これは日常茶飯事ダ。
ここは超巨大空中要塞『モンストロ』。
の上に突き出てる塔。
の中のブリッジ。
の下の階。
休憩室。
コーヒーをがぶ飲みしたフロストが、その白い息とともに言う。
「さテ、そろそろ相手方も退屈しているだろウ」
「お? また俺の出番やな!」
シャキーンと紅く煌めく刀を抜いた黒蟻。そのままダッシュで飛び出そうとする。
(やれやれ、この変態は……)
そのまま足を引っ掛けて派手に転がす。
ガシャ――ン!!!ゴロゴロゴロ・・・・・。
無言で立ち上がる黒蟻。
フロストも無言で重厚な鉄甲を腕にはめる。みるみるうちにその鉄甲が凍りつき白い冷気が立ち上る。
黒蟻がクイッと外に向けて顎をしゃくり、それに頷いてブリッジから出るフロスト。
二人とも無言のまま塔の最下層、つまりはエージェンヌが吹き飛んだ真っ白空間に向かう。
『ラヴァーズ』メンバーは全員がレベル999なので彼らが争うといちいち施設がぶっ壊れるのだ。
細かいものを数えるとキリが無いのでいくつか大きな例をあげると
・通路でルリと黒蟻の肩がぶつかる。→通路全壊
・フロストの日頃のストレスが爆発→第三階層壊滅
・黒蟻がラヴの愚痴を言い、その際ラヴを「異常識人」と呼んだのをたまたま通りがかったラヴ本人に聞かれる。→食堂半壊。黒蟻ナイフと針で壁に磔。
そんなことがたびたびあったのでラヴがギルドポイントを消費して塔を増築し、 『ここ以外でケンカしたらスペシャルなオシオキだよ?』 と言ったのだ。
で、
「あんなやり方で止めんなや!」ドンッ!
「ああでもしないと止まらんだろうガ!!」ガギィッ!!!
二人は殺り合っていた。
たった一合で鉄甲の上半分がザックリと削られる。同時に黒蟻の刀が腕ごと凍りつく。が、こちらはすぐに超振動で氷が弾け散る。
「俺が行ったらあかんのかいっ!」イィィィィン!!
紅く煌めく刀を構えての突撃を、
「いヤ、お前の出番はまだダッ!」ギィーン!!
はめた手甲で弾く。今度は刃が立たないよう、腹の部分に拳を叩きつける。
「あ!? じゃあお前が出るんかっ!」ギャリギャリギャリギャリギャリ!!
それでもその超振動が鉄甲を削っていく。
「いや俺でもなイ! モンストロの試運転ダッ!!」ドゴッ!!
逸れた半身に目掛けて蹴りを叩き込む。が、手応えはない。
「まだなんかあったんか?」ザザァッ・・・
どうやら自分から後ろに飛んだらしい。
(あの突撃の勢いからすぐに反転するとはな……種族的なボーナスかそれともヤツのテクか……)
わりと本気で殺り合っていた二人は距離を取る。
「……まだ強襲設備と主砲、シールドにステルス機構に音波兵器に変形機構に光弾と魔弾の試射、それか「オッケー、好きにしてや」」
かなりあっさりと引き下がる黒蟻。フロストのこだわり(オタク談義)は引火する前に消火しないとかなり面倒なのだ。
「……そうさせてもらウ」
話を途中で遮られてフロストは不満そうに締めくくった。これらの機構を思い付いたのはラヴだが、組みこんだのはフロストなのだ。
ようは一番苦労した立役者であり、「モンストロ」の母とも言える。
「ん? でもやで? そんだけ使ったらあの城跡形もないんちゃう?」
「だから今回は強襲設備の試運転だけダ……つまりはお前の作ったメカシノビ部隊ダ」
「おっマジでか!! それをはよ言えや! ククク、ついにアイツらのお披露目かぁ。楽しみやなぁ、クククハハハハ!!」
「……現金なヤツダ。機嫌が治ったならとっとと行くゾ。あんなザコギルドにてこずったなんてボスに思われてみロ?何されるか予想がつかン」
そう言って背を向けさっさと行くことにする。
(全く、キレやすく冷めやすい、ここの連中に常識は通じんな。……ま、唯一まともなこの俺が、しっかりせねばな)
そう、寡黙な仮面の裏側で、やや諦めに似た境地に達していた。
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(ふ~、多少強引やったけど何とか終われたな)
黒蟻はコッソリと額の汗を拭う。
実のところそれほどキレてなかったのだが、なんとなく引っ込みがつかなくなっただけだったのだ。
(あんな下らん理由で俺に向かってブチキレられたらシャレならんからなぁ)
冷や汗をかきながら黒蟻はその白衣の背中をじっと見送った。
歩く不発弾、気の長いロシアンルーレット、鬼神二面相、呼ばれたあだ名はラヴより多い。
その称号は『激怒博士』 。
『ラヴァーズ』最強の前衛である。
更新遅れてすいません!!!!
えーこれからも不定期更新になりそうですが、
どうか!!なにとぞ末長くお付き合いください!!!