これが俺の種族デ、これが俺の種族やから、これが俺の種族だぜ!
この小説を読む前に三つほど。
1、この小説は『主人公最強もの』である
2、しかし、無敵のキャラは一人もいない
3、主人公たちのなかに多重人格者はいない
という感じです。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
ここは城。
の地獄と化した城壁内部。
の城の大扉の中。
「あれ?」
「ふぅん?」
「あ、やっぱり」
ラヴは破壊された城の大扉を出たり入ったりしてしきりに首を傾げ、三回目で確信に至ってぽむ、と手を打った。
「大きさがデタラメだ」
この城の入り口は少し前に突き出ており、学校の教室を縦横奥に二個ずつ重ねたような大きさだったのに、扉をくぐると、くぐった所から既に大ホールだった。
上を見ても左右を見渡しても、どう考えても縮尺が合わない。
「ん~、これもホルテクの恩恵でしょうかね」
そう呟いてラヴは歩き始めた。
自分の獲物を探すために。
右を向けば何かが這って行った跡。左を向けば血の絨毯。前を向いたら風穴だらけの階段。
「順当に考えて、僕は階段かな?かわいい娘がいたらいいな♡」
そう言って階段を上っていく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方その頃、
歯車に覆われたヘルメットのような仮面を被った白衣の似合う青年、Dr.フロスト。
彼は今困惑していた。
というより不思議がっていた。
「いったい何がどうしてこうなっタ?」
過去を振り返ってみてもさっぱりわからない。
実に奇妙で不可思議である。
彼の視線はあるモノを見ていた。
グッシャグシャになり、脚もいくつか千切れ、紅いモノアイが割れている、無残なテンパランスⅡに。
「……まぁいイ。失敗は成功に付き物ダ。それにやはり精神感応式などというあやふやなモノなど信用できン。これからも俺は手動式を造ろウ」
そう呟くと、興味を無くしたのか、さっさと行ってしまう。
コツ、コツ、とレッドカーペットの敷かれた大理石の床を歩く。
廊下の両脇に等間隔で燭台が並び、薄暗く周りを照らしている。
「ム?ボス部屋カ?」
廊下の先に一際大きな燭台が二つ、轟々と燃え盛る蝋燭を刺している。
にも関わらず、蝋燭は少しも短くならない。
その間に巨大な扉がある。
その前に立ったフロストはポキポキと拳を鳴らし、
「でハ、派手に行くカ」
ゆっくりと扉に手を当て、しばらくしてからノックするようにコンッと叩く。
大きな扉を粉砕して中に入ると、そこには初老の男が一人、たたずんでいた。
使い込まれた鎧を着、幅広の剣を大理石の床に突き刺して柄に組んだ手を置いているその姿は、一種の絵画のような、荘厳な空気を纏っている。
男がゆっくりと眼を開く。
「…………儂は六魔将が一人、ゼファー・ドラルル。儂の息子達を引き裂いたものは何処に居る?」
「息子だト?悪いが殺した相手が多すぎてわからんナ」
「……若い二匹の黒龍だ。二匹とも先の戦いで死んだ」
「黒蟻が殺した奴らのことカ?……黒蟻なら血の跡を辿れば見つかるゾ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なんっで!鎧!ばっかやねん!!」
言いながら周りを囲む鎧たちを手にした紅く煌めく刀で真っ二つにしていく。刃渡り二メートルにも及ぶそれを片手で器用に回転させている。
……もとい、回転している。
手首から先がグルングルン回転している!!
「うっとお、しい!!」
今度は指先からレーザーブレード、肩からは鉛筆のような大きさの小型ミサイルを発射する。
『生物兵器』。
それが黒蟻の種族である。
基本種族をサイボーグ化することが条件の種族『機械人』。そこからさらに派生する特殊上級種族だ。
特殊〜種族とは今のところ派生条件がはっきりしていない、という意味だ。ちなみにラヴの『聖天使』も特殊上級種族である。というか『ラヴァーズ』はメンバー全員が特殊上級種族である。
そんな特殊上級種族『生物兵器』とは、その何らかの条件を満たし、転生クエスト『如月研究施設襲撃』と『生物兵器設計図強奪』をクリアするとなれる。
機械系種族と同様に<改造>スキルで様々な武器を体に仕込め(ちなみに<ステルス>機能もこれにあたる)、さらに他に類を見ないほど体を滑らかに、自在に体を動かせる。
黒蟻はその様々な兵器を使い囲みを崩そうとする。
それでも鎧たちは次から次へとわらわらわらわら湧いてくる。
(失敗やった!!でかい鎧やからさぞたくさん噴き出すやろと襲ったんが安易やった!!)
実際は後ろから真っ二つにしても血どころか空気も出ない空洞で、どこにいたのかという量の鎧にあっという間に囲まれた。
どこの城にも並べられてるような普通の鎧が、別に魔法とか撃ってくる訳でもないただの鎧が、マ○リックスのように集まってくるのだ!!
