焦る二人から愛をこめて
ここは超巨大空中要塞『モンストロ』。
の入り口。
「あいつなにやっとんじゃ!!」
遅い!あまりにも遅い!!
あいつ命かかっとんのわかっとるやろな!?
このままラヴにお仕置きの口実を与えたら……あかん、考えとうない。
ええい!俺だけ先に殺るか!
時間かかってもドラゴンと花両方殺れれば言い訳は立つ。
もしかしたら助かるかも。
まぁその場合はフロストは死ぬやろけど。
どうでもええな。
なんにせよ、そうと決まれば即決行!!
獲物はドラゴン!!
血しぶきヒャッハーーー!!!!
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ブラックドラゴンは未だにブレスを連射し、邪妖精に自分を回復させていた。
かなり敵の魔導兵士を減らしたし、フィラメスも出てきた。
もうしばらくは時間が稼げるはずだ。
「さてさて?ご機嫌いかがや?」
突然声が聴こえた。
速攻〈カースブレス〉発射。強化魔法による〈高速チャージ〉で一秒に満たない内に通常より遥かに大きいブレスを放つ。
「おぉっとハズレや。」
またも音のした方に目を向けると、じわりと空間から染み出すようにソイツが姿を現した。
(コイツはエージェンヌ殿を殺した……! ……戦場ゆえに仕方ないこととはいえ……我慢できることではないな)
「何やキレとるみたいやけど、まぁええわ。お前には悪いけど、俺の安全と楽しみのために死んでくれや」
安い挑発。
ブラックドラゴンはそれを喉の奥で笑うと、自分の纏う〈カースアーマー〉をさらに強化。同時に邪妖精達がさらに強化魔法を重ね掛けし、攻撃魔法の詠唱に入る。
「グオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
眼前の怨敵目がけ襲いかかった!!
「ほな、マジカル★ブレード(笑)やな」
それに対し黒蟻は、腰に付けたポーチからずるずると、さながら手品のように抜身のだんびら刀を取り出す。
白銀に輝く刀身の峰に背骨のように、釣針のような返しのついた突起が突き出てている。
そしてその輝きを台無しにするように毒々しい黄色の液体が滴り落ちる。
「なますに刻んだるわ!!」
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「うおぉラァ!!」
黒蟻が横薙ぎに刀を振るうとだんびら刀が伸びる―――――――――否!!
突起の数だけ別れて刃の鞭へ姿を変える!!
踊る刃が次々に邪妖精の小さな体を切り裂き真っ二つにしていく。
「キィッ!」
刃がほんの少し掠った邪妖精はブクブクと黄色い泡を吹きながら落ちていく。
それに対し邪妖精達は氷の槍を生成、ズラリと周りを埋め尽くし躱す隙間もないそれを一斉に発射する!!
だが、
「無駄ァ!!」
高速で振動を開始した黒蟻に当たった氷槍は次々に砕け散る!
「マジカル★忍法! 超振動ボディ!!」
そのまま気合いとともにだんびら刀改めだんびら蛇腹剣を自在に操り次々に邪妖精達を葬っていく。
「ゴアァァァアアアアァアアーーー!!!!」
横合いから放たれる〈カースブレス〉、紫の閃光が黒蟻に襲いかかる!
「おぉっと!」
しかしすぐに刀身を戻した黒蟻は、
「破ァッ!!」
上段からの唐竹割りでその閃光を両断し、
「おらおらオラオラオラオラオラオラオルァァァァァ!!!」
そのまま閃光の中を突っきる!!
