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「灰炉に残る温度」  作者: ぷにゅん


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第七話 止めるための装備 第一章 使わせない強さ

炉の火は、弱く保たれていた。


勢いはいらない。

形を変えるほどの熱もいらない。

必要なのは――伝えるための温度だけだ。


リオは、小さな胸当てを作業台に置いた。

装甲は薄い。

軽い。

一見すると、頼りない。


だが、内側には細い溝が走っている。

灰炉式・循環段階(改)。

さらに――抑制段階。


「……踏み込めない、はず」


独り言のように呟き、リオは魔力を流した。

ほんの一滴。

溝が、かすかに脈打つ。


次の瞬間、胸当てが“拒んだ”。


弾くほど強くはない。

だが、前に出ようとした意志に、

確かな抵抗感を返す。


「……これなら」


リオは、深く息を吐いた。


扉が開く音。


「それ、何?」


ミーネだった。

いつもより表情が硬い。


「新しい灰炉式です」


「強くなる?」


「いいえ」


リオは、はっきり答えた。


「使いすぎると、動きにくくなります」


ミーネは目を見開いた。


「……嫌われるやつじゃん」


「はい」


即答だった。


「踏み込めなくなったら、

 怒る人は出ます」


「冒険者は特にね」


ミーネは腕を組む。


「“止められる装備”なんて、

 聞いたことない」


「だから、作ります」


リオは視線を逸らさない。


「前に出る人ほど、

 自分を止められません」


ミーネは、しばらく黙ってから言った。


「……じゃあ、誰に使わせるの」


「条件があります」


リオは、胸当てを持ち上げた。


「この装備は、

 使う前に説明を受けた人にしか反応しません」


「説明?」


「“踏み込めなくなる理由”を、

 理解している人だけです」


ミーネは、思わず笑った。


「なにそれ……面倒くさい」


「はい」


「でも」


ミーネは、ふっと表情を緩める。


「リオっぽい」


その日の夕方、ギルドで小さな騒ぎが起きた。


「なんだよ、その装備!」


「前に出られないじゃないか!」


集まった冒険者たちの前で、

リオは逃げなかった。


「止めるための装備です」


そう言って、説明を始める。



「これは、

 あなたを弱くする装備ではありません」


ざわめき。


「前に出すぎたとき、

 “危険だ”と身体に返します」


一人が、苛立って叫ぶ。


「そんなの、戦えないだろ!」


リオは、静かに返した。


「戦えます。

 ただし――」


言葉を区切る。


「戻れる余地を残した戦い方だけです」


別の冒険者が、腕を組む。


「つまり、

 臆病者の装備だって?」


リオは、はっきり言った。


「はい」


一瞬、空気が凍る。


「臆病で、生き延びた人のための装備です」


沈黙。


やがて、一人の年配の冒険者が口を開いた。


「……若い頃、

 俺は“止まれなかった”」


皆が、彼を見る。


「止めてくれる装備があったら、

 仲間を三人、失わずに済んだかもしれない」


その言葉で、空気が変わった。


リオは、深く頭を下げた。


「この装備は、

 勇気を奪うために作っていません」


顔を上げる。


「勇気を、

 “持ち帰る”ために作りました」


しばらくして、

ぽつりと声が上がる。


「……試したい」


それは、

強者の声ではなかった。


「生きて帰りたい人の声」だった。


リオは、その言葉を聞いて、

胸の奥が静かに熱くなるのを感じた。


炉に、弱い火を入れる。


これが――

止めるための強さ。


嫌われるかもしれない。

拒まれるかもしれない。


それでも。


灰炉の火は、

今日も“帰るための温度”を保っていた。


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