「<ステルス>!!」
黒蟻が空気に溶け込むように消える。
と、ソコめがけて津波のように鎧達が覆いかぶさり、突撃し、タックルをかます。
中心にいる鎧が踏みつぶされても構わず突っ込み、沈黙とともに積み重なっていく。
もはやうごめく小山となり天井に届きそうだ。
(……おぉ、コワ)
そんな不気味な光景を天井から眺める黒蟻。
天井にペッタリと張り付き、ワッシャワッシャとその場を後にした。
そこ、ゴキブリみたいとか言わない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……ふむ、ここは狭いな。場所を変えよう。ついてこい」
「ほウ、いいのカ?狭いここならお前にも勝機はあるかもしれんゾ?」
「いや、私自身、広いほうがいいのでね」
そのままフロストの横を通り、破壊された扉からさっさと出て行ってしまう。剣は床に刺さったままだ。
フロストも後をついていく。
「あの大剣はいいのカ?」
「あれは飾りだ」
振り向くことなく答える。
やがてまたも大きな扉の前につく。
扉の両脇には悪魔の翼と烏のような顔をしたガーゴイルが松明を掲げ持っている。
ゼファーが扉の前に立つと、ガーゴイルが松明から片手を離し取っ手を掴む。
ガリガリという石を引きずる音ともに扉を開いていく。
そこは闘技場だった。
すり鉢状の客席に天井はかなり高く、周りを囲う壁も高い。必然、客席もかなり高いところから見下ろすことになる。
しかしその客席には誰もおらず、不思議と身の引き締まる静けさだけがあった。
「ここなら誰にも邪魔されまい」
「ふム、それデ?素手でこの俺を相手取るつもりカ?」
「あぁ、その通り、だ……」
一瞬。
瞬きにも満たない時間。ゼファーの体がぶれ―――――――――
グォン!!
巨大化した。
全身に漆黒の鱗が生え、首筋にたてがみが生える。顔は鰐のように尖り、鋭い一角が額から飛び出す。背中からは蝙蝠の翼が生える。
爪は黒曜石のナイフ、すべてを噛み千切る牙を持ち目は血のように燃えている。
「ホウ……ブラックドラゴンkpr」
きりもみしながらフロストは宙を舞う。
ゼファーのトラック並みの足に蹴り飛ばされて。
闘技場の壁に激突し、めり込んでいく。
「キ、貴様ァ……はなしヲ」
目が合う。
壁にめり込んだフロストの目の前に黒龍の顔がある。
その鰐のような口がパカリと開くとゼファーの口の中にギュンギュンと闇のエネルギーの塊ができ、閃光となって解放される。
かつて人間の軍隊を壊滅させた一撃が集束し、ただ一点、フロストのみを貫くように襲い掛かる。
「グオォォォォォォォ!!!!」
5秒、4秒、3秒、2秒、1秒。
雄叫びとともにそれだけ放つと、ゼファーは翼を拡げてフワリと後ろに下がる。
(……おそらく殺っておるまい。プレッシャーが消えておらん)
メチャクチャに破砕され、壁にいくつも走った罅から茶色い液体が勢いよく、血のように噴き出す。
ブシューブシュー、
ブシューブシュー、
ブシューブシューブシューブシュー、
ブシューブシューブシューブシューブシューブシュー、
ブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシューブシュー 、
「……出過ぎではないか?」
ドラゴン形態をとったゼファーは優に30メートルを超える。
にもかかわらずもう膝くらいまで茶色い液体に浸されている。
明らかにあの小さな(注・ドラゴンから見たサイズで)男の容積を超えている。
バゴンッ!!
