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「灰炉に残る温度」  作者: ぷにゅん


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第二章 名を名乗る責任

王都の公会堂は、久しぶりに満席だった。


冒険者。

鍛冶屋。

ギルド職員。

そして――市場の露店主まで。


前に立つのは、演壇一つ。

飾りはない。

旗も、称号もない。


リオは、そこで深く息を吸った。


「……本日は、集まっていただき、ありがとうございます」


声は小さい。

だが、はっきり届く。


ざわめきが、少しだけ静まる。


「“止める装備”について、

 誤解と事故が起きています」


会場の後方で、誰かが鼻を鳴らす。


「私は、《灰炉式》を作りました」


その言葉に、空気が変わった。


「ですが」


リオは、続ける。


「似ているものと、

 同じものは、違います」


ざわり。


「止めるだけの装備は、

 灰炉式ではありません」


誰かが、声を上げる。


「だったら、

 何が違うんだ!」


リオは、頷いた。


「説明します」


そして、ゆっくりと話し始めた。



「灰炉式は、

 前に出るための技術ではありません」


言い切る。


「そして、

 止めるためだけの技術でもありません」


間を置く。


「“戻る前提”の設計です」


会場が、静まる。


「踏み込みに抵抗を返します。

 ですが――」


一歩、前に出る。


「戻る動きには、抵抗を返しません」


「それが、“歩幅”です」


誰かが、ぽつりと言う。


「……止めるんじゃない」


「はい」


リオは頷く。


「問い返すのです」


別の声。


「そんなの、

 分かりにくい!」


「はい」


即答だった。


「分かりにくいです」


ざわめき。


「だから、

 説明が必要です」


リオは、会場を見渡す。


「灰炉式は、

 誰にでも売る装備ではありません」


前列の鍛冶屋が、苛立った声を上げる。


「商売にならん!」


「なりません」


これも、即答。


「灰炉式は、

 商売より先に、

 帰還を優先します」


沈黙。


やがて、年配の冒険者が立ち上がる。


「……もし」


声が低い。


「灰炉式を使って、

 前に出られず、

 仲間が死んだら?」


空気が張り詰める。


リオは、逃げなかった。


「責任は、

 私が持ちます」


どよめき。


「だから」


続ける。


「灰炉式は、

 私の管理下でしか渡しません」


ミーネが、後方で息を呑む。


「使用前に説明。

 使用後に確認。

 必要なら、回収します」


「……横暴だ」


誰かが呟く。


リオは、静かに頷いた。


「はい。

 横暴です」


一瞬、会場が止まる。


「でも」


リオは、声を落とす。


「命に関わる装備を、

 野放しにするほうが、

 もっと横暴だと考えます」


沈黙。


やがて、別の声が上がる。


「……だったら」


若い冒険者。


「灰炉式って名前、

 使えないようにしろ」


リオは、首を振った。


「使えます」


「……は?」


「正しく使うなら」


リオは、はっきりと言った。


「条件を公開します」


紙を掲げる。


灰炉式・定義

・踏み込み抑制

・後退補助

・使用者への説明必須

・調整者の立ち会い

・誤用時の回収


「この条件を満たさないものは、

 灰炉式ではありません」


ざわめきが、

ゆっくりと形を変えていく。


怒りだけではない。

理解が、混じり始める。


「……面倒だな」


誰かが言う。


リオは、微かに笑った。


「はい」


「でも」


別の声。


「……これ、

 ちゃんと帰る装備だ」


その言葉に、

会場の空気が、少しだけ柔らいだ。



夜。


工房に戻ったリオは、

炉の前に立つ。


ミーネが、隣に来る。


「……宣言したね」


「はい」


「敵、増えたよ」


「はい」


「味方も?」


リオは、少し考えてから答えた。


「……歩いて帰る人が、

 一人でもいれば」


炉を見る。


「十分です」


火は、入れない。


だが――

灰炉の温度は、

確かに、世界に伝わった。


名を名乗るということは、

名を守るということ。


そしてそれは、

戦うよりも、

ずっと体力のいる仕事だった。


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