雀百まで踊り忘れずでございます
改編終わってないけど投稿!!
ズルリと引きずり出して最初に〈ゲート〉から出てきたのは、穴。
人の頭より二回りくらい大きな穴。
ってよく見たらコレ銃口だ!?
「ちょ……」
あ、やばい。顔面直撃コースだ。
ちなみに自慢じゃないけど僕はフロストみたいに頑丈じゃないし、黒蟻みたいに不死身じゃないし、もちろんルリみたいに絶対防御はない。
だからこんなに大きな銃で撃たれたら死にはしないまでもかなり大怪我する。
ま、もちろん僕も対策はして「危ねぇ!!」
顔に固いけど柔らかい感触。同時に身体を何かに包まれながら吹っ飛ぶ。
「〈上級バリケード設置〉!! 大丈夫か?!」
非常に頑丈そうな、鋼鉄の壁が形成されるのが包まれた視界の端に映る。
ふわっとした着地。
顔をあげると心配そうな、とっても凛々しいルリと目が合った。
抱きしめるようにしてかばわれたらしい。
うん、キュンと来た。
カウンタートラップを発動すればよかったんだけど。うん、すごく得した気分だ。
「大丈夫だよ。ありがとう、ルリ」
「そうかよかったアイツ殺す」
「すとぉーっぷ!!」
さっさとバリケード越しに鉄砲狭間からさっきの銃口、たぶん魔王ちゃんに拳銃を向けてるルリを慌てて後ろから拘束する。抱き締める形になったけど気にしてられない!
「ちょっと待って!? 僕大丈夫だから! 状況の確認くらいやろう!?」
だいたい彼女がこっちを攻撃してくるのはおかしい。もちろん動機はあるけど状況的には有り得ない。それこそ仲間を生き返らせるのをどうでもいいって思ってない限り。
うん、さっきも録に確認せずに皆殺しにしちゃったんだ。今回はきちんと確認をとろう。
……にしても瑠璃架いい匂いだな。
じゃなかった! いまはちゃんと確認を……そう瑠璃架の体柔らかい、体温も高くてあったかいな……。
えっと、たしかいまから■■■しつつ■■■■を■■■■■して■……あれ?
「ルリ? 耳真っ赤だよ?」
「う、うるさい……いいから離れろ、落ち着いたから……」
んん? ……あ、そうだそうだ。今一応緊急事態?だった。一瞬意識トンじゃった。
「ほ、ほら放せよ」
「ヤダ」
「何でだよ! いいから放し「瑠璃架」…」
瑠璃架の耳元てそっと囁く。
「いいから、ここに、いろ」
「ぁ……は…い…」
「チッ!」
「まぁまぁ、祝福したれや親父さん」
「……もうあの子も、大人になったということでございますか…」
「しんみりすんなや」
ちなみにこの会話の間も絶賛魔王暴走中。
「ヴヴぅぅぅ……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーー!!!」
再び疾る熱線。魔王を囲むように展開された十数の小さな魔方陣から発射される熱線が、四方八方を模様でも描くように切り裂く。
片手に持っていた弾の切れたAKは既にぶん投げられていた。
もう片方に握っていた炎剣も壁に突き刺さり、ブスブスと煙を上げている。
魔王を包む魔力がヘドロのような闇を形成し、巨大な銃をサソリの如く持ちあげ引き金を引く。
バリケードに着弾、轟音。
しかしレベル999の張ったバリケードはこともなげに砲弾を跳ね返す。
バリケードの陰で呆れたように黒蟻がつぶやく。
「何処のデストロイガソダムやねん……つかアレSR用の銃やんけ」
「〈解析〉……ん~『狂乱』状態だね。たぶん忘れてた間にゴースト系にやられたかな? ……あ、学校滅茶苦茶になってる」
制御画面が赤い〈error〉で埋め尽くされてた。
造るの結構苦労したのに……。
そこでとろんとしていた参謀が我に返る。
「ま、えむぴー切れたら速攻で潰すぞ」
『狂乱』状態に陥ると攻撃力がバカ上がりする代わりに敵味方の区別がつかなくなり、10秒に一回自動で攻撃系スキルが発動する。故に『狂乱』状態になったプレイヤーは放置、SP切れたらボコるのが通例である。
しかしラヴはその言葉に対し、なんとも言えない顔をした。
「……あー、無理、じゃないかな……」
「は? 何で?」
「〈アイテムボックス〉の~」
「……ラヴくんはどうして空中を引っ掻いてるんでございます?」
「その辺の説明は後でアイツと詳しくやってや」
「……あった。はい、『スカウター』」
「おう」
近未来的なデザインのモノクルをラヴから受け取り、さっそく起動させる。
「〈解析〉…………なんだこりゃ、まだ、上がるだと……!」
このモノクル、装備すると〈解析〉と同じ効果を発揮し、レンズに能力値を表示する。しかし、測った相手の能力値が高すぎると――――――
ボウンッ!!!!