と、何かが割れるような音に顔を上げると、フロストが突っ込んだ穴の上、客席の一部が上に吹き飛ぶ。
新たに空いた穴の淵に手を掛け、ゆっくりとフロストが這い出てくる。
純白の白衣は見るも無残に茶色だ。
歯車の仮面はいくつも罅が入り、いくつか欠けている。
いや、ぼろぼろと歯車が落下し、崩れ、隠されていた素顔を晒す。
現れた顔は、非常に整っており、 怜悧な美貌をたたえている。歯車に覆われていた髪は月光のように輝く銀髪。
だが最も目立つ特徴は鋭く尖った耳だ。
「……エルフか。それもダークエルフ」
ゼファーは少し驚いたように呟く。
同盟関係にあるダークエルフが相手だったこともだが、たかがエルフが自分の連撃に耐えきったことがさらに驚きだ。
フロストはゆっくり客席の上に立ち、大きく、そしてまたゆっくりと息をついた。
その視線はゼファーを、というより中空を漂っている。
「……フー…ハー…………痛かっタ。それなりにだが痛かったゾ」
ボンヤリと立ったままのフロストだったが、ゼファーはそれに何か異様な雰囲気を感じた。
「…………マ、ボスの拷問よりはマシだナ……それに残念だがレベルが足りなすぎるらしイ。それでは俺は殺せんヨ」
と、苦笑するように肩をすくめる。
「……だがこれはひどくないカ?」
そう言って懐から割れたフラスコを取り出すフロスト。
それは奇妙な光景だった。
下半分が無惨に割れ、そこからジャバジャバと茶色の液体が流れ落ち続けている。
流れ落ちた液体は客席を満たし、溢れ、リング内に伝っていく。
「鯨飲フラスコが割れてしまっタ。おかげで俺の白衣もすっかりコーヒー色ダ」
スイッと視線がゼファーに向く。
「……つまりこれはアレカ?俺に白は似合わないト?ダークエルフが白を着てはいけないト?エルフがゲームしてたらおかしいのカ?魔法得意な一族が科学者目指しちゃいけないってカ!!?」
突然、何の前触れもなくキレた。
「……何を言っておるのだ?」
「っとぼけてんじゃねぇぞクソボケガァ!!!だいたいよくも俺の口上を邪魔してくれやがったナァ、ア゛ァ!!?普通攻撃しねえだロ!!?それともアレカ!?俺の話なんざ聞く価値もねぇクソだってカ!!!?チクショウコケにしてくれやがっテ!!!!ゼッテェ許さン!!ア゛ァァ俺の白衣汚しやがったこト!あれだけ痛い目に合わせてくれたこト!!そして何より俺の邪魔をしやがったこト!!!まとめテ、ブチ込んデ、ブッ殺してやル!!!!」
と、またも突然、フロストの服が燃え上がった。
轟々と燃え上がる。
轟々と燃え上がっているのだがフロストは気にすることもな「暑イイイィィィィ!!!!」……もとい、気にしてた。
「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑いアツイアツイアーーツーーーイイイイイイイイ!!!!!!クソガァッ!!暑くてアツくて仕方なイ!!誰のせいだこんなに暑いのハ!!!って俺のせいだドチクショウガ!!!!クソックソッ、ア゛ァァァァァァァ!!もういイ!!!全部、全部ぜんぶゼンブ、ぶっ殺シテ、ブッ壊シテ、焼キ払ッテヤルア゛ア゛アアアァァァァァァァ!!!!!」
全身から火を、炎を、焔を立ち上げて叫ぶ姿はいっそ狂気を感じる。
だがゼファーはまたもその光景に何らかの違和感を感じた。
今度はその正体がすぐに分かる。
沸騰しているのだ。
周りの、足元の、未だジャバジャバと流れ続けるフラスコの、それら全ての茶色い液体が沸騰しボコボコと泡立っているのだ!!
同時にフロストの姿が一瞬ブレてシュンッ!と黒い塊が大きくなり―――――――――
化け物が現れた。
大きさはゼファーより一回りほど大きい。
隼のように鋭い鳥の顔、だが嘴は凶悪なまでに牙が並ぶ。こめかみには悪魔のごとく捻じれた雄羊の角。五本の指は昆虫の脚みたくギザギザとしていて、爪先はまるで刀剣だ。
全身漆黒の羽根に包まれ、その上からでもわかる筋肉がうごめく。
やはり羽毛に覆われている太い尾がゆっくりと揺れている。
バサリと開いた闇夜の翼には星空のように白い斑点がある。
目は金色に光り、口からは黄金の光が漏れる。
さながら腹の中に太陽を飲み込んでいるようだ。
『グルォA■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■aaaァァァァァ!!!!!』
鼓膜を潰さんとする咆哮と、同時に全身から放たれる熱。
闘技場を満たしていたコーヒーはあっという間に蒸発し、石造りの客席がドロドロと融け、一部では蒸発さえしていく。
ドラゴンでもなければ存在すら許されない空間。
否、そのドラゴンであるゼファーですら少しずつ焼け始めている。
竜すら超える化け物と化したフロストは、ギリィッと闇夜の拳を握り込む。
そこを中心に膨大な熱が、空気が歪み近い地面が融けるほどの熱量が集まる。
もはや小型の太陽だ。
一歩、一歩と歩く度に地面が煙を出し悲鳴を上げる。
ゼファーの目の前に来ると、そのまま脚を引き腰を、肩を、腕をギリギリとねじって―――――――――
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドゴオオオオオォォォォォォォォォンンンン!!!!!
「……!いったい何の音だ!!」
城全体が揺れた。
城内に敵の侵入を許し、迎撃のために走り回る巨大な黒豹。
その廊下いっぱいの巨体がブレ、猫耳尻尾の少女が現れた。……一応言っておこう、全裸ではない。
六魔将が一人、ベルルーシカ。両手足が全て艶やかな短い黒毛に覆われていて、白いワンピースがよく似合っている。猫っぽい顔をしている、どこか幼さの残る顔はとても愛らしい。
「……嫌な予感がする」
ベルルーシカの頬を冷たい汗が流れる。
(先ほど龍の咆哮が聞こえた。恐らくゼファー様だろう。だが二度目のは?)
自らが敬愛する、黒竜ゼファー。
その勇猛な雄叫びの後に聞こえた、あの魂の凍るような叫びは?
