第十六話 折れなかった剣 第一章 それでも前を向く
目を覚ましたとき、
天井は白かった。
眩しくはない。
だが、戦場の闇よりは、ずっと現実的だ。
「……生きてる、か」
ヴァイスは、天井を見たまま呟いた。
身体は重い。
だが、壊れてはいない。
――壊れなかった。
それが、
いちばん腹立たしかった。
⸻
「目、覚めた?」
声は、落ち着いていた。
視線を向けると、
そこにいたのはレオンだった。
剣はない。
鎧もない。
ただの男の姿。
「……見舞いか」
「確認だ」
レオンは、椅子に腰掛ける。
「戻れなくなっていないか」
ヴァイスは、鼻で笑った。
「冗談だろ」
少し間を置いて、言う。
「……まだ、前に出られる」
レオンは、否定しなかった。
「そうだな」
「止めに来ないのか」
「止めない」
レオンは、静かに言った。
「選択肢は、残す」
ヴァイスは、目を閉じる。
「……あの職人」
「リオか」
「そうだ」
ヴァイスの声は、低い。
「俺は、
あいつに負けたとは思っていない」
レオンは、答えない。
「だが」
続ける。
「世界の見え方は、
少し変わった」
⸻
沈黙。
外で、雨上がりの音がする。
「……なあ、レオン」
ヴァイスが、ぽつりと言う。
「お前は、
後悔してるか」
レオンは、即答しなかった。
「……後悔は」
少し考えてから、言う。
「遅かったことだ」
ヴァイスは、目を開ける。
「止まるのが?」
「戻るのが」
二人の視線が、重なる。
「俺は」
ヴァイスが、ゆっくり言う。
「まだ、
止まれない」
「そうだろうな」
レオンは、立ち上がる。
「だが」
扉に手をかけて、振り返る。
「行き止まりは、
覚えておけ」
「……覚えてるさ」
ヴァイスは、薄く笑った。
「嫌ってほどな」
⸻
その夜。
《灰炉の工房》では、
リオが炉の前に立っていた。
火は、弱い。
だが、
迷いはない。
ミーネが、静かに聞く。
「……ヴァイス、生きてるって」
「はい」
「折れてない?」
「折れていません」
リオは、はっきり言う。
「だから、危険です」
ミーネが、苦笑する。
「敵になる?」
「……分かりません」
リオは、灰を見る。
「でも」
一拍。
「選ばせる世界は、
必要です」
⸻
同じ夜。
別の部屋で、
ヴァイスは起き上がっていた。
剣は、まだ遠い。
だが、
目は――前を見ている。
「……戻る英雄、か」
小さく呟く。
「悪くない」
そして、
別の言葉を続けた。
「だが、
俺はまだ――前に行く」
その選択は、
正しいとも、
間違っているとも、
まだ言えない。
ただ一つ確かなのは――
世界は、
もう一度、分かれる。




