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鬼畜外道より愛をこめて  作者: キノコ飼育委員
LO☆VE!!
32/77

愛の定義に愛をこめて

一話でまとめれました!


長くしただけですが・・・。


あと今回結構グロイかも。

人によっては生理的嫌悪感を感じます。


超展開もありますし。

超展開は前回と同じく無視で!


それでも良い方はドウゾ!

ここは彼らが現実で通っていた紫苑ヶ原学園。

模造(コピー)したステージ。

の第二特別教室棟5階。


そこにも校内放送が響き渡る。


(ピンポンパンポーン……)


注・古い方の青狸の声で


『逃走中失礼します。これより一時間、一時間逃げきったら君達の勝ち、死なずに済みますしこれは現実です。逃げ切れなかったら君達の負け、死にますが夢なので大丈夫です。

それではオマエラ、頑張って下さい(プツッ……)』


「……デ?まず俺からかボス」


理科室の中から声が聞こえる。


「逃げようともしてないくせに」


対しラヴは廊下に立ったまま。


暗い廊下でラヴの姿は影のよう。


「フン、あの二人ほど特別でなくてナ、こうやって立て籠ることしかできン」


そう言ったフロストはその第二特別教室棟5階をまるまる凍りつかせていた。



(〈チャーム〉無効の装備もつけタ、あとハ……ボスが俺の『真名』を呼ばなければなんとかなル)


そして彼は『真名』を呼ばれないと確信していた。


目の前の男はそういう存在だと信じていた。



「だがどうすル?俺はボスが恐ろしイ。故にテンションが下がりに下がっテ―――――」


瞬間、理科室全てがさらに分厚い氷に閉じ込められ、ラヴを阻むように氷の刃が咲く。


Mr.ヒートの〈プロミネンスフィールド〉と対をなすDr.フロストの〈コキュートスフィールド〉だ。


「凍えてしまウ」


「…………」


「どうダ、絶対零度の空間に入ってはこれまイ?耐性装備にも限度があるだろうシ、教室自体を凍らせたから罠の交換も不可能ダ」


さらに氷のシェルターが教室の扉を閉じんと降りてくる。


それらを見て自分の策の成功を確信するフロスト。


だが、


(仮面を脱いダ……?)


闇の中、影になってよく見えないが確かにラヴは仮面を外している。


だがラヴの仮面に自分のように抑制的な能力は付加されていなかったはずだ。


着けるならともかく脱ぐのは何故だ。


いや、自分が知らなかっただけかもしれないが。


そもそも『ラヴァーズ』に限らず自分の手の内は隠すものだ。


知らなくてもおかしくはない。


おかしくはないのだが―――――


(何だこノ、いい予感(・・・・)ハ!?)


そうこうしているうちにラヴは仮面を外して素顔を晒し、凍れる理科室に入ってきた。


すぐに絶対零度がラヴの体を凍らせ始める。


だが廊下の闇から入ってきた彼の顔には、


狂喜の笑顔も爽やかな笑顔も、まして寒さに苦しむような顔もなく、


「ごめんね」


「……!」


とても安心する慈母のような微笑みを浮かべていた。


「怖がらせちゃってごめんよ。僕はただ、君に触りたかっただけなんだ」


寂しそうに、だが優しく響く声。


強張った心が溶けていく。

恐怖が霧散しその母のような優しい微笑に引き込まれる。


理科室を覆う氷が溶け始める。


一歩、また一歩とラヴが近づいてくる。


頭の片隅でけたたましく警鐘が鳴る。


……だがこの警鐘とはどういう意味だったか?


「ねぇ、抱き締めていい?」


既に目の前に来ている!

早く〈氷結結界〉を…………何故張らねばならない?


