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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

上位貴族ほど、コルセットと同じく気を引き締めよ!

作者: 白夜いくと
掲載日:2026/01/13

「チェルシー様」

「……また、手紙かしら」


 侍女が「はい」と呆れた顔で白い封筒を見ている。私はそれを躊躇わずゴミ箱に捨てた。差出人の名はドルトー。私に捨てられた未練がましい男だ。


「男爵家のくせに伯爵家わたくしに擦り寄り、富と名声と権力を奪おうとした寄生虫。思い出しただけで吐き気がする」


 侍女は、経緯を知っている。しかし、外部の貴族は私が『男遊びの悪いクズ女である』と噂を立てていた。それもこれも、すべてドルトーによる策略だ。


 奴は、困ったときは、いつも被害者面をする。また、伯爵家わたくしの部屋を見たとき、


「はは。こんな小さな部屋、要らないね」


 と言っていたっけ。あのときから違和感があった。ドルトーの言葉の端々には女を下に見た、プライドだけ一丁前な点が複数あった。


 そんなドルトーでも、馬術という大きな武器があった。風のように軽く走り、弓を射る姿。アレだけは本当に、格好良かった。


 たまたま馬術交流会の穴埋めでやってきた彼の馬と、洗練された技を見て、惚れたのだった。


 しかし、人格は本当にダメだった。

 周囲はいちはやくそれを見抜いていて、とくにお母様は私とドルトーを引き剥がそうとしていた。幼かった私は、


「私はドルトーがいいの! ドルトーじゃなきゃ死ぬわ!」


 と、食って掛かった。

 恋は盲目と言う。半ば勘当のようなカタチで僅かな資金と、侍女を渡され男爵家に嫁いだ。


 そこからだ。

 地獄の始まりは。


「家事や炊事は妻がやることだ」

「愛に身分はない。そうだろ、チェルシー」

「俺の馬の面倒を見ろ、そうしたら素晴らしい馬術を見せてやる」


 当然、資金は泡のようになくなった。ドルトーは、私の侍女で遊び、好き放題していた。また、ドルトーは私との子どもを望んでいたようだ。伯爵家の血がどうのと言っていた。


 この頃になると、私がドルトーを拒否するようになり、よく夜に忍ばれ、殴られた。庇ってくれた侍女は、身体がボロボロになっていた。


 これではいけないと、私は考えた。


 晴天の日に芝生に水を撒き、ドルトーの馬の蹄に細工をした。ドルトーの誕生日だった。機嫌の良かった彼は、私に身体の関係を求めた。


「私、チェルシーは、貴方のものになりたいと思います……その前に、私が大好きな馬術を見せてくださいませんか?」


 こんな怪しい誘い文句に乗るほど、あの男はバカだった。有頂天、だったのかしらね。


 綺麗にすっ転んでくれた。

 ドルトーの両親は、私の策略を当たり前だけど見抜いて、


「悪魔! ドルトーの腰の骨を折った悪魔!」


 と叫んでいた。

 騒ぎは伯爵家じっかの方にも届いた。侍女を引き渡す交渉で揉めたけど、そこは権力が物を言う。意外にも力を貸してくれたのはお母様だった。


「……出戻りは、厳しいわよ」


 そう言って私を受け入れてくれた。

 




「ドルトー様は謝りたいそうですよ」


 侍女が背中を掻きながら面倒くさそうにゴミ箱に捨てられた手紙を見て言う。


 私は、


寄生虫アイツから見れば、私は悪役なのでしょう。ふざけんなってーのよ」


 ゴミ箱の手紙に唾を吐いた。


 あれから、ドルトー家がどうなったのかは分からない。でも人の噂は75日というのは本当みたいね。今では私の悪口は聞かない。


 むしろ、新しく婚約した人とうまく行き、私は報われる思いだわ。また。あの時、私を命懸けで助けてくれた侍女に子守を任せることに決めている。


 駆け落ちなんて、身分の低い奴だけが得するようにできているもの。若気の至りでは済まないこともある。

 

 上の位に立つ者は、常にコルセットと同じく気を引き締めなくてはいけないものなのね。でなくては、下賤な輩に地位も名声も権力も、奪われかねないのだから。


(ま、こういう事を言えばまた、悪者にされるのよね……)


 守りたいものが守れるならば、悪役でもなんでも良いですけれど。

最後まで読んでくれてありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
夫だけでなく義両親も毒っぽい。 人を見る目がない報いは大きかったけど、貴族の誇りに目覚めたのは良かったですね。 再婚先は愛と義務が満たされる場所だったら良いですね。
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