第三章 次は、誰と行く?
朝のギルドは、
いつもより騒がしかった。
依頼書の数が多いわけじゃない。
人が多いわけでもない。
ただ――
行き先が、増えていた。
壁に貼られた地図には、
赤い印がいくつも打たれている。
海沿い。
山越え。
遺跡の外縁。
「……遠いね」
ミーネが、地図を見上げて言う。
「はい」
リオは、視線を動かす。
「でも」
一拍。
「全部、違う世界です」
⸻
声をかけてきたのは、
意外な人物だった。
「……また、外に出るんだって?」
フードを外したエルフ――セイル。
「今度は、
索敵だけじゃないらしいな」
「はい」
「採集?」
「……見学も含めて」
セイルは、くすっと笑う。
「職人らしい言い方だ」
⸻
続いて、
重い足音。
「おい」
狼の獣人――ガルム。
「今度は、
止められすぎない装備なんだろ?」
「はい」
「なら、
俺も行く」
理由は、聞かなくても分かった。
前に出るしかなかった男が、
“景色を見る余裕”を試しに来ている。
⸻
最後に、
静かな声。
「……海に行くなら」
振り向くと、
初めて見る女性が立っていた。
髪は短く、
服は実用一点張り。
「潮と金属の腐食を、
私は知ってる」
名を尋ねると、
短く答える。
「ルゥナ」
鍛冶師ではない。
冒険者でもない。
元・船大工。
「……世界、
違う顔してるよ」
その一言が、
リオの胸に残った。
⸻
夜。
工房で、
リオは装備を並べていた。
・高原用
・風馴染み
・戻る留め具(最小)
それぞれ、
役割が違う。
「……全部、持って行かないんだ」
ミーネが言う。
「はい」
「不安じゃない?」
「……少し」
正直だった。
「でも」
装備を一つ、置く。
「知らない場所では、
知らないままでいたい」
ミーネは、何も言わず、頷いた。
⸻
出発は、夜明け。
今回の行き先は――
海沿いの霧の街。
山とは、
風が違う。
音が違う。
匂いが、
まるで違う。
「……これが」
リオは、足を止める。
「世界が変わるってこと」
同じ空の下なのに、
歩き方も、
呼吸も、
判断も、変わる。
「な?」
ガルムが、少し照れたように言う。
「世界、
広いだろ」
セイルは、遠くを見る。
「……広すぎて、
油断すると迷う」
ルゥナが、海を指差す。
「だから、
知る人が要る」
リオは、全員を見る。
「……行きましょう」
「今回は、
装備の答えを探す旅じゃありません」
一拍。
「世界に、
質問しに行く旅です」
⸻
霧の向こうで、
波の音がする。
見えないけれど、
確かにそこにある。
リオは、胸の奥が
少しだけ震えるのを感じた。
怖さじゃない。
期待だ。
「……帰ってきたら」
誰にともなく、呟く。
「きっと、
また作りたくなります」
それは、
職人として。
そして――
世界を歩く人としての言葉だった。




