表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第5章:完成、そして別れ

夜明け前の空気は、昼とも夜とも違う匂いがする。


工房の扉を開けると、冷えた風が入り込み、炉の火がわずかに揺れた。リオはそれを確かめるように、無意識に一歩炉へ近づく。火は弱っているが、まだ生きている。


――大丈夫。


ガルムは外套を羽織り直し、出来上がった補強具を腰の防具へと取り付けていた。剣の刃だった名残は、形を変えて鎧の内側に収まっている。


「違和感は?」


「ない」


短い答えだったが、嘘はなかった。


ガルムは一度、軽く体を動かす。肩を回し、腰を落とし、前に踏み込む。剣を振る動作はしない。それでも、身体の動きが確かめられているのが分かる。


「……軽いな」


「刃の重心を、そのまま使っています」


「なるほど」


ガルムは一度だけ、深く息を吸った。


「剣を失ったと思ったが……そうでもない」


リオはその言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。


オルドは工房の隅で、それを黙って見ている。評価も、助言もない。ただ、今日の仕事が終わったことを受け入れているようだった。


「代金は?」


ガルムがそう尋ねる。


「……最低限で」


リオがそう言うと、ガルムは一瞬だけ目を細めた。


「安すぎる」


「それ以上は、請求できません」


「理由は」


リオは少しだけ考え、答えた。


「この剣は……もう、十分に働いたので」


ガルムは何も言わず、しばらく黙っていた。


やがて、腰袋から小さな金属片を取り出す。


「これは、別だ」


机の上に置かれたそれは、見たことのない素材だった。黒く、わずかに青を帯びている。


「次に使え。必要になる」


「……ありがとうございます」


ガルムはそれ以上、何も言わなかった。


扉の外で、朝の光が強くなっていく。町が目を覚まし、今日も誰かが旅に出る時間だ。


ガルムは工房の前で立ち止まり、振り返った。


「俺は前に出る」


「はい」


「だが、生きて戻る」


その言葉は、約束ではなかった。

宣言だった。


「背中は、守ってもらった」


ガルムはそう言って、外套を翻した。


「……行ってきます」


それだけ言い残し、彼は街道へと歩いていった。


リオは、しばらくその背中を見送っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