城壁制圧作戦だぜ!!
ここはどっかの城。で、玉座の間。の、玉座前の広いとこの床。
宙に浮かんだスクリーンセーバーの前で『ラヴァーズ』の面々は床に座って各々好き勝手に菓子やらジュースやらを飲んでいる。
もはや仮面すら脱いで完全だらけモードだ。
フロストがフラスコを呷りながら口を開く。おっとカメラが回り込んで顔が見えない。
「ここまでが俺の知っていることダ」
「そういえばあの状態からどうやって助かったんですか?」
「とっさにもう一枚結界を張りながら気合と根性で防御しタ」
「……いい加減転職しません?」
「つーかフロスト!!お前もうロボット乗るな!!今まで何体ぶっ壊しやがった!!」
「フッ……お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのカ?」
「テメェ……」
「まぁいいじゃないカ、どうせコルドロンで金はいくらでも手に入るル」
「チッ! まあいい次はいよいよ俺だな!!」
そう言ってルリが自分のスクリーンセーバーを宙に出す。
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ここは超巨大空中要塞『モンストロ』。
の上に突き出てる塔。
の中のブリッジ。
のさらに何回か上の階層。
そこは狭く、ズッシリと重厚な、黒地に蒼で幾何学模様の入った椅子が一つ。
その椅子を囲むようにキーボードがあり、様々な大きさと色のスイッチやらレバーやらが設置され、大量のケーブルやらコードやらが繋がっている。
ここは『モンストロ』のコックピットだ。
この超巨大要塞を自動で動かすためにブリッジがあり、手動で動かすためにこの部屋がある。
いわば『モンストロ』の中枢なのだ。
外にある背面部砲座の操作、モンスターの発進、全階層の監視映像、トラップ、徘徊するモンスター、侵入者の排除まで全てここで行える。
ただ滅多に使わない。使うとしたらラヴが自分の階のトラップを発動させるか、バカ広い『モンストロ』内に放送をかける時くらいである。
そこにドッカリと座り、すごい速さでキーボードを叩く人影。
肩まで流れる漆黒の黒髪、シミひとつない雪のような白い肌、藍色の着物と深紅の十字を刻むターゲットサイトのついた仮面。
『ラヴァーズ』の一員、ルリ。
次々と空中にモニターが開き映像を流していく。
ルリは右手でカメラを操作し左手で居なかった間の戦闘ログを開き、忌々しげに舌打ちした。
(酷すぎる……こんなひどい戦いは初めてだ……!)
ルリの前にはだんびら包丁を振り回し、血を浴びながら狂喜乱舞する黒蟻と、支離滅裂な動きをしたあと自爆するロボットが映っている。
(なんて無駄な戦い方してんだよ!! どうしてまず『モンストロ』で邪妖精共を吹き飛ばさねぇ!!どうせ少しでも血を浴びるつもりだったんだろ!!あとフロスト!!もうお前ロボット乗るな!! 今まで何台潰した!三桁からこっちもう数えてねぇぞ!!どうしてお前は作れるのに使えねぇんだよ!! あぁもうめんどくせぇ!!ラヴの注文は『城壁の制圧』だったな。いいだろう、本物の戦争を魅せてやる!!)
ルリは肩をぐるりと回すと、スパイビットを発進させ、フロストが仮面を作ったときの副産物である「広域凍土化爆弾」を投下し、無人戦闘機部隊を発進、それに指示を与えるべくイヤホンマイクを被る。
これら全てを同時に終わらせる。
「あー、テステス、んん!〈命令〉。〈移動指示〉、っと。」
目の前にあるモニターに映る城壁にルリは指先で触れる。
すると城壁に青い矢印が印される。
『指揮官』のスキル〈移動指示〉だ。視界にある、または認識してある味方ユニットを自分の命令通り動かしたり(ただしCPUまたは混乱、魅了状態の味方プレイヤーのみ)、強化したりする支援系スキルだ。
『ラヴァーズ』が誇るプログラマー、Dr.フロストがカメラビットの映像をこの部屋に回し、そこから指示が出せるよう改造しまくったのだ。
だがこの部屋はフロスト立ち入り禁止となっている。
理由は……わかるな?
『了解』
「スパイビットは城を多方面から撮れ。映像は全てこの部屋にまわせ。……っとこれじゃ反応し『了解』…?」
何か妙な感じはしたが、通じるならいいかとルリはさらに様々な指示を与えていく。
(ん?〈メッセージ〉か、〈受信〉っと)
「おう俺だ」
『ルーリー、早く早く!お仕事ですよ!』
「わーってるよ、もう“仕事部屋”だ」
『え?あなたが直接行くんじゃないんですか?』
「ハッ!どうせアレだろ?俺が名乗りあげて恥ずかしがるのを見るつもりだったんだろ?」
『……』
「言い訳あるなら言ってみろよ、おらおら!ギャハハハ!!」
『歩兵40、戦闘機10、スーパーロボット3で城壁制圧できなかったら罰ゲーム(ブツッ)』
「ちょっ!」
(ええいまたか!!ハァ、奴の機嫌を損ねるとろくなことにならねぇ。具体的にはこの映像みたいに)
ルリの前にはいくつもモニターが浮かんでいて、その内一つはブリッジを映している。
つまり二つ分の半死体とラヴだ。
(まぁいい、ラヴは無理難題を押し付けたみたいに思っているようだが、私にとっては造作もないことです。ま、せいぜい彼の珍しい吠え面を拝ませてもらいましょう)
ルリは指をパキパキ鳴らすと、にっこり笑って呟いた。
「そんじゃま♪『ラヴァーズ』の一員にして作戦参謀、『歩く戦争』ルリが、宣戦布告させてもらうぜ!!」
(通達はしねぇがな!!)