駆けだそうとしたその時、不意に廊下の奥、曲がり角に誰かの気配を感じる。
「ッ!誰だ!!」
誰何の声をあげると、ソイツは、彼女は出てきた。
片腕がなく、額からも血を流し、壁に寄りかかるように立つ、満身創痍の女。
魔王軍六魔将が一人、エージェンヌだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「え、エージェンヌ様!!?ご無事だったのですか!?」
「うっ、クッ!あぁお前か、無事でよかった。」
「エージェンヌ様、いったい何があったのです!?こんな……ひどい傷を……」
悲痛な声をあげるベルだがエージェンヌは微かに笑い、
「なに、かすり傷だ」
「片腕無いんですよ!?」
「そんなことより今は急いであの方に会わねばならない。敵の狙いや能力がわかったのだ」
「わかりました!ご案内します!!」
そう元気よく言うとベルは、拳を握り全力でエージェンヌの顔面をぶん殴った。
「……地獄にな」
殴られた勢いそのままに吹き飛ばされ壁に激突するエージェンヌ。
それを憎悪の視線で射殺さんばかりに睨みつけるベル
「…………一瞬でもお前なんかをエージェンヌ様と間違えた自分が憎いよ」
「グはァ……!」
エージェンヌは血を吐きながらズルズルと床に落ちる。
倒れたままベルを見上げ、
「な、何故だ……私は味方「黙れよ」なッ!?」
獣人の優れた脚力に任せて床を蹴り、倒れ伏すエージェンヌ目掛けて拳を(どぷん、)全力で左に跳ぶ。
続けて床に伏せ廊下の右端まで転がり、寝転がった状態から更にバク宙でエージェンヌから大きく距離をとる。
わずか5秒にも満たない時間。その間にベルの動きを追って放たれた銃弾は1600発。
廊下の壁も床も穴だらけだ。
「……〈リロード〉、魔弾選択、〈ライトニング・バレット〉レベル2、〈連射速度三倍〉〈銃撃威力強化三倍〉〈オートリロード〉〈弾薬消費十分の一〉」
〈リロード〉、アイテムボックス内の弾薬アイテムを対応する銃器に補充するスキルだ。
蒼白い光が集まり、四角い箱型の弾倉に弾がギッチリと詰められる。
ガトリングガンから大量の薬莢が転がり出ていて、床は足の踏み場もない。
更にバチバチと蒼い電流が銃身を走り回る。
いつの間にか取り出した―――――――――否、手の平から直接生やしたガトリングガンで廊下を穴だらけにしたエージェンヌは、いきなり姿がぐにゃりと歪み、虹色に変色したかと思うと姿が変貌し始めた。
グネグネと脈動し、腕が生え、単髪から背中へ流れるような長髪へ、鎧から衣服へ、顔はツルリとしたのっぺらぼうへ。
腰には大小の刀が生え、デコと思われる箇所からつぷりと白い陶器のような少し湾曲した、先の尖ったモノが現れ、そのままぬるぬると生えたかと思うと、パタンと閉じ顔を覆った。
そこには三日月に笑った口とだらしなく下がった右目に深紅の十字を刻むターゲットサイトの左目。
グネグネとうねる体が静まり、極彩色に色がつく。
藍色の着物、艶やかなオールバックの黒髪、袖口からはガトリングガン。
「そんじゃま、改めちゃってぇ自己紹介♪」
彼女はガシャンッとガトリングガンを肩に担ぐと、
「俺はPKギルド『ラヴァーズ』の一員にしてこれでも一応作戦参謀、ルリ。『歩く戦争』のルリだ!!」
威風堂々、見下すように名乗りを挙げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
距離を取って対峙する二人。
「んで?何でわかったんだ?」
ニヤニヤとした雰囲気でルリが問うと、
「……黒豹の獣人とはいえそこまで近づけば匂いでわかる」
僅かに顔をしかめてベルが答える。
「におい~?」
いつのまにこのゲームは個人を特定できるほど匂いがリアル化したのだろう。
いや確かにゾンビ的な種族に転生した奴はひどい、というかひどすぎる臭いを放つがそれでも――――いや、自分が知らなかっただけで獣人系のプレイヤーはわかるのだろうか。
(てぇことは聴覚も強化されてんのかね、知らねぇけどよ。)
「へぇ、まさかそんなもんで正体見破られるとはね」
「……エージェンヌ様をどうした。」
「あ?エージェンヌ?さっきの顔の女か?」
「そうだ」
「死んだよ」
「ッ!……そうか」
「滑稽な死に方だったぜぇ?」
「…………なんだと?」
「カスのくせにキャンキャン吠えて、最後はズッタボロのグッチャグチャになって死んだよ!超笑ったぜ!!ギャハハハハ!!」
「貴様……殺してやる…!!」
「おっと来るか?いいぜ、別に。どうせここの奴ら皆殺しにすんだからよぉ……テメェもとっとと負けて死ね!!」
肩に掛けていたガトリングガンをベルに向け引き金を引く。
機械仕掛けの銃身が唸りをあげて回転し、薬莢が爆発して弾丸が発射され、放たれた鉛弾は六つの銃口それぞれに小さく展開された魔方陣を通り紫電へと変換されていく。
秒間400発もの雷光が一直線にベルの居たところを通りすぎた。
「……あ?」
(どこ行った?)
