表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「灰炉に残る温度」  作者: ぷにゅん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/58

第十話 歩幅を知らない世界 第一章 似ているだけの火

王都の市場は、朝から騒がしかった。


鉄の匂い。

炭の煙。

呼び込みの声。


「見ろよ!

 “止める装備”だ!」


露店の一つで、

簡素な胸当てが掲げられている。


「踏み込みを抑える!

 灰炉式“風”!」


その言葉に、

人だかりができていた。


装備は、軽い。

刻印もある。

だが――どこか、雑だった。


「……安いな」


「王都公認じゃないけど、

 同じ効果だってさ」


「本家は高いし、

 条件もうるさい」


人々は、納得したように頷く。


“似ていれば、同じ”

そう思いたくなる気持ちは、

誰にでもある。



その日の夕方。


《灰炉の工房》の扉が、

激しく叩かれた。


「――開けてくれ!」


切迫した声。


リオが扉を開けると、

そこには、担架があった。


乗せられているのは、

若い冒険者。


胸当ては、割れている。


「……止める装備、だって」


同行者が、歯を噛みしめる。


「前に出ようとした瞬間、

 一気に固まった」


リオの指が、止まる。


胸当てを外し、

内側を見る。


刻印はある。

だが――逃げ道がない。


「……止めただけ、ですね」


「止めただけ?」


「はい」


リオは、静かに言った。


「これは、

 問い返しません」


同行者が、息を呑む。


「どういう……」


「灰炉式は、

 “戻る前提”で抵抗を返します」


胸当てを置き、続ける。


「でも、これは――

 止まるだけ」


沈黙。


「だから、

 前に出た力が行き場を失い、

 身体に返った」


同行者は、顔を覆う。


「……そんな」


リオは、ゆっくりと息を吐いた。


「……誰が作りましたか」


「市場の……鍛冶屋だ」


「名は」


「……覚えてない」


それが、答えだった。



夜。


工房は、雨音に包まれていた。


ミーネが、苛立ちを隠さず言う。


「……これ、

 完全に“真似”だよ」


「はい」


「でもさ、

 責任、リオに来る」


「分かっています」


リオは、炉の前に立つ。


火は、入れない。


「……名前を、

 使われています」


ミーネは、歯を噛みしめる。


「止めないの?」


リオは、静かに答えた。


「止めます」


ミーネが、顔を上げる。


「どうやって?」


リオは、棚の奥から、

契約書の写しを取り出す。


王都の印。


「名を守る」


ミーネは、目を見開く。


「……喧嘩売る?」


「はい」


即答だった。


「でも」


リオは、続ける。


「装備を取り上げるだけでは、

 同じことが起きます」


ミーネが、息を呑む。


「じゃあ……」


「教えます」


静かな声。


「“歩幅”を」


ミーネは、しばらく黙ってから、

小さく笑った。


「……ほんと、

 面倒くさい職人だね」


「光栄です」


リオは、炉を見る。


「真似されるなら、

 間違えられない形にします」


雨が、少し強くなる。


世界は、速い。

歩幅を知らない。


だからこそ――

歩幅を教える必要がある。


灰炉の温度は、

今夜も静かに、

“正しさの形”を保っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