ボスは今もあの時と変わらず暖かそうだ。


ダメージは無いとはいえ〈プロミネンスフィールド〉とは逆に〈コキュートスフィールド〉は寒いのだ。


おずおずとラヴが抱き締めてくる……暖かい。


それにとても甘い、いい匂いがする。


甘い甘い、故郷に生えていた食人花の香りだ。


耳元でそっと囁いてくる。


「ね?死ぬのは怖くないでしょ?」


ボスが何か言っているが上手く聞き取れない。


「アァ、暖かイ。昔と同じダ……」


力が抜ける。


瞼が重い。


「少シ……眠イ…………終わったラ……起こしてくレ……ボス……」


「うん。おやすみ、フロスト。君が寝てる間にしっかり食べとくね」


そうして、意識が闇に溶けた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・




ラヴがフロストの身体を抱いている。


血に濡れてよくわからないがフロストの背中から十数本の紅い結晶が生えていた。



どうやら彼の着ている水玉の服、その水玉模様から鋭く尖った紅い結晶が槍のごとく生えている。


その結晶がズルンッ!と引っ込む。


フロストから体を離したラヴは彼の血で真っ赤に染まっていた。


ラヴは血濡れの自分と動かないフロストを交互に見た後考える。


(…………思い出すなぁ……父さんと母さんを……)


幼き日、ラヴに―――月光に人を愛するとは何かを教えた二人。


――いいかい月光、決してしたくないことを人にしてはいけないよ?人にはしたいことだけをするんだ。

父さんをご覧?この人にどれだけ私が好きかを伝えるためにこうやって一生懸命彼女に愛を刻み付けてるだろう?こうして傷口に触ると、私と彼女の確かな繋がりを感じられるのさ。



――いい?月光、決して人を好き嫌いしちゃダメよ。好き嫌いしてちゃ大きくなれないし、何より“一つ”になれないじゃない。

母さんを見て?ボクが好きな彼と余すことなく“一つ”になるために残さず食べてるでしょう?どうしても無理ならせめて心臓は食べなさい。そこに魂がしまってあるから。



――ん?母さんにはしないのかって?


――え?父さんは食べないのって?



――しないよ。


――だって、




――愛してる人は最後に殺すんだから。





全くその通りだと思う。


好きな人には自分の印を刻み付けたいし、好きな人となら一つになりたいのは当然だ。


(だから僕はこれ以上ないくらいフロストを、凍くんを愛したってことだよね!!)


嬉しくって堪らないと、喜色満面なラヴ。


ぶっちゃけると彼はもうここが現実だと理解していた。


だからこそ、本気で殺しにかかる。


仮面をつけると、その口がガパリと開きズラリと生えたキバが剥き出しになる。

そのまま心臓に喰らいつく。


(大好きな二人を先にシて、最後は瑠璃架だ)