「どこを見ている。こっちだ!〈ドルグ・ダム〉!!」
声のする方に銃口を向けると岩のボールをベルが大きく振りかぶって投げるところだった。ただし直径三メートルのボールを、壁に立って、だ。
足の指を全部壁に食い込ませ、それによって壁に直立し、そこから腰をひねって片手で投げられた岩石は野球ボールのように真っ直ぐ飛んでくる。
(何も無いところからいきなり岩〈ドルグ・ダム〉未確認スキル、敵種族恐らく豹の獣人見ればわか変身、変装の可能性、解析……完了敵種族黒豹人確定、よって種族スキルではない未確認スキル←危険、対応策接近を許さず破壊!)
この間わずかコンマ2秒。最善の作戦を立てソレを実行する。
「しゃらくせぇぜ!!〈デッドリーストーム〉!!」
ルリの左袖からバズーカ砲がゴトンと滑り出て、岩石に向かってロケット弾を一度に五発吐き出す。
スキルによって明らかに装弾数を超える数のロケット弾を喰らい岩石は爆散する。
……大量の土煙と爆炎とそこから生じた黒煙とともに。
廊下は煙に覆われ、一寸先も見えない。
「っと、ミスったな」
仮面から軽い調子の声を響かせながらバズーカ砲と入れ代わりにガトリングガンで掃射する。
紫紺の弾幕が次々に黒煙の中に飛び込み上下左右、床にも壁にも天井にも当たるように撃ちまくる!!
「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たったかぁ?〈カートリッジ〉変更、〈ウインド・ブラストバレット〉レベル1」
鉄の銃身に風が絡みつき、そのまま床に向けて引き金を引くと、着弾点に小規模の暴風が巻き起こり黒煙を吹き飛ばした。
煙が晴れると、床も壁も天井も等しく抉り回され無残になった廊下だけ(・・)が。
そして耳に入る風切り音。
「お前の敗因は、あの方を侮辱し私を怒らせたことだ!!」
豹の腕に剣のような爪を生やしルリの真上――――天井から飛びかかる!!
寸前で顔を上げたルリが慌てて銃口を上に動かそうとするが時既に遅し。
輝く白刃がその身を引き裂く。
「がッ……はぁ…」
血を吐きながら彼女は膝をつく。
信じられない。
彼女の顔はそう言っていた。
胸から血が、力が抜けていく。床についた手が霞む。
そしてそんな彼女の頭にゴリッと銃口が突きつけられた。
「テメェの敗因はいくつもあるぜ?まず最初に俺の種族を見抜けなかったことからだ」
ルリが仮面の奥でニヤニヤと笑う。
肩から銃剣のついた突撃銃を生やして!!
「おかしいと思わなかったか?最初の変身も、袖からバズーカが出るのも」
そう言って銃口をベルの頭からどけ、手を広げる。
その姿が一瞬虹色に輝き、また元通りになる。
「<ジュエル・スライム>。それの種族スキル<四次元体質>ってな」
『ジュエルスライム』
不定形種族最強のモンスターにして神族をのぞいて最も堅いスライム。
正体は西洋系のゲル的なスライムだが、その全身が煌めく液体宝石でできている。
〈魔法完全吸収〉〈打撃系攻撃完全無効〉などが常時発動し、さらに〈防御〉すれば斬撃、刺突系攻撃にも〈超耐性〉が付く。
まさに無敵のスライムである。
『種族スキル』
現在成っているジョブに固定される<メインスキル>、過去成っていたジョブのスキルを任意で設定できる<サブ・サポートスキル>。
そしてそれとは別に現在成っている種族に固定される<種族スキル>。
普通、スキルはスキルはメイン一つ、サブ四つ、サポートが五つの計10種類までだが、種族が<人間>以外ならば<サブ・サポートスキル>の枠が一つ減り、代わりに<種族スキル>が入る。
これはプレイヤーが現在成っている種族に合わせて固定され、詠唱|(いちいち<スキル名>を言うこと)もメニュー操作もせずに発動できる。
その代わり、疲れる。派手な技ほどとてもとても疲れる。ゲームなので実際疲労しているわけではないが。
ようするにSPとか消費して楽々使うスキルに対して、本来人間に無いような器官を無理に使うということだ。
しかもその使い方の説明もひどい。
例を挙げよう。
レベルが上がって種族スキルを一つ取得すると、メニューに運営からメールが来る。
差出人:運営
件名:種族スキル・<ファイアブレス>使用法
・ゲロ吐く感じで☆
差出人:運営
件名:種族スキル・<獣化>使用法
・根性?気分?だいたいそんな感じだよ、きっと。
差出人:運営
件名:種族スキル・<落雷>使用法
・天気の悪い日に自然を味方にした気分でいましょう。
…………以上である。
ゆえに人によっては全く使えない死にスキルになる。
慣れればなんてことはないという廃人もいるにはいるが。
ヌルヌルと肩から生えた突撃銃を引っ込めながら、ぺらぺらと喋るルリ。
剣呑な雰囲気を未だ崩さないベルルーシカはゆっくりと体の体制を整える。
「次に俺の二つ名は歩く『戦争』。つまりな……」
蹲っていたベルが急に立ち上がり襲い掛かる!!
