表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「灰炉に残る温度」  作者: ぷにゅん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/58

第三章 選ばなかった者の代償

そのパーティは、

どちらにも属していなかった。


灰炉式は使わない。

だが、否定もしない。


強化装備は持つ。

だが、限界までは使わない。


「……無難だろ」


出発前、誰かがそう言った。


「前にも出ないし、

 戻りすぎもしない」


その言葉に、

全員が頷いた。


選ばないことが、

安全だと信じていた。



現場は、霧の山道だった。


魔物は少ない。

地形も、難しくない。


ただ――

視界が、途切れる。


「……そろそろ引く?」


先頭が、軽く聞いた。


「まだ行ける」


返事は、即答だった。


「灰炉式じゃないしな」


その一言で、

判断は先延ばしにされた。



異変は、音で来た。


きぃ……


金属が、擦れる音。


誰かが、足を止める。


「……装備、鳴った?」


「いや、

 強化は制限してる」


次の瞬間、

足元の石が崩れた。


「――っ!」


踏みとどまった。

倒れなかった。


だが――

判断は、遅れた。


「引け!」


声が、重なる。


だが、

誰が決めたわけでもない。


全員が、

“今だ”と思っただけだ。



戻る途中で、

それは起きた。


後衛の一人が、

一拍、遅れる。


「……待て!」


手を伸ばす。


だが、

強化装備が――

踏み込みを、押した。


止まらない。


前に出る力が、

戻る意思を上書きする。


「――っ!」


転倒。


斜面を、

数メートル滑落。


致命傷ではない。


だが――

装備が、壊れた。



夜明け。


救助は、間に合った。


命は、助かった。


だが、

誰も、喜ばなかった。


壊れた装備は、

“どちらの思想”でもなかった。


止める機構は、ない。

問い返す余白も、ない。


ただ、

判断を助けない装備だった。


「……俺たち」


誰かが、呟く。


「何も、選んでなかったな」


返事は、なかった。



《灰炉の工房》。


朝の火を入れる前に、

リオは報告を受けた。


内容は、短い。


・死亡者なし

・装備破損

・判断遅延による事故


ミーネが、静かに言う。


「……どっちでもない装備」


「はい」


リオは、目を伏せる。


「選ばなかった結果です」



昼。


壊れた装備が、

工房に運ばれてきた。


持ち込んだのは、

事故に遭った本人だった。


「……直せますか」


リオは、

すぐには答えなかった。


装備を、分解する。


留め具も、境界も、ない。


前にも、後ろにも、

寄らない構造。


「……直せます」


そう言ってから、

続ける。


「でも」


顔を上げる。


「直す前に、

 決めてください」


男は、息を呑む。


「……何を」


「次は、

 どちらを選ぶか」


沈黙。


やがて、

男は言った。


「……戻る」


短い言葉。


だが、

はっきりしていた。



その夜。


別の拠点では、

ヴァイス派の者が、

事故の話をしていた。


「どちらにも属さないのは、

 一番危険だな」


ヴァイスは、

黙って聞いていた。


「……選ばない者は」


低く、言う。


「戦場では、

 守られない」


それは、

事実でもあり、

警告でもあった。



同じ夜。


レオンは、

工房の前に立っていた。


扉は、閉まっている。


中で、

火の音がする。


「……世界は」


小さく呟く。


「もう、

 中間を許さない」


その言葉は、

悲しみでも、

覚悟でもあった。



翌朝。


《灰炉の工房》の札が、

静かに書き換えられた。


灰炉式は、

判断を委ねる技術です

使うかどうかは、

必ず決めてください


誰も、文句を言わなかった。


もう、

分かっていたからだ。


選ばないことは、

選択ではない。


灰炉の温度は、

今――

人の中で、

確かに燃えている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