びしゃりびちゃりと血が体を濡らす。


一通り食べ終えた彼は歩き出す。


次なる獲物を求めて。


その時、どこからか銃声が聞こえた。


にいぃと仮面が笑い、彼は走り出した。




・・・・・・・・・・・・・・・・




ここは彼らが現実で通っていた紫苑ヶ原学園。

模造(コピー)したステージ。

の生徒会室。


そこで二人は向かい合うように座っていた。


『お掛けになったユーザーは、現在ログインしておられないか、死亡中のため、掛かりません。ピーっと鳴ったら……』


「……死んだな」


「……みたいだな」


「…………死後の世界ってどんなんやろな」


「臨死体験か……生き返られる保証はあるのかね」


「実際目の前で見とったやん」


なに言ってんのお前と言外に告げる黒蟻に対し、ルリは苦々しげに呟く。


「……“反魂法”っつー生き返ったように見せかける術がある」


「誰が俺らに“見せかける”必要があんねん」


「知らねぇよ。だがこの状況、まさか偶然なんて思ってねぇよな?」


「そりゃ無論やな。何かの糸に操られてるようなキモい感じがするわ」


「チッ!フロストの野郎の意見も聞きたかったが……死んじまったからな」


忌々しげに吐き捨てる。


そこに仲間が死んだという悲しみは一ミクロンも感じられない。


「お前のことや、死体からも情報抜き取れるんやないか?」


「流石の俺も死体がなきゃ無理だ」


「……できるんかい」


「まぁとりあえずヤツの暴走を止めねぇと強制臨死体験に直行しちまう」


「そうはいってもや、向こうはこっちを殺せるやろけど、俺らは無理やろ?どうするんや?」


「いや、時間制限があるんだ、行動を阻害すりゃいい。幸いにも材料も一緒に取り込んだらしいしな」


ルリはくいっと顎でソレを指した。


死体。


ゴブリンの死体。


リザードマンの死体。


トロールの死体。


沢山の死体。


廊下にも教室にも校庭にも積み重なった死体死体死体。


「二階から一階、あと校庭は材料の山だぜ」


教室の机や椅子の上に折り重なって小山ができている。


積まれた死体山の頂上でルリは上機嫌だ。


「……あぁ!兵隊にすんねんな?」


対し黒蟻は天井に胡座をかいていた。


「そーゆーこった!〈リロード〉魔弾選択〈屍兵生成弾〉!!」



ジャッキィーンとかいう効果音を背負ってルリが両手にガトリングガンを構える。

銃身がたちまち黒い影に覆われ、その影も時たま骸骨のようなものにゆらゆらと姿を変える。



「オラオラオラァ!!死んでる暇があったらとっとと働けカスどもぉ!!」


足下の死体に向けて乱射した。


「鬼畜の台詞やな」


ひょいひょいひょいと跳弾をかわす黒蟻。


かわされた跳弾は廊下の死体に当たる。


その弾丸の当たった穴に死体は次々に吸い込まれていき、空中に穴だけが残る。

穴は縱向きに伸び、今度は横に開き楕円のような形に開く。


そこからがしゃん!と、城壁で整列しているのと同じ骸骨兵士が出てくる。


あちこちで穴が開き、閉じては兵士が現れる。


「〈全隊整列〉!!」


ルリの命令に従い教室内に整列する兵士達。


その数62体。


廊下にもはみ出ている。


「……そうだ、実験といくか」


「あん?」


黒蟻が怪訝そうな声をあげるのを無視し、ルリは命令を下す。


「この部屋で逆さまになってるヤツを殺せ」


ジャキジャキジャキ!!


「ハァ?!」


一斉にAKを黒蟻に向ける兵士達。


間髪入れずに黒蟻は天井を蹴ってルリの後ろに跳ぶ。

瞬間、自分が今まで座っていた天井が62の銃口に粉砕された。


「おま何してくれとんねん!!」


「フムフム、ここまで抽象的な命令にも反応するか……戦術の幅が広がるぜ」


「無視か?無視なんかオイ?あと、今の銃声聞きつけてアイツヤバい勢いでこっち来とんで?」


「あぁ、俺の〈レーダー〉にも映った。移動するぞ」


「一人で行ってろや。俺は別行動させてもらうで」


「ハッ!好きにしやがれ……って、もう行きやがったか」


ガラガラと天井の一部が斬られて落ちてくる。


そこには既に黒蟻の姿は無かった。


「さて、〈軍隊強化・耐久力〉〈軍隊強化・移動速度〉〈軍隊超強化・攻撃力〉」


骸骨兵士達が緑のオーラに包まれ、次ぎに青いオーラが迸り、最後に真紅のオーラを放つと、それらすべてが混ざり赤黒い深紅のオーラに染まった。


どことなく三倍の性能を発揮しそうである。


その姿を満足げに眺めたルリは、高らかに宣言した。


「ではこれより、死人作戦(オペレーション・リビングデッド)を開始する!!」


宣言してからちょっと赤くなった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




黒蟻は廊下を疾走する。


先程からアトラクションのように罠が飛び出し、刃が、槍が、矢が、弾が、鈍器が、爆風が彼を襲うが、全て彼女に追いつかない。


(変や……何でや……?)