「銃撃戦に制圧戦に砲撃戦、狙撃爆撃奇襲強襲暗殺虐殺、そしてもちろん接近戦にと何でもござれなんだよ」
掴み掛かろうとしたベルの腕を両袖から伸びた何本もの腕が、虹色に光り輝く腕がガッシリと掴み返す。
「んで最後に、これが一番の理由だが……お前の耐久度じゃ俺の攻撃力にどうやっても勝・て・ね・え・ん・だ・よ!!」
ゆっくりと腕に力が入りベルの腕を握り潰していく。
「あぐッ!ぐううぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
たちまち骨が軋みをあげ、激痛が走る。
苦し紛れに顎めがけて蹴りを放つ。柔らかい体を活かした岩をも砕く垂直蹴りが、顔を傾けるだけで避けられる。
背中や胸から生えたであろう腕が襟から飛び出し伸びきった脚を捕らえ締め上げる。
半身になったベルの腹の傷に膝を叩き込み、更に膝頭からナイフが生える。
「アギャァ!!!ア、うああぁぁぁぁぁ!!!!」
バキボキと腕が砕け、ベキンベキンとしなやかな脚がへし折られる。
腹に刺したナイフを膝でぐりぐりと押し込み、そのたびに響く悲鳴を聴きながら、ルリは楽しそうに、実に愉しそうに笑う。
「もっちろん拷問も得意なんだぜ?ま、聞きたいことなんかねぇけどな!ギャハハハハハハ!!おっと!」
突然パッとナイフを抜き、全部の腕を離す。
ベルは反射的に距離を取ろうともがくが、手足があり得ない方向に曲がっていては意味がない。
ギラギラした目でベルはルリを睨み付けるが、ルリは人を小馬鹿にした雰囲気を纏ったまま後ろに下がる。
「何の……つもりだ?」
激痛に汗を流しながらベルが聞くと、ニヤニヤした仮面を傾けながらルリが答えた。
「俺のジョブってさぁ、『乱射魔』なんだよ」
「……何を、言っている?」
「いやな?『乱射魔』には『拳銃使い』や『狙撃手』とは違う一風変わったスキルがあるんだぜ?」
「だから何を言って……」
その時、ベルの耳が奇妙な音をとらえた。
何かと何かがぶつかりあう音。
それは自分が来た廊下の奥から近づいてきている。
「最初の時はOFFにしてたが、その次のはONにして撃ったんだ。今になってやっと帰って来やがった」
廊下の奥に時折キラキラと光が、青紫の閃光が見える。
その閃光は近づくたびに十、二十と数を増やしながら床、壁、天井を縦横無尽に跳ね回る。
「400発分の〈跳弾〉、プレゼントしてやるよ♪」
紫紺の流星群がベルを襲う。
咄嗟に折れた腕で体を庇うが一発が体に着弾すると同時にバチィンッ!!と弾けた。
「うぁ!?」
「オイオイ、電撃系の耐性無しで防御を選ぶとか、死にてぇの?……って、もう聞こえてねぇか。」
そう言うとルリは、背を向けて歩き出す。
後ろからは断続的に悲鳴や誰かの名前を呼ぶ声が聞こえる。
その、徐々に途切れ途切れになる悲鳴を聴きながら、ルリは仮面の下を恍惚に歪め、大きく口を開けて嗤いだした。
「ギャハ、ギャハハハハハハひひひひひクックックッケケケケケケははははははは!!!あぁーははははははははははははぁ!!!最ッ高!!最高ですねぇ、カスの悲鳴は!!あははははは、あ、イケネ。」
(あははぁ、いけないいけない。少し興奮しすぎましたね。あぁでも最高の気分ですね!!カスの悲鳴、怨嗟の声、憎悪と嫉妬にまみれたあの視線!たまりませんねぇ!!あぁいけないいけない、またキャラがブレてますね、直しとかねぇとな、ギャハハ!)
ゆっくりと廊下を歩ききり、少し広いところに出る。
そこには無残な、いや無意味に悲惨な死体がそこらじゅうに転がっていた。
(バラバラでもカチコチでもドロドロでも、ましてデコボコでもない無残な死体、ってことは月光がいるのか。……久しぶりにタッグ組んでデートすっかな?)
とてもご機嫌な恋する乙女は、先ほどとは似ても似つかない優しい微笑を浮かべた。
もちろん、仮面で見えはしないが。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
プチンッ!
