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魔法

魔法って、ちょっと使ってみたいなと思うんですよね。

火とか、風とか。

もし本当に使えたら、やっぱりかっこいいだろうなって。


今回は、そんな「魔法」についてのお話です。

 ガイアスが家の中へ戻ると、庭を覆っていた緊張がほどけた。


踏み荒らされた地面の上を、風に揺れた草の音が静かに流れる。


リアムはその場に腰を下ろし、膝に手をついて大きく息を吐いた。


腕が、まだ重い。


力は戻ってきているはずなのに、芯の奥に疲労が残っている感覚がある。


「……ふぅ」


 少し間を置いて、テオも地面に腰を下ろした。


目だけがやけに輝いている。


「やっば……すげぇな今の……」


「まだ興奮してるのか」


「当たり前だろ! あんなの初めてだもん!」


 テオは拳を握りしめ、今にも立ち上がりそうな勢いだった。


 対照的に、リアムは空を見上げながら、呼吸を整えることに集中していた。


 ——そのとき、ふと思い出す。


「……そうだ」


 リアムは顔を上げる。


「エレナの方、見に行ってみようか」


「え?」


「もしかしたらさ。お母さんから、魔法を教えてもらえるかもしれない」


 一瞬の沈黙。

 次の瞬間——


「まじ!? 行く行く!!」


 テオが即答した。


疲れなんて最初からなかったかのように立ち上がり、目を輝かせてリアムを見る。


「な? 行こうぜリアム!」

「……元気だな」


 リアムは苦笑しつつも、ゆっくりと立ち上がった。まだ腕は重い。けれど、不思議と足取りは軽かった。


 二人はエレナの元へ歩き出した。




 村を少し離れた草原に、風が流れていた。


背の低い草が風に揺れ、その先に、的代わりの木杭が立てられている。


 エレナは一歩前に出て、小さく息を整えた。


「……ファイア!」


 短い詠唱とともに、小さな火球が放たれる。

火は真っすぐに飛び、木の的に命中した。


 乾いた音。

 表面が少し焦げ、煙が細く立ち上る。


「すごいわ、エレナちゃん」


 リーナは穏やかに微笑み、頷いた。


「この年でもう、ここまで上達したのね」

「えへへ……」


 エレナは照れたように肩をすくめる。


 そのとき――


「エレナ! お母さん!」


 背後から声がした。


 振り返ったエレナの顔が、ぱっと明るくなる。


「あっ、リアムとテオだ!」

「もう剣の修行、終わったの?」


「うん」


 リアムは頷き、少し間を置いて続ける。


「それでさ。魔法の勉強もしようと思って」


 リーナは二人を見て、柔らかく笑った。


「いいわね。

みんなでやった方が、賑やかで楽しいわ」


リーナは軽く手を打った。


 草原を渡る風が、背の低い草をゆっくり揺らした。


 葉擦れの音がサラサラと流れ、

草の波がゆっくりと足元をなぞる。


「じゃあまず、テオくんのために魔法について簡単におさらいするわね」


リーナは人差し指を軽く立てながら言った。


「はい!」


 テオは即答する。


「ふふ…元気がいいわね!魔法はね。得意な属性は、人それぞれよ」


 そう言って、リーナは人差し指を上に向けた。指先には、小さな光が生まれ、


 白、炎、風、水、土、光、闇。

それぞれ計7つの球が出てきた。


「相性のある属性があるとね、こんなふうに色がはっきり出てくるの」


 球はすぐに消える。


リーナはエレナの方を見る。


「エレナちゃんは、もうやったことあるけど……」


 少し間を置いて、


「テオくんのために、もう一度やってみせましょうか」


「はい!」


 エレナは元気よく返事をして、一歩前に出た。迷いなく手をひらを上に向ける


 次の瞬間。


 白を中心に、六つの色。

 七つの球が、同時に現れる。


 エレナは少し胸を張った。


「私と一緒ね」


 リーナは穏やかに言う。


「エレナは、すべての属性が使えるわ」

「将来は、賢者候補になれるかもしれないわね」


「えへへ……!」


 エレナは、隠しきれない様子で笑った。


 「次は、リアムもやってみましょう」


 リーナに言われ、リアムは何も答えず前に出た。片手を伸ばし、手のひらを上に向ける。


 集中する様子も、構える素振りもない。


 光が、ひとつ。

 続いて、風。

 その中心に、白い球。


 三つの球が、静かに浮かんだ。


 リーナは少しだけ目を細める。


「風と光ね」

「二属性の魔法を持っているみたい」