だが黒蟻の表情は晴れない。


(ヌル過ぎる……いつもやったらもっと惨い罠やカンストプレイヤーも即死するような罠ばっか張られとんのに…………しかも“人形”にも“殲車”にも会わへん……何が狙いや)




これは彼女が知らないことだが、ラヴは大好きな彼らをいつもの遊びでなく『初めて』、『本当に』殺すのなら、折角の記念、ゆっくりと楽しみたいと思っていたのである。



(……扉?)


黒蟻の走る進行上、廊下を分断するように両開きの扉があった。



(ま、斬ってまえば同じやな)



そう考えると手の甲から大鎌を生やしサックリと斬り倒して部屋に入った。



バーテンとかいそうなカウンター席。


その後ろにボトルがコレクションされている。


丸い、カードやチップの乗ってるいくつかのテーブル。


何台かのビリヤード板。


そのテーブルひとつひとつを薄暗く照らす照明。


くるくると回る天井のプロペラ。


ダーツ板やミュージックボックスもある。


映画の悪役たちがポーカーとかしていそうな部屋。


だが何よりもまず目を引くのはその部屋が、いや、黒蟻も含めて色がないということだろう。


すべで白黒映画のようにモノクロなのだ。



(ヤバイ!ここは!!)


黒蟻は慌ててもと来た道を戻ろうとするが、そこに元々道などなかったかのように、レンガ造りの壁があるだけだった。


と、突然目の前の空中に文字が浮かんだ。



――やぁ、来たね


くるりと振り返ると、カウンター席に影が一つ。


それをじっと睨み、黒蟻は口を開く。


だが口にした言葉は音にならず、代わりに字幕になった。


――こんなんまで使うとかアホかお前は


――ひどいなぁ、ただ僕は君のことを真剣に愛したいだけだよ


――(舌打ち) そのためにワザワザお前の『階層』に繋げたんか


――もちろん!君の〈影分身〉は厄介極まりないからね、ここなら〈スキル〉は使えないよ……僕以外はね。


その言葉を聞き、正確には字幕を読みつつ黒蟻は考える。


自分の腰、その左右にあるポーチの中身を。


(ポーチに“爆破手裏剣”、懐に“呪毒針筒”、体内に苦無と手裏剣が104つ……アイツがこっち向く前に叩き込んで、壁斬り倒して逃走、やな)


カウンター席で未だこちらを向かないラヴに対し策を練る。


(……とりあえずこれが一番現実的やな、少なくとも戦うのは有り得へん。“あの”〈スキル〉出たら絶対死ぬし……一応〈超振動〉〈体表超硬化〉〈知覚超加速〉起動、や。これなら跳ね返されても片腕捨てりゃ何とかなるわ………ほな、攻撃、開始や)


身体が高速で振動し始める。


いつもなら耳障りな音がこの空間では全くの無音。


字幕にも表れない。


まだこちらを向かないラヴに対し、黒蟻は気軽に、明日の天気でも話すように軽く口を開いた。


――わかったわかった、とりあえず隣ええか?話したいこともあるし


話し~辺りでポーチから手裏剣を引き抜き投擲、いこ~辺りで息を吸い込みつつ懐から竹筒を投げ、もあ~辺りで竹筒が割れて中から毒針がばらまかれ、喉が風船のように膨れ、しの部分で


(マジカル★忍法!!)


――手裏剣キャノン!!



一気に体内の手裏剣と苦無を発射する――――


もとい、口から大砲の砲身が飛び出し(音はないが)ズドンと手裏剣と苦無をばら撒いた。


それらは恐らくラヴの周りで別空間に飲み込まれ、こちらに投げ返されているだろうがそれも折り込み済み。


手裏剣は手前で煙幕代わりに爆破、毒針と手裏剣砲が本命と見せかけて壁に向けて走る。


べっと大砲は吐き捨てる。


どの方向から手裏剣が返ってきてもいいように警戒しながら走る。


ポーチから刀をずるりと引き抜き逆刃に構えて血を吐きつつ倒れる。



テーブルや椅子を巻き込みながら転倒した。


チップがじゃらじゃらと、カードがはらはらと舞う。



――……っぶは!!ッぐぇッぐ……かはっかはっ!!