「あ」
ラヴはニッパー片手に噴水の前に立っていた。
「……あ~ぁ。やれやれ、今の声はフロストかぁ。ってことは早く止めに行かないと、この城熔けちゃうぞ」
いかにも仕方ないなぁという仕種で肩をすくめ、ラヴは部屋から出ようとし、一度だけ振り返ると、ニコリと微笑み、
「じゃ、これで失礼しますね、六魔将のなんとかさん」
首筋から血の噴水をあげる、壁に磔になったナニカを残して去って行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ここやぁ!!」
巨大な鉄の扉がバラバラになりゴトンゴトンと崩れていく。
切り開いたその部屋はそれなりに広く、だが僅かな蝋燭の光源しかない薄暗い部屋。弱すぎる光は高い天井を照らし切れておらず、闇を残している。
部屋の奥には祭壇があり、その両脇には太い柱がある。
しかし最も目を引くのは部屋の床いっぱいにいくつも書かれた魔法陣。その数20。
魔法陣が紫に発光するたびにズブズブと新たな鎧の兵士、『ファントムソルジャー』が現れる。
武器も何も持たない唯の鎧なので、ファントムナイトに比べ性能は格段に落ちるが、その分かかるコストが低いので大量に呼び出せる。
いわゆる魔法職の壁役だ。
(ぽぷユニやな……出すんやったら生き物出せや!!)
魔物量産系ユニット……通称ぽぷユニとはダンジョンのPOP場所の簡易版を金で買って設置したものだ。
出せるモンスターは一種類のみで、破壊も可能だが、防衛用モンスターのPOP場所のない街系拠点、またはAランクギルドが好んで使う乗り物系拠点を有するプレイヤー達にとっては無くてはならない存在である。
「これさえブッ壊しゃあ、流石にプレイヤーが出張ってくるやろ……ほんま鬱陶しかったわぁ」
右手に構えた薄紅色に煌めく刀がィィィンと音をたてる。
さっさと終わらせようと魔法陣に近づいた時、
「待って」
静かな声が黒蟻に届いた。
目の前の薄暗い空間、蝋燭の明かりに照らされた影。
その影ひとつひとつがゆっくりと、部屋の奥、祭壇の上に集まり、重なり、濃い闇を形成する。
闇は徐々に形をとり、ローブが、深い闇のローブが現れる。
首には魔力のこもったネックレスを掛け、袖から覗く白い手―――もとい白骨の手の薬指にはルビーの指輪をはめている。
深くかぶったフードには赤い光が二つ灯っている。
『ハイ・リッチ』だ。
攻撃系魔法に特化したスキルを覚え、即死系魔法などの闇魔法にかかる魔力(SP)消費が半分になる。
ただし回復系魔法などの光魔法にかかる魔力(SP)消費は倍だし、回復系の魔法やポーション使うと酸で焼かれるような激痛がプレイヤーを襲う。
そんなハイ・リッチはフードの奥から女の声を響かせる。
「私は魔王軍六魔将が一人、リア・テイル。その魔法陣を壊したいのなら、私と、彼らと、――――――夫を倒してからにして頂戴」
ローブの袖をはためかせながら腕を横に振る。
と、部屋の四隅、黒蟻の後ろの廊下、高い天井の壁に次々と魔法陣が浮かぶ。
「召喚魔法……鬼か蛇か楽しみやなぁ?」
対して黒蟻は口元をギィと歪めて待ち構える。
その間に新たな魔法陣から次々とファントムナイトが馬の(馬具の?)嘶きとともに飛び出し、足元の魔法陣からファントムソルジャーが整列を始める。
そして祭壇に腰かけたリアの上、天井の闇の濃いところに大きな赤い光がボウッと灯る。
その光に照らされ、天井が、いや、天井の高さまである巨大な鎧、『ファントムギガス』が姿を現す。
祭壇の両脇の柱、つまりはファントムギガスの足が動き、前に進む。
それほど広くない部屋なので狭そうだ。
その巨大な兜の格子状の覗き穴から見える赤い光が声を発する。
「俺は魔王軍六魔将が一人、ガルド・テイル。こいつの夫だ」
野太い声が響きわたる。巨岩のごとき拳がギシギシと音を立てている。
前後左右ついでに上も鎧で囲まれる。
だがその光景に対し黒蟻は、しばらく身をプルプルと震わせていたかと思うと、
「もう無機物の相手はええんや!!!」
広く、薄暗い召喚部屋に黒蟻の絶叫が響き渡らせた。
「何やねん!!鬼でも蛇でもええから生きモンだせや!!あぁもうクソッ!クソッ!クソッ!クソッたりゃあァ!!ぷりぃずぎぶみぃ生命体ぃ!!!」
ちょっぴり禁断症状入った黒蟻は、頭を抱えてブンブン振り悶えバク宙して足の爪で後ろから突撃してきたファントムナイトを馬具ごと引き裂く。
見事に着地し、黒蟻は――――――
「もうええ、どうでもいい……てめえら全員グシャグシャにしたるわ…………」
「……?」
突然様子の変わった黒蟻に首を傾げるリア。そんな彼女を護るように前に出るガルド。
