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「灰炉に残る温度」  作者: ぷにゅん


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第六話 灰炉式を使った者 第一章 帰ってきた装備

それは、夜が深くなってからだった。


《灰炉の工房》の扉が、強く叩かれた。

迷いのない音。

急いでいるが、切迫しすぎてはいない。


リオはすぐに立ち上がった。


「……はい」


扉を開けると、そこに立っていたのは、見覚えのある二人だった。

第四話で盾の調整をした、あの冒険者たち。


だが――


「……っ」


言葉が、喉で止まる。


女性のほうは立っている。

だが、息が荒く、肩で呼吸をしていた。

盾は腕に残っているが、縁が歪み、表面には深い打痕。


そして男性のほうは――

肩を借りるようにして、かろうじて立っていた。


「……戻りました」


女性が言った。


「……生きて」


リオは、すぐに中へ通した。


「座ってください。今、外します」


盾を外し、作業台へ置く。

留め具を確認した瞬間、リオの指が止まった。


――逃げた。


衝撃は、一点に溜まっていない。

だが、その代償として、装備全体が限界まで使われている。


「……どうでしたか」


リオが尋ねると、女性は一瞬、言葉を探した。


「……助かりました」


それから、続ける。


「魔物の突進を、正面から受けました。

 本来なら……盾ごと、腕が持っていかれてた」


男性が、かすれた声で言う。


「……音が、変だった」


「音?」


「割れる前の音じゃない。

 ……逃げる音だった」


リオは、静かに頷いた。


「その通りです」


女性が、思わず身を乗り出す。


「壊れたんじゃないんですか?」


「壊れました」


リオは、はっきり言った。


「でも、壊れ方を選びました」


二人は顔を見合わせた。


「……それって」


「守るために、

 装備が自分から“役目を終えた”ということです」


沈黙。


やがて、女性がぽつりと言った。


「……名前、聞かれました」


「名前?」


「その盾。

 他の冒険者に、“それ何の付与だ”って」


リオの胸が、静かに鳴る。


「……何と答えましたか」


女性は、少し困ったように笑った。


「“付与じゃない”って。

 でも――」


一拍、置いて。


「“灰炉式”だって言いました」


その瞬間、

工房の空気が、確かに変わった。


男性が、ゆっくりと頭を下げる。


「……ありがとうございました」


「名を、預けた責任です」


リオは、そう答えた。


二人が去ったあと、

工房は再び静かになる。


作業台の上には、

役目を終えた盾。


成功だった。

命は、守られた。


だが――


リオは、歪んだ縁に指を当てる。


「……想定より、早い」


壊れる“時期”が、予想より早かった。


――調整が、足りなかったのか。

――それとも、想定以上の負荷だったのか。


そのとき、扉の外で小さな足音。


「……噂、もう広がってるよ」


ミーネだった。


「“壊れたのに助かった盾”って」


リオは、炉を見た。


火は、まだ入れていない。


「……次は」


リオは、静かに言った。


「壊れたあと、どうするかを考えないといけません」


ミーネは、少し真剣な顔になる。


「つまり?」


「“一度きり”で終わらない形です」


炉の前に立ち、

リオは初めて、はっきりと感じていた。


灰炉式は、使われた。

命を救った。


だからこそ――

次の責任が、もう来ている。

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