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「灰炉に残る温度」  作者: ぷにゅん


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第二章 条件付きの契約

ギルドの奥にある小部屋は、夜になると静まり返る。


表の喧騒が嘘のように、ここでは声が自然と低くなる。

長机の上に置かれたのは、白い封筒――王都の印が押された書簡だった。


「……正式だね」


ミーネが、封を切らずに言った。


「はい」


リオは椅子に腰掛け、背筋を伸ばしていた。


ほどなくして、扉が開く。

入ってきたのは、前に来た深緑のマントの男――王都の使者だ。


「時間を取ってもらって感謝する」


彼は着席する前に、短く頭を下げた。

礼儀はある。だが、立場ははっきりしている。


「結論から言おう」


男は書簡を机に置く。


「王都は、“止める装備”に価値を見出した」


ミーネが眉を上げる。


「へえ。意外」


「英雄は要らない」


男は淡々と言った。


「生き残る者が増えれば、

 結果として戦力は保たれる」


リオは、黙って聞いている。


「ただし」


男は視線を上げ、リオを見た。


「条件がある」


「……こちらも、条件があります」


男の口角が、わずかに上がる。


「聞こう」


リオは、ゆっくりと言葉を選んだ。



「灰炉式・抑制段階の装備は、

 誰にでも渡しません」


男は眉を動かす。


「理由は?」


「理解せずに使えば、

 ただの“足枷”になります」


ミーネが頷く。


「それはそう」


リオは続けた。


「使う前に、

 必ず説明を受けること。

 使い方ではなく、使えなくなる理由を」


男は腕を組む。


「教育か」


「はい。

 そして――」


リオは、はっきり言った。


「現場での調整権は、私にあります」


空気が、重くなる。


「王都の管轄装備に、

 職人が直接介入する?」


男の声が、低くなる。


「前線では、

 迅速な判断が求められる」


「だからです」


リオは、一歩も引かなかった。


「迅速な判断ほど、

 “止める線”が必要になります」


沈黙。


ミーネが、ぽつりと言う。


「……これ、

 管理側からすると、

 めちゃくちゃ嫌な条件だよ」


「承知しています」


リオは、男を見る。


「それでも、

 この条件を飲めないなら――

 装備は渡せません」


男は、長く黙っていた。


やがて、息を吐く。


「……もう一つ、聞かせてくれ」


「何でしょう」


「なぜ、そこまで縛る」


リオは、少しだけ視線を落とした。


そして、ゆっくりと話し始める。



「前に出る人ほど、

 自分を止める理由を持てません」


ミーネが、静かに息を吸う。


「“自分が行かなければ”

 “ここで引いたら”

 そうやって、

 一歩ずつ限界を越えます」


男は、黙って聞いている。


「灰炉式は、

 勇気を削る技術です」


一瞬、言葉が揺れるが、続ける。


「でも、削るのは

 “戻れなくなる勇気”だけです」


「……それを、

 王都が奪う可能性があると?」


「はい」


即答だった。


「命を守る技術が、

 命を消費する理由に変わるなら、

 私は、名を引き上げます」


長い沈黙。


やがて、男が静かに言った。


「……分かった」


ミーネが、驚いて男を見る。


「条件を、受け入れる」


「……本当に?」


「王都は、“管理しきれない技術”も必要としている」


男は書簡を差し出す。


「ただし、

 契約は“限定的”だ」


リオは、書簡に目を落とす。


・試験運用

・対象者限定

・調整者:リオ・フェルディア

・名称:灰炉式(抑制段階)


そこに、はっきりと書かれていた。


「……この契約は」


リオは、顔を上げる。


「私が止めたら、

 いつでも失効しますね」


「そうだ」


男は頷く。


「それが、条件だ」


ミーネが、小さく笑った。


「ほんと、

 扱いにくい職人だね」


「光栄です」


リオは、そう返した。


ペンを取り、

署名する。


その瞬間、

《灰炉の工房》の技術は、

初めて――世界と契約した。


男は立ち上がり、

最後に言った。


「次は、

 “試される番”だ」


扉が閉まり、

部屋に静けさが戻る。


ミーネが、深く息を吐いた。


「……もう、後戻りできないね」


リオは、静かに答えた。


「はい。

 でも――」


炉の火を思い浮かべる。


「止める覚悟は、できています」


灰炉の火は、

今日も強く燃えない。


だが、

世界を焼かないための温度を、

確かに守っていた。


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