0話 プロローグ(後)
次の瞬間。
「やった……ッ、やったぞおおお……!!見たか……!
これでもう、彼女は自由だ……!」
フェインは、跳びあがった。
「……さようなら、ルアロア。どうか……」
ローレンシアは目を閉じ、
その最後の祈りを、胸に残した。そして、隣の男に腕を伸ばした。
「……フェイン」
「……ああ」
ふたりは、そっと抱き合った。
罪を背負い、世界を裏切って繋いだ最後の希望を、その胸に――
確かに送り出したのだ。
(……君と、出会えてよかった)
フェインの頬に、複雑で、けれど確かな温度が伝った。
(……でも)
そのとき、二人は感じ取っていた。
互いのわずかな震え。何かが忍び寄ってくる気配を。
フェインは、ローレンシアを見た。
彼女もまた、彼を見返していた。
言葉はなかった。
それで、十分だった。
その瞳に浮かんだものは――同じだった。
「……んっ」
ローレンシアの喉から、かすかな声が漏れた。
肌をなぞるように広がる靄は、まるで氷のような冷たさで。
その感覚に、思わず息が詰まった。
振り返る間もなく、漆黒の靄が、二人を包み始めていた。
それはまるで――
希望を嘲笑う、不吉そのものだった。
瞬間。
祭壇は、黒い霧に包まれた。
音、光。
祈りさえも。
すべてが、霧の奥へと沈んでいく。
漆黒は、ふたりを呑み込み……
世界を閉じた。
それは、一切の光さえ届かぬ夜の終わり。
けれど、忘れてはならない。
夜明けはいつも、
絶望から始まるということを。
これは、
壮大な運命を託された一人の少女が、
か弱き手で、星の定めに抗った、ただ一度の記録。
蒼き果実は眠る。
星の深奥に触れながら。遠い光を宿し。
その器の中で。
その時を待ちわびて――




