焦る二人に愛をこめて
ここは超巨大空中要塞『モンストロ』。
の上に突き出てる塔。
の中のブリッジ前のテレポート・ポート。
そこに転移したフロストはブリッジに向かって歩き出した。
「フーやれやレ、また失敗ダ」
(なにかと俺の作るSR兵器は暴走する。今回も操作系統がイカれていたらしい。お陰でまた高価な一台を潰してしまった……まぁいい、壊れた仁-七号はいつも通り“大ヤギ”のエサにでもしよう。おっと、考え事していたらもうブリッジに着いた。黒蟻の奴は先に帰っているだろうな?)
フロストは自動ドアをくぐり、
「やぁおかえりなさい♡」
速攻で逃げた。
後ろに向かって走りだし、自動ドアを片手で粉砕してそのままブリッジに入った。
「ッ!」
もう一度後ろに向かって跳び、ブリッジに入る。
目の前には先程と同じく優雅にカップで紅茶を飲みながら、アンティークな机と椅子でくつろぐラヴがいた。
新しいのを取ってきたのか新品のクマ仮面が机に置いてある。
(くっ! しまった!! やはりブラックドラゴンも俺が殺して手柄を立てておくべきだった!! いや、俺が出たときはもう黒蟻に殺られていたから……えぇい!!!過去よりも今は目の前のことだ!!)
「ヤ、ヤァ!早かったなボス」
とりあえず話しかけるフロスト。
するとラヴはカップを置いて人差し指をチッチッチィッ、と振り、
「ダメですよフロスト、こういうときは『な、何で中にいぃ~!?ウケ、ウケケケ』と言って上院議員に敬意を表さないと」
「ハ、ハハハ、だがそいつはそのあと死ぬじゃないかぁ縁起がわ「だからぴったりなんですよ」…ハハ、ハハハ」
(ヤバイ、このままだと俺は死ぬよりひどい目に合う。いや実際ボスに殺されるくらいなら『貧者の洞穴』にいたゴキブリ(体長3メートル。ほどよいデカさで非常にキモい)に頭から喰われるほうがマシだ!!)
フロストはだらだらと汗をかきながら必死に助かる道を思考するが、ラヴが無情にも告げる。
「さて、何か遺言があったら-5秒以内に言ってください時間切れですさようなら」
「ッッ!!!」
突然フロストの周り、何も無い空間が水面のように揺れ、白いダガーナイフと黒い針が何十本と飛び出してくる!!
「クッ!!〈凍結結界〉!!」
フロストが<スキル>を発動させ、瞬く間に周りの空間ごとナイフと針を凍らせて止める。
走る戦慄!
フロストは直感のままに前に向かって転がる!!
その嫌な予感通り、さっきまでフロストがいた目の高さにギロチンが横向きに通り抜けた。
浅かったのできっと視界を潰すためだけのものだろう。
非合理というなかれ、それが彼だ。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!! なんとかボスの気を反らさねば! そ、そうだ!黒蟻は!?まさかヤツだけ逃げたんじゃないだろうな!!? いや待てよ、それならヤツに全ての責任を押し付けよう!! ブラックドラゴンも俺が殺したことにして!)
「ア、あぁそうだラヴ!!黒蟻はどうしタ!?ヤツには言いたいことがあるんダ!ヤツが『モンストロ』の性能試験にこだわったせいでこんなにもてこずるはめになっタ。幸い俺が敵の秘密兵器っぽいブラックドラゴンと巨大花を潰したからもう後は簡単に落とせるはずダ!アイツも困ったヤツだよハッハッハッ!」
フロストが早口でそう捲し立てると、ラヴは驚きで目を真ん丸に見開き、しかしすぐに不思議そうな顔をして、
「へぇ、そうだったんですかぁ。あれ?でもおかしいな?そこにいる黒蟻は違うことを言ってたよ?君が試運転にこだわって彼が尻拭いをしたってさ」
(アノアマァ……今度あったらタダじゃ、うん?)
そこにいる?
フロストは、いや『ラヴァーズ』は全員隠匿系スキルを看破するスキルを所持している。
さすがにレベル999である黒蟻のステルスは看破できないが、それでもそこにいるかいないかぐらいは(ボンヤリとだが)わかる。
だがいくら目を凝らしてもその輪郭すらわからない。
と、フロストの肩に何かが、雫のようなものがポタッ、ポタッと当たる。
不思議に思い(嫌な予感は敢えて無視して)ひょいと上を向くと、天井に磔にされた黒蟻がいた。
「ッッッッッッ!!!??」
黒蟻は手を腕を肩を足を脛を膝を腹を胸を喉を舌を口を、およそ死なないであろうところを白いナイフと黒い針とで全て貫かれて十字に磔になっていた。
「うふふ、ほら見てやってください。きれいな顔でしょう?あれ、生きてるんですよ?」
確かにピクピクと痙攣している。
だがフロストは知っている。
あの白いナイフから電流が流れていることを。
ラヴのジョブスキルの一つ、魔法の固形化。
その白いナイフは〈聖竜王の息吹〉を固形化し、粉々に砕いて削った物だ。
ラヴが固形化を解除すれば元の魔法に戻り、黒蟻は黒焦げになる。
そしてあの黒い針は、ラヴの作ったお気に入りの武器だ。
付加能力は『対象に刺さったとき、必ず貫通する』だ。
つまり刺さりさえすれば必ず反対側まで針が伸びてぶち抜くということだ。
恐怖のあまり身がすくみ、逃げねばと思えど動けないフロスト。
その肩をそっと、優しく、ラヴが抱いてくる。
「本当はね、誰の責任かぁなんて、全然気にしてないんです」
その顔はやさしく、まさに天使のよう。
「ただ、せっかく楽しんでいたのに水を差されちゃって、欲求不満なのです」
と拗ねた子供のような顔をする。
同時にひどい悪寒。
スッとラヴがフロストの瞳を覗き込む。
フロストはそのどこまでも暗く、黒い、その瞳に、意識を飲まれ――――――――――
「だから、僕と、遊んで?」
る寸前で飛びのいた!!
(危ない、いきなり<チャーム>とはな!!)
<チャーム>とは、相手の言うこと聞いてもイイカナーという気分にさせるスキルで、脳に直接作用するこのゲームならではのスキルだ。
あのままラヴの瞳を見続けていたら、絶対彼はギロチンに首を差し出していただろう。
だが距離を取った!!
「〈超☆凍結結界〉!!」
フロストの周りに氷の壁が、いやむしろ隔壁というべきものが形成され、四角い氷のシェルターが完成する。
(よし、これはボスにもすぐには破壊できない。あとはほとぼりが冷めるまで(ピピーッ)そうぴぴーっ……ぴぴぃ?)
くるりと振り向くと、タイマー部分に0が4つ並んだ四角い箱が――――――――――――――――――
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
くぐもった衝撃音と少しの振動が僕に伝わる。
おぉすごい!さっすがフロストの〈超☆凍結結界〉だ!!
ブリッジまるまる吹き飛ぶクラスの爆弾を、こんな密閉空間に封じ切るなんて!!
しかもこのシェルター、罅しか入ってない!
いや~彼はすごいなぁ。
「んふふ、すごいの見れたから、ちょっと満足かな?さて、二人は遊び疲れて休んじゃったし、あとは愛しの恋人の活躍をゆっくり眺めようかな♡」
そう言って僕は、すこしぬるくなった紅茶に手を伸ばした。
感想いつも見てますありがとうございます!!
おかげさまで62,000アクセス突破です!!!
これからもがんばります!