ♪ 玉座に居たときより回復が早くなってるね! キミ自身が強くなってるのかな?」
足がすくむ、辺りを見渡しても闇しかない。
逃げられ、ない!
な、なんで?
「どうして刺すの?!」
「だーかーら〜、キミを剥ぐするだけじゃないか」
くるくるくるとアイツの手の中でナイフが回る。
「抱き締めて、突き刺して、愛を囁いて、ゆっくりぐちゃぐちゃにしてあげる!!」
がちゃん!
足首に冷たい感触。
見れば鉄の足枷が嵌まっており、枷に繋がる鎖はあの男の手中に。
「よいしょっと」
片足が不自然に上がる。
鎖が引かれバランスを崩して倒れる。
「きゃっ! う、く」
ずるずると鎖が引かれ、ヤツのもとに引かれていく。
床に爪を立てようにもつるつると滑る!
もうアイツの足元に来た。
あの、吐き気のする圧力が私を萎縮させる
嫌だ、いやだ死にたくない!! こいつに殺されたくない!!
どうしてこんなものに一瞬でも安らぎを感じたのだろう、いったいどうして……。
いや、まだだ!
今の私は戦うことができ…………あれ?
たたか……え?
な……い?
「なんで……?」
戦えない。
この人と戦えない。
両掌を見る。魔力はある。身体は回復している。
恐怖で身体はすくむが動くことができる。
でも戦えない。
だって、戦っちゃダメだから。
……………………そうか、もう私には何もないんだ。
だって、さっき死んだから。
立場も対面も部下も誇りも国も死んだから。
今まで私を支えていたものは全部無くなったから。
そう、この人以外。
何の見返りもなく愛すると言ったこの人以外。
ただ母のように愛してくれるこの人以外。
例えそれがどれだけ異常でも。
あぁやっとわかった。
このおぞましい圧力の正体が。
これは――――――。
カチャンと、静かに首輪が嵌められた。
「お前は……友に首輪を着けるのか?」
「うん! 逃げられるのも、裏切られるのも受け入れるよ。ただし逃がさないけど」
「ハハ……ハハハ……」
ふわっと身体を抱き上げられ、いつの間にか現れていた椅子に座る彼の膝に乗せられる。
彼の指が宙を走ると、目の前に蒼い光が集まり姿見になる。
お人形のように私を膝に座らせている、鏡の中の彼と目が合う。
彼は目を合わせたままゆっくりとその唇を私の耳元へ。
「さ、愛してあげるね」
彼のナイフがゆっくりゆっくりお腹に刺さる。
熱い。
熱い。
すごく熱い。
彼の細い指が私の顎を掴んで、鏡ではない彼自身の目をみせられる。
黒い、周りの僅かな光さえ飲み込む深い黒が私を覗く。
あぁ、この瞳を覗いてはいけない。
「大丈夫、怖がらなくていい」
この声にも耳を傾けてはいけない。
「キミは今からたくさん死ぬ」
「でもその度に新しいキミに生まれ変わる」
「最初は少し苦しいかもしれないけどすぐに楽しくなるよ」
「全部終わったら、キミは完璧なキミになる」
「さぁ、力を抜いて。リラックスして」
「僕のことだけを見て、僕の声だけを聞いて」
「僕だけを信じるんだ」
あぁ、この瞳を覗いては、この声を聞いては■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■痛■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ギャア■■■■!!■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■も■止■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■死■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■やめ■!■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■死なせ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■消え■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■助■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■あは■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ははは■■■■■■■■■■■■■■■はは■■■■■■■愛■■■■■■■■■■■■■■■………………。
「やぁ、おはよう!!」
…………。
「……おはようございます」
「気分は?」
「……なんでしょう、とても愛に溢れてます」
「いいね! じゃあその愛、誰に届けたい?」
「あまねく全ての生命に」
「じゃあ特に深く捧げるとしたら?」
「ラヴ様では?」
「だ〜め、僕以外」
……この愛。
この方以外に捧げるなら…………そうだ、あの子に届けよう。
「エージェンヌに、愛たいです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ここは……」
光が収まると、私は森の中に居た。
手には魔王様の愛剣。
先代から受け継がれた業焔の魔剣『イフリート』。
そして、
「『記憶の御珠』……」
蒼い、水晶玉のような球体。
これは想いをこめることのできる珠だ。
手の平でパキンと割れ、中から声が漏れだす。
『エージェンヌ、これを聞いていると言うことは、私はうまくお前を逃がせたということだな』
『そこは私が超長距離転移陣で送った、私にもわからないところだ』
『時間がない、手短に言うぞ』
『我々は負けた。六魔将はお前を残して全て討ち取られた。さらに魔皇が裏切り、民は皆殺しにされ、ドリグンも恐らく死んだ』
『この国での生き残りは、お前だけになってしまった』
『だからエージェンヌ、生きてくれ生き延びてくれ』
『復讐も、助けにも来るな。絶対に来るな』
『どうか、全てを忘れ幸せになってほしい』
『……最後になったが、エージェンヌ。今まで私に仕えてくれてありがとう』
『支えてくれて、本当にありがとう』
シュウと小さく音をたて、蒼い光が消える。
「魔王様……」
待っていてください。
必ず、必ず助けに行きます。
だって、私達は貴女のことを本当に、本当に大切に思っているのですから!!
これにて魔王ちゃん改造完了です。
活動報告で言った開放するルートですね。
しかしやっと魔王編に幕がおろせますね。
相変わらずの亀展開。
もう少しテンポよくしたい今日この頃。
それでは、ご意見感想お待ちしております。