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「灰炉に残る温度」  作者: ぷにゅん


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第十三話 呼ばれない英雄 第一章 止められない夜

その夜、王都は眠っていなかった。


遠くで鐘が鳴り、

それが一度きりで終わらなかった時点で、

異常事態だと分かった。


《灰炉の工房》の扉が叩かれる。


今までで、

一番――乱暴な音だった。


「開けろ!!」


声が、切羽詰まっている。


リオが扉を開けた瞬間、

熱気が流れ込んできた。


「……暴走だ」


息を切らした冒険者が言う。


「高位の強化装備が、

 止まらなくなった」


ミーネが、顔色を変える。


「暴走って……」


「魔力を溜めすぎた!」


男は叫ぶ。


「前に出続けて、

 引けなくなってる!」


リオは、すぐに理解した。


――灰炉式と、正反対。



現場は、王都外縁の防壁付近。


魔物の群れ。

だが、それ以上に危険なのは――

一人の冒険者だった。


全身を覆う強化装備。

魔力が噴き上がり、

一歩ごとに地面が抉れる。


「下がれ!!」


誰かが叫ぶ。


だが、

冒険者は止まらない。


止まれない。


「……英雄だ」


誰かが、呆然と呟く。


「前に出続ければ、

 全部倒せるって……」


リオは、その背中を見た。


速すぎる。

強すぎる。


そして――

帰る選択肢が、消えている。


「……呼ばれない理由」


リオは、小さく呟いた。



リオは、前に出ない。


代わりに、

地面にしゃがみ込み、

装備の“癖”を見る。


力の流れ。

溜まり方。

逃げ道の無さ。


「……留め具が、

 完全に“前専用”です」


ミーネが、歯を噛む。


「止められない?」


「……止めません」


リオは、はっきり言った。


「止めたら、壊れます」


周囲が、ざわつく。


「じゃあどうする!」


リオは、顔を上げる。


「呼び戻します」



リオは、腰から

自分用の短刃を抜いた。


刃は、光らない。

強化もされていない。


だが――

柄の中に、灰流鉄。


一歩、前に出る。


「おい!」


誰かが叫ぶ。


「近づくな!!」


リオは、止まらない。


速くもならない。


一定の歩幅で、

英雄の進路に入る。


「……前に出るな」


低く、だが通る声。


英雄の足が、

一瞬だけ、迷う。


――問い。


「戻れ」


リオは、刃を構えない。


ただ、立つ。


「もう、十分だ」


次の瞬間、

英雄の装備が――軋んだ。


魔力が、逃げ場を見つけられず、

一気に溢れる。


だが――

リオの短刃が、一度だけ鳴る。


カチ、と。


英雄の身体が、

前に出られなくなる。


倒れない。

止まらない。


“戻れる速度”まで、落ちる。


「……あ?」


英雄が、初めて声を出す。


「……脚が」


「戻れます」


リオは、静かに言った。


「今なら」



戦いは、

そこで終わった。


英雄は、座り込む。


息は荒い。

だが、生きている。


周囲の冒険者たちは、

言葉を失っていた。


「……止めた?」


「いや……」


ミーネが、呟く。


「帰した」


英雄は、

リオを見上げる。


「……なんで」


リオは、答える。


「あなたは、

 “呼ばれる英雄”じゃない」


一拍。


「帰る英雄です」


その言葉は、

剣よりも深く刺さった。



夜が明ける。


王都は、

無事だった。


だが――

噂は、止まらない。


「英雄を止めた職人がいる」

「いや、止めてない」

「戻したらしい」


《灰炉の工房》の前に、

人が集まり始める。


リオは、札を書き換えた。


《本日は、依頼を受けません》


その下に、

もう一行。


――英雄用装備は、作りません。


ミーネが、隣で笑う。


「……盛り上がったね」


「はい」


「敵、増えたよ?」


「はい」


リオは、静かに炉を見る。


「でも」


「“帰りたい人”も、

 増えました」


灰炉の温度は、

この夜、

確実に――一段、上がった。


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