全身が痙攣し血反吐を吐く。


この間ほんの一瞬。


ようやく大砲は床に落ち、チップも床を転がる。


(何が起きたんや!?内臓破裂?!なんでや!?……まさか!!)


――お前……俺の口(・・・)にゲート開いたんやな!?


――ピンポーン!!


カウンター席から降りたラヴがこっちに来る。


――それよりさっすがだね!あの何気ない言葉からの攻撃、と見せかけての逃走!さっすが忍者汚い!!


――やかましいわヴォケがぁ……ゴフッ!……はぁ、はぁ、で?俺も殺るんやな?


――もちろん!君のことも大好きだからね!!しっかり殺して食べてあげる!


――クハッ!……ヤンデレは、アニメだけで十分や……しかも、今の俺はッグ!…生物とはいえ兵器や、腹壊しても知らんで?


――そこも大丈夫!料理長さんに聞いたら大概のものは食べれるって!!


――あほ、あいつらは、味あったら鉄でも食いよるバカどもや。参考に、したらアカンで?


――うんうん!そう言って身体を回復させる時間を稼ぐ卑怯な君が大好きさ!


――(舌打ち)  気づいとったんかい。腹ん中滅茶苦茶にしおって……これでやっと半分以下以下以下の回復や。しかも筋肉に苦無とか手裏剣入っとるから分解に時間かかって動かれへん……


――よしッ!なら今から殺すね?


――クハハッ!……ええで?親友に殺されんのもわるないやろ。しかもそのかっこで武器トランプのヤツに殺されたとか、冥土の土産に丁度ええわ


――キャハハッ!それじゃっ!!


――おう、またな丹生


――またね有くん!



無音。




無音。





無音無音無音。






――(鼻歌)~っと!うふふ、美味しかった!でもステータス猛毒になってる……解毒薬解毒薬、………よし!次はいよいよ彼女だ!!



上機嫌で仮面の口を拭うラヴ。


かなりテンションが上がっている。


その姿はさっきよりもさらに黒く、姿がシルエットしか見えない。


カラーじゃないとさっぱり見えないような色に染まっているようだ。


ラヴは壁の前に手を翳すと、


――ゲートオープン!『学園』!



壁を押し退けるようにグニュリと両開きの扉が現れる。


――瑠璃架、いま愛に生きます……ってね!


ガチャリと開き、ラヴは学園に舞い戻った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






(ラヴが消えた?)


自分のレーダーに突然引っ掛からなくなった。


〈索敵〉というスキルによりルリは学園内部全てを監視下に起き、自分は安全地帯から指揮を執ろうとしていた。



ここは彼らが現実で通っていた紫苑ヶ原学園。

模造(コピー)したステージ。

の四階。

屋内プール。


監視カメラを破壊し、交換される破壊し続けるようセントリーガンを設置。


入り口付近に土嚢やら有刺鉄線やらでバリケード作成。その後ろに強化した兵士を六人。さらにセントリーガンも。


水中にも伏兵を忍ばせる。


ダミー用に同じものを二体一組で図書室、保健室、職員室に作成するよう指示を出しつつさらに兵士を増やす。


ダミーには爆薬を設置し、引っ掛かったらもろとも吹き飛ばす予定。


そんな万全の状態でさあ来いと思った矢先にラヴの反応が消える。


続けて黒蟻の反応も消えた。


(たぶんあいつは黒蟻の〈スキル〉を潰しにかかったな)


