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「灰炉に残る温度」  作者: ぷにゅん


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第二章 使えないはずの道具

朝の光が、工房の床に細く差し込んでいた。


《灰炉の工房》は、いつもと同じ匂いをしている。

金属、革、木。

そして、ほんのわずかに残る煤の匂い。


リオは棚の一番上に置いた布包みを見上げた。


昨日、火を入れた金属板。

付与にはならなかった。

装備にもなっていない。


――使えないはずの道具。


そう思いながら、布をほどく。


金属板は静かだった。

光も、熱も、魔力の波動もない。

だが、刻んだ溝だけが、はっきりと残っている。


「……通ってる」


自分で言って、少しだけ不思議な気持ちになる。


そのとき、工房の外が騒がしくなった。


複数の足音。

急ぎ足。

声が重なっている。


「――すみません!」


扉が開き、二人の冒険者がなだれ込んできた。

人族の男女。どちらも軽装だが、息が荒い。


「修理を……いえ、調整をお願いしたくて」


リオはすぐに状況を見た。


女性のほうの小盾。

表面に大きな傷はない。

だが、留め具の裏側が歪んでいる。


「使っていて、変な感覚がありましたか」


「……衝撃が、逃げない感じがして」


リオは頷いた。


「一度、外します」


炉に火を入れるほどではない。

だが、ただ締め直すだけでも足りない。


作業台に盾を置き、留め具を外す。

内部に走る微細な歪み。

力が一方向に溜まりやすくなっている。


――このままだと、次は折れる。


「直せますか」


男性の冒険者が、焦った声で聞いた。


リオは一瞬、棚を見た。


布包み。

金属板。


「……完全には直りません」


二人の表情が曇る。


「でも」


リオは続けた。


「衝撃の逃げ道は、作れます」


リオは金属板を取り出した。


「これは……?」


「装備ではありません。

 調整用の板です」


盾の内側、留め具の奥。

外からは見えない位置。


そこに金属板を当て、向きを変える。

溝が、力の流れに沿うように。


叩かない。

火も使わない。

ただ、通す場所を変える。


「これで……?」


「衝撃が一点に溜まりません」


リオは静かに言った。


「防御力は、上がりません。

 でも――壊れにくくなります」


二人は顔を見合わせ、それから頷いた。


「お願いします」


作業は短時間で終わった。


盾を構え、軽く動かす。

女性の冒険者が目を見開いた。


「……軽い?」


「重さは変わっていません」


「でも……さっきと違う」


リオは小さく息を吐いた。


――通った。


「これ、付与ですか?」


男性が聞く。


リオは首を振った。


「いいえ。

 付与にならないところです」


二人は少し首を傾げたが、

それ以上は聞かなかった。


大事なのは、使えるかどうか。

理由は、あとでいい。


二人が去ったあと、工房は再び静かになった。


リオは、残った金属板を手に取る。

溝は、少しだけ摩耗していた。


「……使えた」


それは、成功でも失敗でもない。

選択が正しかった証拠だった。


オルドが、奥から姿を見せる。


「装備じゃないな」


「はい」


「だが、仕事だ」


それだけ言って、彼は戻っていった。


リオは金属板を布で包み直し、

今度は棚の二段目に置いた。


――使えないはずの道具。


――でも、使えた。


それは、

「強さを足す」前に、

「壊れない道」を作るという考え方。


リオは炉の前に立つ。


今日は、火を入れない。


けれど、

火を使わずにできることが増えた。


その事実が、

静かに、でも確かに――

彼女を次の場所へ運び始めていた。


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