「アァァァアアアアァアゴボウゥ!!??」
すぐさま口に辿りついた黒蟻はしかし、突進を止めずに口の中に入り込む。
「ゴ!? ガァ……グウゥゥ、ングッ」
とうとうブラックドラゴンは黒蟻を飲み込む、いや飲み込んでしまう。
「グルルゥ……グゥウ……ガアァァァアアアァアアアァァァ!!!!」
ブラックドラゴンは苦しみだし、一際大きく鳴いた。
悲鳴だった。
「アァァァババゴボゴボゴバァ…………」
口を大きく開け、噴水のように血を吐き散らすと、がくりと力を抜いて落ちなかった。
腹がだけが膨れるように持ちあがり、刀が腹から飛び出し、血の水風船を黒蟻が食い破ってきた。
ブラックドラゴンの死体は今度こそ地上に落ちて行った。
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地に落ちる黒竜を全身血でずぶぬれの黒蟻は眺める。
その表情は恍惚に歪んでいる。
「っふぅ〜〜〜〜」
いやぁ楽しいひと時やった。
やっぱ血ィ浴びんの最高や♡
噴き出す血、飛び散る血、降りしきる血のシャワー♡
暖かい腹の中から飛び出すあの感触♡
っと、んなこと考えてる暇ない、はよもう一体を(キイィィィィィィィン!!!)……チッ、あいつ来てもうた。
遠くの方から、巨大花に向かっていくあの薄緑の球体。
あいつの造ったSRやな。
殲滅型かぁ、フロストのやつも一応やる気あるんやな。
……でもアイツの場合兵器っていうより拘束具って感じやな。
まぁさっさと戻っとこか。
その前に、ザコの掃除してからやけど。
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SR兵器とはあの全ての歴史をひっくり返した大事件、『重なった日』『次元崩壊記念日』『同空間多重物質重複災害』に流れてきた様々な技術、魔術の合作のことだ。
リアルの世界でそれが起こったのはほんの50年も経っていないのだから、技術の進歩とは恐ろしい。
話が逸れたがSR兵器というのは当時最先端科学の要を担っていた天馬博士と魔術を極めたといわれるディアー・ボロスが未曾有の人類の脅威に立ち向かうべく多種多様な次元世界に存在するあらゆる文明を使って製作したとってもすっごいロボット兵器のことだ!!
どうすごいかというとまず物理法則無視。質量保存の法則無視|(おっぱいミサイルが連発できる)とか慣性の法則無視|(体がちぎれない)とかあり得ない変形|(腕がドリルに!)、合体|(合体中は攻撃されない)とかを可能にし、根性とか気合いとかで機体の損傷が治り、魂とか勇気とかで機体性能をはるかに超えたスペックを叩き出せる!!「試作型(プロトタイプ)が継続機より弱いなんて誰が決めた?」とはあまりにも有名なセリフ。
のちに様々な軍需企業や魔術結社がそれぞれ科学のみ、魔術のみのSR兵器開発に成功したりと、近年目覚ましい発展を遂げている今一番熱い兵器なのだ!!(ルリ:談)
で、ここWoRでもSR兵器は存在する。
ただし非常に機体の操作が難しく、素人は機体の性能に振り回されがちだ。
だがやはり高い防御力と攻撃力は非常に魅力的である。
しかし、「乗り物」によって倒した経験値は加算されない、乗り物が爆発するとほぼ即死(そりゃそうだ)などのペナルティーもある。
しかもある程度強いプレイヤーは普通にSR兵器やそれに準ずる戦車や戦闘機を単身で撃墜できる。
ようは小回りのきくSR兵器がごろごろしているのだ。
もちろんそれに対抗するように「乗り物」性能補正をかけれる「パイロット」という職業がある。
機体の速度を加速させたり、攻撃力を上げたり、ときには(例え首だけでも)機体を完全回復させたりと、いろいろ便利なスキルがある。
ただし……「パイロット」はぶっちゃけひどく弱い。どのくらい弱いかというと魔法使えない魔術師くらい弱い。
「パイロット 席から降りれば ただのカモ」という川柳すらあるくらいだ。
もちろんサブスキルで魔法やら銃やらで抵抗もできるが、やはり防御力が皆無で、スライムの体当たりがへヴィ級プロボクサーのパンチに感じる。
しかもこの「パイロット」スキル、特殊スキル扱いで他の職業では使えないのだ。
もちろんSR兵器は「乗り物」扱いなので「パイロット」でなくとも乗れるのだが、やはり専用スキルの<根性><気合い><加速><姿勢制御><視野拡大>などがあるほうがかなーーーり便利なのだ。
あとエースパイロットと呼ばれるような玄人は正に一騎当千の力を持てる。
それこそレベル1のプレイヤーがレベル999と渡り合えるほど。
機体さえよければ。
そう、その機体自体がとんでもなくたっっっっっっっっかいのだ!!!
