城壁制圧中だぜ!!
ヒュールルルルルー・・・
立派なドングリに羽根を付けたような爆弾が一つ、二つ、ゆっくりと落ちてくる。
それら二つが城壁の内と外にトスッ、と突き刺さり――――――――――――
何も起こらなかった。
別に爆発したり光ったりもしなかった。
たまたま近くにいたゴブリンが不審に思い、近づこうと一歩、足を踏み出した時、
ジャリッ
何かを踏んだ。
足をどけると、白く光を反射する氷と土とがあり、それらが混ざって酷く汚く見えていた。
よく見ると氷はそこだけでなく周り、突き立った爆弾から拡がるようにポコポコと土を押し上げていく。
と、今度は押し上がった霜柱から順に次々と結合していき、みるみるうちに地面が氷に閉ざされていった。余談だがこの時地面に立っていたゴブリンやスケルトンは足を凍らされ、助けようと下りてきた者も同じく犠牲になる。
キイイィィィィィィィィィィン!!!
『モンストロ』の底面部滑走路からミサイルを満載した戦闘機が10機、飛び立って行く。
編隊を組まずバラバラに飛んだ戦闘機群は城と城壁にある入り口に向かい、そのまま突っ込んだ。
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空に浮かぶ『モンストロ』は城を完全に覆っていた。
「おっけージャストミート!!」
ルリはキーボードの前でケタケタと笑っている。
モニターには爆発炎上する戦闘機と、それに扉を塞がれ右往左往するモンスターが映っている。
〈命令〉による指示は愚直に遂行される。
だから壁の中に行けと言われれば、壁を破壊してでも中に行くし、海の中に行けと言われれば、たとえ途中で溺死するとしても構わず行く。
つまりルリは〈移動〉によって即席特攻隊を作ったのだ。
「さぁて、POP場所に繋がってるっぽい所はこれであらかた潰したな。」
モニターには右往左往するモンスター達が映る。
「あそこで慌てているヤツらがプレイヤーか、それとも〈恐慌状態〉になった唯のモンスターか?」
ちらりと画面のひとつ、〈VOICE〉というタグのついた物に目を向ける。
そこには白い画面にいくつものフキダシが泡のようにポコポコと湧いており、『火を消せぇ!』だの『援軍は来ねぇのか!?』だの『足が、俺の足がぁ!?』だのいろいろな台詞が書かれている。
次々に浮かぶそれらを眺めながら、顎に細い指をあてて少し考え、出した結論は
「ま、全部潰しゃいっか。」
ゴリ押しだった。
「何はともあれ、お次はいよいよメインのAP部隊と歩兵部隊を投下すっかな!」
ルリは流れるような動作でレバーを引いたりスイッチを押したり。
「よぅし、AP部隊『ドーベルマン』一部投下、続いて第一から第四突撃部隊投下っと。」
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地面に足を凍りつかされ、動けなくなった運の悪いゴブリンは、足を剥がそうと躍起になっていた。
麻痺してしまったのか、さっきまでビリビリと痺れるような痛みも今はない。
両手で自分の足首を掴んでぐいぐいと引っ張っている。
と、彼(?)は自分の二歩ぐらい前に空豆のような黒い点を見つけた。
その黒点はみるみるうちに大きくなり、
自分を覆ってからようやく何かが降ってきていることを理解し―――――――――
ぶちゅんっ!!
