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ただより高い

作者: 溜せうゆ
掲載日:2026/05/16

 最近ひどくなった物忘れが心配になり、かかりつけの医者に相談したところ、ある施設への紹介状を渡された。


 実際に訪れてみたその施設は、ものものしい警備を敷いた研究所のような建物だった。


 受付で紹介状を示してほどなく現れた白衣の男も、医者というより研究者のような雰囲気をまとっていた。


「この生体チップを頭に埋め込むことで、あなたがした会話や行動を自動で記録し、必要な時に思い出すことができるようになります。これでほぼ完全に物忘れを防げますし、もちろん危険がないことは保証します」


 その男がよどみない説明とともに太鼓判を押す。


 それが本当であればまさに願ったり叶ったりだ。


 そうなると次に気になるのは費用で、率直にどのくらいかかるのかと尋ねてみると、男からは意外な答えが返ってきた。


「実はこのチップの開発や提供には、とある大企業から大きな支援をいただいておりまして、手術やその後のメンテナンスもすべて無料で受けられるんですよ」


 そんなうまい話があるだろうかと訝しくも思ったが、どうせほかに効果的な対処法もないのであれば、ちょっとした冒険のつもりで手術を受けてみることにした。



「――ご気分はいかがですか?」


 手術自体はとくに痛みなどもなく、ごく短時間で終わった。


 けれどその効果は目覚ましく、すぐさま実感できるほどだった。


 以前に比べて明らかに頭がすっきりし、まるで若いころに戻ったかのようだった。


 しかし、時間がたつにつれ、ひとつ不思議、というか不自然なことが起こった。


 なんといったものか、何かに行動が操られているような気がしてきたのだ。


 たとえば何か食べようと思った時、空腹感以上に食べてしまったり、毎度同じようなものばかり食べたくなったり……。


 はじめは気分につられて嗜好も若返ったのかと思った。


 けれど、食事関係以外でも似たようなことがたくさんあった。


 これは単純な不具合なのか、やはりなにかだまされていたのか……。


 原因をはっきりさせるため、再びあの施設を訪ね、あの時の男にあらためて問いただした。


「安心してください。それは正常な動作です」


 それでも明らかに前とは違うと食い下がると、男はこともなげに答えた。


「チップに記録されたあなたの言動を参考にして、無意識の領域におすすめ広告が表示されるようになっているんです。どうしてもということなら広告なしの有料版もありますけど」

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