初心者装備のダガーが100G、銅の剣400G、鉄の剣1000G、車80万G、戦車120万G、戦闘機150万G、SR600万G。
男の子の夢、プライスレス。
600万Gとは二か月ほど何にも買わずに(回復アイテムも)上級ダンジョンにこもり続けて手に入る額だ。
ちなみにこれでやっと一般的な量産機体(ザクとかジム的なアレ)だ。
あとは改造やパーツの組み換えで個性を出したり強化したり。
もちろんパーツもクリエイトできるのでザクを(格好だけは)ゲルググにできる。
『ラヴァーズ』はSR兵器生産ユニット、つまり『フロスト兵器研究所』をダンジョン内部に持っているのでそれより安く手に入る。
そしてこの施設をエンジニア系職が使うとさらに安く生産できる。
そう、つまりフロストだ。
ガラスの筒みたいな転送ゲートにフロストは仁-七号で乗り込む。
女性の機械音声が上から聞こえてくる。
『どちらへ行きますか?』
「出撃用転送ゲート・前面Y16番ダ」
『了解。出撃用転送ゲート・前面Y16番に接続。・・接続完了。転送開始』
フロストの周りのガラスケースが透明から漆を流し込むように黒くなり幾何学的な光の模様を描いて、
『転送完了』
再び周りが透明になり、転送ゲートの扉が開くと、そこにあるのはカタパルト。
前に進み、カタパルトに足(と言っても靴だけみたいなものだが)を嵌め込み、フロストは吼えた。
「Dr.フロスト、仁-七号、出る!!」
ブースターに点火し、仁-七号は飛び出していった。
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短い足からジェットブースターを吹き出しながら高速で前へと飛ぶ。
クーッと大きく廻って方向転換。
そのまま加速して巨大花に突っ込む!!
「ム、これはブレーキではなかったのカ?」
勇敢にもノーブレーキアクセルフルスロットルでタックルをかます!
その凄まじい体当たりは500メートルもの巨大花を大きく揺らした。
だがそこにほとんどのダメージはない。
「キイィィィィィィィッッッ!!!!」
傾いた茎を元に戻し、すぐさま大量の触手が襲いかかってくる!!
だが仁-七号も姿勢を元に戻し後ろに飛びつつ、
「ミサイル全弾喰らうがいイ!!」
ピッ!
右手がドリルに変形しロケットパンチ化して前に翔んでいった。
「……」
ドリルパンチは触手を巻き込みながら巨大花に迫る!
だが、触手のいたるところに生える花から迎撃レーザーが放たれ、ドリルパンチは爆発する。
そしてなお増え続ける触手に囲まれ、花の銃身が仁-七号に狙いを定める。
「クッ!シールド展開!!」
落ち着いて七本あるレバーの一つを引く。
仁-七号のボディに帯状に穴がズラリと開き、ミサイルが発射され、同時に光線が放たれる!!
光線の雨に次々と撃墜されるミサイル群。だが幾つかは着弾し、触手の壁を大きく削る。
「……ヨ、よシ!今ダ!!バースト・フリーズ!!」
カチッ!
ブウゥゥゥゥゥン・・・
薄緑の透明なシールドが仁-七号を包み込む。
「…………」
そうこうしているうちにまたも触手に囲まれ、今度は直接押し潰そうとシールドをギリギリと締め上げる!!
ピシ…………ビキ……。
シールドに僅かづつ罅が入ってくる。
「フッ……だが転送装置を使えば一瞬で貴様の後ろダ。」
ポチッ!
キュッポン!
気の抜ける音がすると仁-七号の翔んでいった右手が新たに生えた。
「……」
パッキイィィィィィィィィィィン!!!
そうこうしているうちにシールドが粉々に割れ、あっという間にぐるぐる巻きになり、
不気味な軋みがあちこちから聞こえてくる。
「フ……フハハ、だがまだ挽回できル。全方向凍結エネルギー、照射!!」
カチッ!
両手が翔んでいった。
「……フゥ」
……ピッポッパッ。
ピピーッ!自爆装置作動。
10、9、8……
フロストはアイテムボックスを開くと、実に慣れた手つきで『脱出』の項目を選び一枚の札を取り出す。
赤い染料で『転移』と書かれた札を破くと、フロストはフッとコックピットからいなくなっていた。
……2、1、0。
電子音、表示される『God bless you!』
突然仁-七号を包んでいた触手の塊から眩い閃光が流れ出す。
運悪くその漏れ出た光が当たったマジカル兵蟻は、あっという間に凍りつき、佇む氷像と化した。
同じように、その光線をもろに浴びている触手の塊も即座に凍りつかせ、冷気がどんどん触手を伝って葉を茎を花を根を凍らせ、地面を伝って城壁の一部を覆い、多くのモンスターも氷像に変えてようやく止まった。
巨大花フィラメスは細胞ひとつ残さず氷の彫刻と化し、城の黒いオーラを反射して静かに煌めいていた。