だが好都合。


今のうちに兵士をさらに増やす。


廊下に出ると黒いオーラを放つガトリングガンを階段に向けてばらまく。


跳弾が壁を跳ね回りながら階下に向かう。


この弾丸が当たるか否かは運だ。


だが自分は主人公。


あらゆることが自分の都合に良く動く。


〈メニュー〉を開き〈指揮〉画面を開く。


『指揮下』の表に新たな兵士が加わる。


これがプレイヤーなら名前を押せば〈メッセージ〉が発動する。


バーサク、魅了状態のプレイヤーとNPCには〈移動〉〈攻撃〉〈防衛〉〈支援〉〈索敵〉〈待機〉しかできないが、『部隊編成』することにより部隊は〈索敵〉、三体は〈攻撃〉で一体は〈支援〉のように分けれる。


が、見たところ全員プレイヤー扱いらしい。


おかげで指示を出すのが実に面倒くさい。


新たな兵士全員に周囲索敵を伝え、ついでに〈強化〉、何かあったら連絡するよう伝える。


完璧に準備を整えラヴを待ち構える。


「ま、この主人公様に勝てるもんならやってみろってんだ、ギャハハハハ!!」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「それにしても……全く負ける気がしないのは何故だろう?」


(出会ったころはよくボッコボコにされてたのに……いや今もそうだけど、こういう時は必ず僕が勝つんだよなぁ……もしかして手加減されてる?誘ってる?だったら食べちゃっていいよね?いいんだよね?犯っちゃていいよね?)


自然、ラヴは頬が緩む。


笑みが溢れ、凶悪にわらい、高らかな哄笑を響かせる。


「うふ、うふふふ……キャーハハハハハハハ!!!」


視界の隅に何かが動く。瞬く間に距離を積め頭を壁に叩きつけて粉砕する。


ガラガラと崩れたのは骸骨兵士。


さらに二体、こちらに銃口を向けている。


だがラヴはそれに胡乱気な瞳を向ける。


完全に興味がないといった様子だ。


「んーあー……邪魔だなぁ…………死ねよ」


途端、天井からプレス機が轟音とともに兵士を粉砕する。


〈制御画面〉を開き今現在魂魄が動いている場所を確認する。


「カメラなんて飾りです、みんなそれがわからんのです!」


空間を繋ぎそこに両手を突っ込みガシリと掴んで握り潰す。


引っこ抜いて見れば手の中には白い破片のみ。



「あー……ダミーがひとつふたつ……めんどくさいな」


ピピピピッと魂魄の固まっている部屋を押し、


「ポチっとな」



響く爆音。


「…………プールか」


たったひとつだけ残った反応に空間を繋いだ。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「がはっ、けほっけほけほっ! ……野郎無茶苦茶しやがる」


虹色の塊が蠢き人の形へ、ルリの姿へと変わる。


〈防御〉を解き、跡形もなく吹き飛んだプールを見回す。


「あ~ぁ、バリケも伏兵もダミーも意味無しってか?こっからどうすっかねぇ……いつも通り心読んでもいいですけど、読みにくいんですよねぇ、彼」


(……ついつい嬉しくて“ノイズ”の方を聴いてしまって殺される、がパターンですからねぇ)



そう考えつつ、頭のどこか一部分でスイッチを入れるようなイメージを描く。



(……おやぁ?おやおやぁ?これは通路にいた残りの兵士ですか……こちらの骸骨には魂があるんですね。現実(リアル)では(エネルギー)しか入ってなかったのに……不思議としか言いようがないです)


濁濁と、豪豪と、泥々と、ギュルギュルと、燦々と、頭の中に情報が流れ込む。


(それにしても、あのカス共、まさかあんな意味不明な嘘っぱちを信じるとは……月光さんはいいとしてあのカス二つ……たまに肩の上が寂しいから頭を乗せているのかと思ってしまいますね)



読心(リーディング)技術?


思考の先読み?