爆発する。
呆然としているルリをいぶかしみ、黒蟻が自前の〈スキル〉
「〈解析〉……なるほど、こらあかんな」
魔王(笑)
HP24/100
SP9999999999999999999999999999999999999999999999999……
ちなみにWoRではNPCは倒すと名前がわかり、プレイヤーは『この人は~さんだ』と“認識”した名前が表示される。
故に、仮面つけて偽名名乗れば、素顔晒しても同一人物とは思われない。
なお、彼らは誰一人魔王の名前をはっきり覚えていない。
「測りきられへん、バグやなwww」
「なんであんな頭おかしい数値なのかな?」
「んんっ! 取り敢えず黒蟻、アイツを片付け……いや、そうだ」
いいことを思い付いたと言わんばかりの顔でジャックに目を向ける。
「せっかくだから新入りの実力が知りたいな。なあ、お義父さん?」
「貴女にお義父さんと呼ばれたくないでございます!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!! ジャックはまだ〈スキル〉の使い方もわからないんだよ? いくらなんでも……」
「……おやおや、ラヴくん。君にナイフの使い方を教えたのは私でございますよ? あの程度いくらでもどうにでもでございます」
「……本当?」
「伊達に長く死んでないでございます」
バリケードの影から颯爽と立ち上がるジャック。
袖口に指を入れ、スッと取り出したのは―――
「……メス?」
黒蟻にとっては実家で馴染み深い刃物。
薄く白銀に輝き、柄はなく、刃と持ち手が一体となっている。しかしその刃は頼りないほど小さい。
「これでもワタクシ、生前は医学を修めていましたでございます」
「マジで!? 同業の方やったん?!」
「おや? 黒蟻くんも医学を?」
「おう、超巨大総合病院『森羅』の御令嬢様やで」
「ほう! お嬢様ですか……家の子どう思うでございます?」
「親友以上夫婦以下やな」
「見る目があって実に素晴らしいでございます!!」
「…………(ジャキッ!!)」
「無言で銃構えんなや……ちょっとはジョークやねんから」
「死n「(チュ)」……」
突然自分の耳元で鳴った軽い音にルリは一瞬ポカンとする。
その丸く開いた目を後ろに向けるとラヴと目が合った。
「あ、ゴメン」
「………」
「キスしちゃった」
「……………………………………(ボンッ!!)」
「さて、アイツがショートしてる間に話進めよか。で? お前一人でアレ何とかできん? 手伝おか?」
「いえいえ結構でございますとも。あ、そうそう黒蟻くん。君は解剖学はどこまで修めてるでございます?」
「一通りは」
「魔人は如何でございます?」
「……あいつら医学の発展のため言うても死体引き渡さへん……回り回って己らにも益あんのがわからんか!!」
ジャックの問いに苦々しげに黒蟻が吐き捨てるように答える。
「まあそれが宗教というものでございます。しかしワタクシは魔人の解剖も修めてるでございます」
「マジで!? ホンマに!? ちょ、教えてや!!」
「構いませんともでございます。ちょうど被検体も御座いますからね……」
カボチャ頭が凶悪な笑みに歪み、中から蒼い炎が漏れ出す。さながら外へ這い出ようとする悪霊のように。
「生きたまま解剖するにはまず環境を整えます。このように……」
ぱちんっとジャックが指を鳴らすと、少しづつ、しかしあっという間に―――
「……霧、かコレ?」
「えぇ、霧でございます。ああ懐かしきロンドン……死因は伝染病……医者の不養生でございました…………さておき、錯乱している被検体はまず取り押さえるところから、でございます。あぁところで見えますか?」
「俺は見えんで」
「……つまり見えないんでございますか」
「“見える”って言っとるやろ」
「フム、左様でございますか。それでは解剖を続けるでございます。まずこのように目隠し、次に倹体の魔力の流れる動脈をこのように」
ヒュパッ!!シャッ!!