 リアムは短く頷いた。


 それを見ていたテオが、思わず声を上げる。


「すげぇ……!」


 目を輝かせ、三人を見回す。


「リーナおばさんも!」

「エレナも!」

「リアムも!」


「みんな魔法使えるの、すげぇよ!!」


 テオの声だけが、草原に弾んだ。


「じゃあ、テオくんもやってみようか」

リーナがそう言った。


 テオは一度、深く息を吸う。

 それから、少しぎこちなく手のひらを上に向ける。


 リーナが、その下にそっと手を添えた。

 包み込むでも、導くでもない。

 触れているだけ。


その感触に、テオは一瞬だけ肩をすくめた。

耳まで赤くなり、慌てて息を整え、目を閉じる。


肩に力が入り、必死に集中しているのが伝わってくる。


 ——しばらくして。


 白い球が、ひとつ。

 小さく、静かに浮かび上がった。



 一瞬、沈黙。


「無属性ね」


 リーナは、事実だけを口にする。


 テオは少し間を置いて、視線を落とす。


「……おれ」


 声が、かすれる。


「……魔法、使えないの?」


 今にも泣きそうな声だった。


 リーナはすぐに否定しない。

 ただ、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「確かにね。属性の魔法は使えないかもしれないわ」


 テオの肩が、わずかに震える。


「でもね」


 リーナは続けた。


「一流の剣豪の中には、属性魔法を使わずに戦い抜く人もいるの」


「身体強化や感覚強化だけでね」


「時には——魔法使いよりも、ずっと強く、逞しく」


 テオが顔を上げる。


「ガイアスも、無属性よ」


「それでも、冒険者としてはSランクまでいったわ」


 テオの目が、大きく開かれた。


「……じゃあ」


「おれも、ガイアスおじさんみたいになれるの?」


 リーナは、迷いなく頷く。


「ええ。なれるわ」


 一瞬の沈黙のあと。


「……!」


 テオの顔が、ぱっと明るくなる。


「やったぁ!!」


 両手を握りしめ、嬉しさを隠しきれない。


「じゃあ次は、魔力の流れを掴む練習をしましょうか」


「はい!」


 テオが即答する。


 リーナは小さく頷いた。


「深呼吸しながらね。自分の体の中にある魔力を、想像してみて」


「特別な場所じゃなくていいわ。全身に流れている、っていうイメージ」


 テオは言われた通り、深く息を吸い、目を閉じた。


 最初は、何も起こらない。

 ただ、呼吸の音だけが聞こえる。


 ——しばらくして。


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

 その感覚が、腕へ、脚へ、ゆっくり広がっていく。


「……」


 テオの周囲に、淡い気配が滲む。


「テオ……」

 エレナが息を呑む。

「できてる……できてるわ!」


「えっ?」


 テオが目を開けた瞬間、

 その体を包むように、魔力がふわりと纏わりついていた。


 リアムが目を細める。


「……お前、感覚が鋭いな」


「普通、ここまで掴むのにもっと時間がかかるぞ」


「おれ……できてるの?」


 その直後。


「……っ」


 テオは力が抜けたように、その場に座り込んだ。肩で息をし、額に汗が滲む。


「おれ……なんで……こんな疲れ……」


 リーナはすぐにそばに寄る。


「すごいわ、テオくん」


「数分で、ここまでできるなんて」


 テオは不安そうに顔を上げる。


「だ、大丈夫なの……?」


「ええ」


 リーナは迷いなく頷いた。


「慣れれば、ちゃんと楽になるわ」


「今日はここまでにしましょう」


 そして、少し明るい声で続ける。


「私の家に行きましょうか。クッキー、焼くわよ」


「クッキー!?」


「食べる!」


 エレナとテオが同時に声を上げる。


 草原を、心地よい風が吹き抜けた。

 揺れる草の音が、さっきまでの緊張をそっとさらっていった。

今回は、魔法のお話でした。


テオは属性こそ無属性でしたが、感覚が鋭くて、あっという間に魔力の流れを掴んでしまいましたね。

本人は戸惑っていましたが、かなりすごいことです。


そして最後のクッキーの場面。

エレナもテオも可愛らしくて、少しほっこりする時間になりました。


次回は、また少し空気が変わるかもしれません。

何かが起こる予感……?


それでは、次回もお楽しみに。


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