幕間 その時彼女は―――
改訂無しで出せるのはここまでなので来週はたぶんお休みです。
そう言ってる今も改訂作業は同時進行中。
どのくらい…時間が経っただろう……。
清潔感がありながらどこか冷たく無機質な廊下を、片足を引き摺りながら歩く。
―――壁に寄りかかりながらずるずると進む私を見て、人はなんと言うだろう?
幽鬼?
歩く死体?
―――随分と詩的で控えめな表現だね。やれやれ、カッコつけるのはよそうよ。
……。
―――『負け犬』。これ以上なく私にピッタリな代名詞だろ?
……。
―――だんまり?いいよ別に。私は喋るだけさ。いや、正確には私さえ望めばすぐに聴こえなくなる。それでも聴こえるのはこれが私自身の真実の声だからさ。
…………。
―――それにしても酷いな。あそこまで私の全てを奪っておいて、放置とはね。
そうだね。
―――ぷっ! こういうことにはちゃんと返事するんだ。
……。
―――まただんまり? まぁいいけど。
―――ところで、さ。楽しそうだったね、彼ら。
―――まさに人生楽しんでます!って感じで。
何を言ってる!!
―――言ってる? 正確には“考えてる”んだろう?
な、何を………。
――いやいやいや、このやり取りやめよう? 多重人格じゃないんだ。そもそも対話の形を取ってはいるけど、全て私の独り言だろ?
――その証拠に片方づつしか喋ってないだろ?
……そうだとしても、私はそんなことは考えていない。
――ええとね、もう一度言うけど茶番だからね? あとより正しく言えば“羨ましい”んだろ? 彼らが。
…………。
――自由な彼らが。
……なにも知らない子供時代ならともかく、今は納得している。それに、私にはみんながいてくれた。
―納得、ねぇ……。
―ウソつくなよ白々しい。みんながいてくれた? それがどうした。ただの枷だろ?
違う!! 彼らは家族だ!!それを奴らが殺した!!
―話をすり替えるな。それに私が言ってる“自由”っていうのはまた別だというのも理解してるだろ。
…………。
―“自分に自由”。何一つ嘘をつかずに好き勝手に振る舞う。仮面こそ被っていたがアレほど正直に生きてる方々も珍しい。
「それが■■■■」
そうだろう?
―――………違う
そうだろう?
―――違う!
白々しいぞ?
―――違う違う違う違う違う違う違うちがうちがうちがうちがうチガウチガウチガウチガウチガウ!!!!
オマエは、あの方々に、ラヴ様に嫉妬してるんだろう!?
「ちがぁううぅゥゥアアアアアアアアア!!!!!」
そこらで拾ったコレとその辺にいたスケルトンから奪ったこの黒い塊で辺りに攻撃を撒き散らす。
召喚した炎剣をやたらめったらに振り回し、バターのように壁を斬り裂く。
展開出来るだけの魔方陣を宙に壁のように展開し熱線を放つ。
これだけ速く強力な攻撃、奴らにすら出せなかった。
そのことが尚更私の中のソレを肯定し確信させるようで。
―――な?! うギャアアアアア!!!!!
炎剣が、建物でないモノを斬った感触がした。
そこに熱線を集中させる。
溶け崩れた壁の向こう。
そこに弱々しく燃える火の玉が浮いていた。
ただの火の玉ではない。
スイカよりも大きく、毒々しい黄緑で、そして何より炎の中に苦悶に歪む人の顔がある。
『嘆きと怨嗟の亡霊』。
対して攻撃力も防御力もなく、魔法も弱いためWoRでは場合によっては雑魚として扱われる。
が、しかし混乱、恐慌、狂乱、乗っ取られなどの精神系統の攻撃を放つため、乱戦で不意打ちを喰らうと非常に厄介な相手だ。
ちなみにWoRでの精神攻撃系統スキルの成功率はプレイヤーの脳波を機械がスキャンし精神状態を判定、世間一般で“弱っている”状態だと成功する。あとはビックリするとか。 成功すると脳に電流が流れ錯乱させたり暴走させたり。精神回復系統スキルも同様である。
頭の中に声が響く。
―――よく、わかったな……俺の、存在に……。
息も絶え絶えに響く声。
「当たり前だ、私が、あんなことを、考える、はずがない」
一言一句確認するように言葉が彼女の口から漏れる。
その様はまるで、
―――自分に、言い聞かせてるよう……だな?
「…………」
死にかけの亡霊はそれでもニタリと彼女を嘲笑う。
―――一応言って置くが、私は別に嘘をついた訳ではないよ。オマエの心の闇を、オマエ自身に自覚させてやブッ
小五月蝿い口に魔剣を突き込み、焔で炎を焼き払う。
だが彼女は既に自分の行いにすら焦点が合ってない。
ブツブツと、自身の血に汚れた身を引き摺りながら、ただひたすら己に言い聞かせる。
「……私はそんなことは考えていない。私はそんなことは考えていない。私はそんなこと考えていない。私はそんなこと考えてない。私そんなこと考えてない。私そんなこと考えてない。私そんなこと考えてない。私そんなこと考えてない。私そんなこと考えてない。私そんなこと考えてない。私そんなこと考えてない。私そんなこと考えてない。私そんなこと考えてない。私そんなこと考えてない。私そんなこと考えてないからそれは私の考えじゃない。私はそんなこと考えない。考えない。考えない。考えない。考えない。考えない考えない考えない考えない考えない考えない考えない考えない考えない考えない考えない考えない考えない考えない。私は正しい。間違ってるのは奴等で私は正しい。間違ってるのは奴等だから私は正しい。間違ってるのは奴等でもちろん私は正しい。悪いのはアイツラで私じゃない。私は、悪くない。悪くなんかない」
―――いいやオマエが悪い
それは幻聴だったのかもしれない。
はたまた亡霊の断末魔だったのかもしれない。
それとも、本当に己の声だったのかもしれない。
確かなのは、限界をとうの昔に越えていた彼女は、その一言でぷっつんしたということだけだ。
「う、うぅぅウウヴヴア゛ア゛アアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!」
狂ったように手当たり次第辺りを攻撃し、天井が崩落するのもお構い無しで撃ちまくり、瓦礫に埋もれてもそれを吹き飛ばしてまで暴れた彼女は、何かに身体を引っ張られる感覚を覚えてもまだ暴れ続けていた。
まおー は バーサク 状態 に なった!!
まおー の くなん は 始まった ばかり!!