依然召喚は続いており、新たな鎧騎士が発光する魔方陣から出てくる。
鎧騎士達はそこらに転がった、無惨に二つとなったファントムナイトの手足をひっ掴み、それを鈍器代わりに殴りかかっていく。
脇に控えていた残りのファントムナイトもそれに合わせて突撃を仕掛ける。
それに対し黒蟻は武器を仕舞い、その口元を凶悪に歪め――――――
「ケミカル★忍法――――――」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
場面変わって元・闘技場。
客席は斜めに溶け流れ、天井からポタポタと溶けた大理石が雫となって落ちてくる。リング内も原型留めずドロドロに溶け、高熱の泥沼と化している。
入口の反対側にあたる壁には何か、大きくて黒いものの溶け残りが仰向けに倒れている。
そんなマグマの中。
黒い人影が佇んでいる。
全身が漆黒の鱗に覆われ、その所々に白い鱗が混じり、肌に星空の刺青を刻んだかのような姿。
頭のこめかみから捻じくれた角が生え、背中からも肌と同じ柄の翼が生えている。
さらに竜の尻尾がゆらりと揺れている。
ソイツはゆっくりと目の前の空間に手をかざした。
そこに(彼にしか見えないが)白い〈メニュー〉が現れる。
項目から〈アイテムボックス〉を選び、『鎮静』の項目から表示されている幾つかのアイテムを選択する。
黒い人影、フロストのすぐ前に蒼い光が集まりパンッと弾けると、コーヒーの入ったフラスコと歯車が一枚現れた。
歯車を額に当て、歯の一つを押し込む。
歯車から小さな歯車やら大きな歯車やらが次々に出てきて、組み合い、重なり、クルクルと回転し、噛み合っていく。
やがてフロストの頭を包みこむヘルメットのような歯車の仮面が現れる。
顎の力で無理やり歯車を押し広げる。
金属の擦れる嫌な音ともに明らかに人間より広く口が裂ける。
ぽっかりと空いた穴にフラスコの中身を流し込む。
口の中にジャバジャバとコーヒーが注がれ、顎を伝ってジュウジュウと、地に落ちるより早く蒸発していく。
ゴクゴクと飲み干し、空になったフラスコを握りつぶす。
しばらく後、
「クソッ、やはり温度が下がらン……ム?」
忌々しげに呟くフロストの頭に、〈メッセージ〉の着信音が響く。
『やっほーフロストキレてるー?』
ラヴだった。大方さっきの絶叫を聞いて、俺を落ち着かせようとしてるのだろう。
「……ボスカ……大丈夫ダ、すぐに落ち着ク。少し待っ『ダメですよ!!』……何だト?」
『だからぁ、いつも言ってるでしょう?怒りを抑えちゃいけませんって!』
「いヤ、だが俺はもう『ホントに?』……」
俺の声を遮るようにラヴの声が聞こえる。
『イライラしてない?ムシャクシャしてない?ストレス感じてない?八つ当たりしたくない?何もかも壊したくない?スカッとしたくない?ブッ飛んだ気分になりたくない?』
『いいよ、かまわないさ』
『楽しいよ?意味無く物を壊すのは』
『愉しいよ?理不尽に人を殴るのは』
『だからさ、』
『ヤっていいよ』
ラヴの声が、悪魔の声が、毒のように頭に染み込んでくる。
ふわふわと浮いているような、地面が傾いていくような、狂った感覚。
とても、とても、心地いい。
「……いいのカ?」
『もちろん。もし君が罪悪感なんていう的外れなものを感じてるんなら、僕が君に命令してあげるよ。――――暴れろ』
あの日折られた俺の心が歓喜の咆哮を上げる。
フフフン、やはり俺のボスは最高だ。
俺のヤりたいことを命令してくれる!!
「イエス、ボス!!了解ダ!!こっから先ハァ!全力!!全開!!!オーバーヒートダアアァァァ!!!」
『うん!楽しんでね!!Mr.ヒート!』
「オォ、まかせロ!この程度の城、俺一人で焼け落としてくれル゛ア゛ア゛アァァァァァ!!」
Dr.フロストが、否、Mr.ヒートが吠える。
今まで抑えようとしていた灼熱が一気に噴き出し、
空気が歪み、溶けた地面がマグマのように赤熱してボコボコと沸騰を始め、まるで地獄のような光景が広がる。
頭を覆うヘルメットはドロドロと熔け出して形が崩れる。
バサリと開いた翼からも同様の熱が発される。
『太陽神ラー・堕天種』。
それこそが『ラヴァーズ』最強の前衛にしてレベル999プレイヤー、激怒博士の種族である。
ちなみに、Mr.ヒートとは「冷静じゃない俺は俺じゃなイ。ゆえに今の俺はフロストではなくヒートト、Mr.ヒートと呼んでくレ」と本人たっての希望によるもの。
さらにちなみに、この時その台詞を聞いて爆笑した黒蟻がじっくりウェルダンに焼き上げられたのは、完全に余談である。
ぶっちゃけMr.ヒート出したくてDr.フロスト書いた、後悔はない。
でも基本Dr.フロストがメイン。