凄まじい地響きとともに城壁内に降り立ったのは黒と灰色の迷彩柄に肩にはナイフを口にくわえた犬を模したエンブレム、ゴツゴツした、鋼鉄の四脚型AP。
10メートルほどのその巨体は、それに見合った大きさのマシンガンを構え、城壁の上にクイッと向けた。
戦車を二秒で鉄屑に変える銃口が火を吹いた。
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AP(armed peace)とは、とある世界で運用されていた、後に純科学産SRとして分類された汎用機動兵器のことである。
APに乗り込む者達は“レイヴン”と呼ばれ、傭兵として合法、非合法にかかわらず様々な依頼をこなす。
“混ざった”あの日からは企業だけでなく国や政府の依頼も受け、謎の巨大生命体やら宇宙からの侵略やら悪の巨大ロボットやらの相手を他のSR乗りとするのだが、彼らが自分から(つまりは正義感とかで)協力するのは非常に稀なため、あまり快くは思われていない。
機体の制御が非常に難しく、搭乗者の体に負荷をかけるような作りだが、その代わり機動性に優れ、火力にも定評がある。
ちなみに『グレートありがとウサギ』をはじめとする数体のSRを保有する某企業の略称と同じ名前の戦闘ロボとは別物。似てるけど別物。
それが凍った地面を踏み割りながら、ついでのように動けないモンスター達を赤い地面のシミにしていく。
その間も休むことなく弾丸の嵐は吹き荒れ、巻き込まれたモンスターは風船のように弾け飛び、城壁は爆散していく。
ゆっくりと旋回しながら撃ちまくり、城内にある建物には肩からミサイルを発射し、舐めるように蹂躙していく。
「まったく総司令の用心深さは凄まじいぜ」
カメラに映るのは火の海に、あってないような抵抗をするモンスター達。
「こんな楽な仕事俺一人で十分だってのになぁハハハ!!」
そのとき、好き勝手に城内を蹂躙していた四脚APの後ろの空間がユラリと動いた。
透明で向こう側が見えてはいるが微妙に空間が歪み、ずんぐりむっくりとした不格好な人型の輪郭がゆっくりとAPの後ろにまわる。
20メートルぐらいの輪郭は太い柱のような右腕を振り上げ勢いつけて振り下ろす!!
ガツンッ!!
四脚が軋みを挙げ一撃で虫のように地面へと叩きつけられる!
攻撃したことにより隠匿系魔法が解け、透明な巨人に色がつく。
茶色く、樽の体に樽で手足を付けたような姿。鏡餅の二段目のような頭にぽっかりと目と口と思われる空洞が空いている。
ゴーレムだ。
そのまま連撃を繰り出そうと腕を引き、
『お前みたいなマヌケでも助かるように作戦を組んでくださっているんだよ』
唐突にゴーレムが爆散した。
縦向きに潰れていくかのように四散した。
「・・・チッ、余計なことしやがって・・」
四脚は頭部のカメラを上に向ける。
遥か上空、『モンストロ』底部に自分が投下されてきたハッチが空いている。
そこに開いたハッチの縁に四脚を引っかけ、体を固定し狙撃銃を構えるAPがいた。
回線から女の声が入る。
『やれやれ総司令殿もお前みたいなマヌケにまで気をかけなくてもいいのに』
「何か言ったか第二世代」
『言ってやったさ第一世代?』
『やめろ』
またも回線に別の声が割り込む。
城壁が外から吹き飛び、もうもうと上がる土煙の中からゆっくりともう一機のAPが姿を現す。
右手にでかい銃口のハンドガン、肩には細身だが高威力のグレネードキャノンにでかいミサイルポッド、左手には火炎放射機。
そして全てを轢き潰す無限軌道の脚部。
「隊長・・・」
『Dα01二等、Dβ01二等、今は作戦行動中だ。いくら余裕のある相手とはいえ油断はするな。この城にSR兵器が無いと決まった訳ではないのだからな』
言いつつも城壁の中にあった通路に火炎放射機を差し込み、内部に炎を流し込んでいく。
「・・了解。っと、うわぁ・・容赦ねぇ」
隊長と呼ばれたキャタピラは、淡々と城壁をただの瓦礫に変えていく。
そしてふと空を見上げると、鋼線が下りてきた。さらにそこを伝って兵士がスルスルと下りてくる。
周りを見渡せば焼け野原に死屍累々。
「・・・もうやることねぇよなぁ」
『サボるなマヌケ』
チューン、と四脚の体を上からの狙撃が掠めた。
えー今回暴走したかもしんない。
でも好きなんだからしかたない。
ラストレイヴンの難しさは異常。だが好き。
でもこれはあくまでラヴとルリの恋愛物語でSRメインのお話ではないのです。