(笑)



アホか、です。


(確かに理論上読心技術は単独でも出来ますがそれはあくまで机上の空論、それに黒蟻(カス)の思考がいくら単調でもあの速度相手では思考の先読みなどほぼ無意味)



ならば何故私はあんなことを言い、あれだけあっさりカスを潰せたか。


何の事はない。


魔法やら宇宙人やら未来人やらがいるのだ。



読心能力者だっているさ。


(気とも魔法とも違う第三の超常、つまりは超能力……ま、接触感応と精神感応しか使えませんが心を読めるだけでもなかなか有用です)


そう考えつつ読心範囲を拡げていく。


最大で半径500メートル。その範囲なら何人だろうと同時に読むことが出来るし、今までひとつ例外はあれど読みきれなかった心はない。


例え同じ能力者が心に防壁を張っていようと易々と突破出来るほど、彼女は心を読むことに熟練していた。


(……ん?これはこれは魔王少女くん、ははっ!うまく逃げ回ってたのに爆発に巻き込まれたのですか運がない……本当に珍しいくらい運がないですねぇ!ははははは!!)


保健室の前でぶっ倒れてる魔王も捕捉しつつ本命を探す。


(こういう時は“直感”に頼るに限ります)


直感は自分を裏切らない。


そう考え、屋内プールに繋がるシャワー室に入る。


何となく入りたくなったのだ。


ざっと見回して罠を探す。


「〈サーチアイ〉……?罠がない?…………まぁ丁度いいです」


必ずあるはずの罠がないことに若干不審に思いつつ、個室に入る。


(しかし……一体どこに消えたのです?)


時計を確認する。


まだ一時間経っていない。

いや、そもそも時間が来たら(たぶん)出してもらえるはず。


シャワー室の水色の壁にもたれて座る。


頭の上に丁度シャワーのポツポツとした穴が見える。

この前塗り直したからまだキレイですねとチラリと考え、こっちも塗り直したのかと気づく。


「……来た」


レーダーに引っ掛かる。かなり近くにいきなり現れた。


この階の廊下。

こっちに歩いてきている。


(来ましたねえ、では私も準備をしますか)


スッと立ち上がり、たたらを踏む。


「っと、立ちくらみですか……?」


頭を押さえる。


ガクッと力が抜け膝をつく。


目もかすむ。



「な、何です!?」


(動かない!?なぜ?……!!)


その時耳が何か音をとらえた。


シューシューという空気の抜ける音。


動かない首で上を向く。


その音はシャワー口から聞こえている。


(シャワー室……毒ガス(シャワー)室ですか!)


仰向けになって手を懐の解毒薬に伸ばす。


ラヴはもうプールの入り口に着いた。


のろのろした腕を肩まで使って動かし懐に突っ込む!


必死で探るが見つからない。


コツコツと足音が聞こえる。


ゆっくりとした足取り。


(……!!)


そこで思い出す。


(あ……抜かれたんでした)


フッと顔に影が差す。


恐る恐る、顔を上げる。


「よ、よおラヴ」


ラヴの姿が霞んでよく見えない。


頭の中に耳鳴りがする。


聞こえる。流れ込む。心の声が、絶叫ともとれる声が聞こえる。


自分の大好きな、こんな自分を全て受け入れてくれた声がする。



(好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きいやむしろ愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛だから殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲嬲犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯犯)


胸がドキドキと高鳴る。頬の上気が抑えられない。


ゆっくりとしゃがみ、自分の顔に手を添え。仮面が外される。


「キャハッ!瑠璃架、随分嬉しそうだね」


「……そう……見えますか?」


ラヴも仮面を脱ぐ。


霞んだ視界でもはっきりと、自分への欲塗れの目が見える。


裂けるように紅い唇が開く。


「ねえ瑠璃架」


「優しく死て欲しい?」


「痛くシて欲しい?」


ぞくりと背筋が震える。


それが恐怖によるものなのか、それとも別の何かなのか、




「いた……痛くシてくだ、さい……」



とっくにわからなくなっていた。


 

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