表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「灰炉に残る温度」  作者: ぷにゅん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/58

第十五話 名を持つ者 第一章 英雄の名は、呼ばれなくなる

その名は、

王都では知らない者がいなかった。


レオン・グレイヴァル。


魔物の群れを押し返し、

防壁を守り、

数えきれない夜を越えてきた英雄。


そのレオンが――

《灰炉の工房》の前に立っている。


それだけで、

人は立ち止まった。


「……本物だよな」


「なんで、あそこに?」


ざわめきが、自然と距離を作る。


レオンは、剣を帯びていない。


鎧もない。


だが、

誰も近づけない静けさがあった。



「……来たか」


低く言ったのは、レオンだった。


街道の向こう。

数人の冒険者が、足を止める。


装備は新しい。

動きは揃っている。


「王都評議会の“調査”だ」


先頭の男が言う。


「灰炉式の安全性を確認する」


レオンは、一歩も動かない。


「確認は、

 現場でやれ」


「現場が問題だと言っている」


「だからだ」


レオンの声は、静かだった。


「戻れない装備が、

 どれだけ人を壊すか」


男が、舌打ちする。


「英雄が、

 職人の盾になる気か?」


レオンは、短く答えた。


「なった」



《灰炉の工房》の中で、

リオは、外の気配を感じていた。


ミーネが、小さく言う。


「……名前、出たね」


「はい」


「これ、

 もう後戻りできないやつ」


リオは、炉を見る。


「……名前は、

 重いですから」


「背負わせた?」


「自分で、

 背負ってきました」



外で、緊張が高まる。


「英雄が、

 判断を誤るとはな」


男の声が、挑発を含む。


レオンは、少しだけ笑った。


「誤ったのは、

 前に出続けたことだ」


「……何?」


「俺は」


一歩、踏み出す。


「戻る判断を、

 教えられた」


その瞬間、

空気が変わった。


レオンが前に出る。

――だが、構えない。


「工房には、

 入らせない」


「理由は?」


「ここには」


レオンは、はっきり言った。


「帰るための技術がある」


沈黙。


誰も、踏み込めない。



やがて、

調査役たちは引いた。


命令ではない。

判断だった。


レオンは、

背を向ける。


《灰炉の工房》の扉が開く。


リオが、外に出る。


「……名前を出しましたね」


「出した」


レオンは、即答する。


「隠す理由が、

 なくなった」


リオは、少し考えてから言う。


「……これからは」


「呼ばれない」


レオンは、静かに答える。


「だが」


視線を上げる。


「戻る者の先頭には立つ」


それは、

英雄の新しい役割だった。



この日から、

王都で噂が変わる。


「英雄が、

 戦場に出なくなった」


「代わりに、

 “戻る判断”を広めている」


「灰炉式を、

 守っているらしい」


名は、広がる。


だが――

呼ばれ方は、変わった。


それこそが、

リオが作ろうとしている世界だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