「グガ!!? ガア゛ア゛ア゛アアアァァァ!!!!」
飛び出したジャックが踊るように腕を上へ左へ振るうと、十数本の、古風なデザインのナイフが魔王の身体の各所に正確に突き刺さる。
同時にヘドロのような闇が霧散、SR用突撃銃が床に落ちる。
「飛び道具などで潰します。最初にこうしないと魔人のように魔力の高い存在は魔力尽きぬ限りいくらでも再生して切りがないでございます。魔力の動脈の位置は「男性なら喉仏の下、女性なら顎と喉の間、あとは両性ともに人差し指の下に膝の皿斜め下、肩甲骨の下や」……exactlyでございます」
ぱちぱちと拍手するジャックに「いやいや」と謙遜する黒蟻。
「さて、今貴女が仰ったように魔人の身体構造は魔力のある人間とほぼ同じでございます。悪魔だろうが淫魔だろうが変わりませんでございます。ただ……」
「ゴア゛ア゛ア゛アアアァァァ!!!!」
上から降り下ろされた固く握られた鉄拳を一歩右にずれるだけで避ける。
その拳はジャックのいた空間を素通りし床に大きくクレーターを形成した。
「……このように魔力のある人間と違うのは、角や翼が云々ではなく凄まじい身体能力でございます。魔力を封じたからといって油断してたらあっという間にお陀仏でございます。もちろん、」
叩きつけた拳を闇雲に振り回しながらジャックに掴み掛かる魔王。
それに対しジャックは、右のストレートを外側へかわし、すれ違い様にメスを魔王の脇の下へ潜らせ―――――
スッ
と引く。
「グルッ!? グルアアアァァァ!!!!」
「腱を切り裂けば動かせなくなるのは動物と同じでございます。できるだけ素早く達磨にするといいでございます」
だらりと垂れ下がり、肩が動かないことにさらに激怒しジャックへ飛び掛かる。
しかしジャックは魔王の足をコンッと引っ掛け、濃霧に溶けてしまったかのように目の前で消える。
「ウゥ……!! グルアアアアアアァァァァァァ!!!!」
こかされたことに憤怒が募り、視界の端に蒼い光が見えた、そう感じるや否やそちらに跳躍し光目掛けて拳を突っ込み、拳の頭から肩にかけて左腕が一本丸々騎士剣に貫かれた。
「ギャアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!」
蒼い炎はふわりと散り、またも白霧に消える。
左腕を貫いている剣は挿し木のように腕を棒の如く固定している。
スッ。
右脚に走るほんの少しの痛み、がくんと傾く体。
腕で踏ん張ろうとも両腕は既に使い物にならない。
視界は全て霧に包まれ、そこに時折蒼い光がゆらりゆらり。
その時になってようやく、狂乱状態に陥った頭が恐怖を思い出し、『恐慌』が『狂乱』を打ち消した。
つまり、幸か不こ―――もとい、完全に不幸なことに、正気に戻ってしまった。
「あ、ああ、あれ、あれぇ? なん、なんで?」
スッ。
左のアキレス腱に鋭い痛み。
「ひゃああッ!!! 痛い!? 痛いよ!? なんで」
スッ。
右手首。
スッ。
右下腕腱。
スッ。
スッ。
スッ。
「やめて、やめあッ!! 痛い! きゃあッ!!」
訳がわからない、そう意味不明に次々襲い来る痛みに魔王の顔は言っていた。
尻餅を突いた状態で這いずって痛みから逃れようとするが
ドズッ。
「ひぎあッ!? あ、足が、抜けないぃ?!」
深々と、反りの入ったナイフが足の甲と床を繋ぎ止めていた。
何処からともなく声が聞こえてくる。
―――おっと、しまったでございます。ワタクシとしたことが録に消毒していない刃物を使ってしまいましたでございます。
「ねえねえジャック?僕もやっていい?」
―――どうぞどうぞ、でございます
知らない声、そしてどこかで聞いたことのある声。
壮絶な悪寒が身体を這い上がる。
やがて白霧の向こうに影がさし、その姿が露になる。
それは絶対に出会いたくない絶望そのもの。
絶望は朗らかに挨拶してくる。
「や! おはよ!!」
「あ、ああ、ああああああああああぁぁぁ………さい……めんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
がちがちと震えて、それでもなんとか距離を取ろうと足に突き刺さったナイフを引っ張る。
両腕が動かないので唯一無事な足で柄を蹴るがびくともしない。むしろその振動が痛い。
再度蹴ろうとした足をガッと押さえるように踏まれた。
「ひッ!!」
「ん? 泣いてるの? ……カワイイッ!!」
恐る恐る顔を上げると、あの爽やかで柔らかな、慈愛すら感じる笑顔を浮かべた天使と目が合う。
その天使は、ノコギリを手にしていた。
「“達磨転がし”やろうよ!!」
がしがしがしり。
肩を、動かない腕を、腰を、腹を、頭を、いつの間にか自分を囲むように、霧の中から生えた木製の腕が床に押さえつけている。
その光景はあの光景をしっかりと思い出させ―――――
「いや、いや、……いやああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
死に物狂いで体をばたつかせるが、無意味なのも記憶と一緒で―――
「いや!! やめてやめてやめてやアガァッ!!?」
木でできた拳が口の中に入り―――――
「~~♪~~♪」
ゆっくりと、鮫のようなノコギリの牙がぷつぷつと柔らかな肌に食いつき始め―――――
「~~~♪~♪、ん? 〈コール〉?」
「ハッ、ハッ、ハッ」
口を閉じることのできない状態で引き吊るように呼吸する。
ノコギリは皮一枚噛みついただけで止まっている。
(た、たすかっ、た……?)
「ぴっ、と。もしもーし? あ、フロストか」
『準備完了だボス』
「おっけー、すぐに……ゴメン10分待って」
グッ、
ギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコ…………
感想お待ちしております!!