訓練
今回はテオとリアムの剣の訓練回です。
父 ガイアスに立ち向かう二人の少年、果たしてガイアスに勝ったことができるのか!?
三人はリアムの家の前に立った。
丸太を積んだ外壁は太陽で少し色あせていて、
扉の中央には小さな顔の飾りが彫られた鉄製のノッカーが取りつけられている。
リアムはその取っ手をそっと持ち上げ、扉に向かって打ちつけた。
コン、コン。
金属と木がぶつかる、くぐもった音が響く。
「ただいまー!」
すぐに家の奥から温かな声が返ってくる。
「おかえり、リアム」
三人が家に入ると、ちょうど奥の部屋からリーナが顔を出した。
「リアム、おかえり──あら?」
リアムの後ろに立つエレナとテオに気づき、ぱっと表情が柔らかくなる。
「エレナちゃん、テオくん。いらっしゃい」
「「おはようございます、リーナさん!」」
二人はそろってきちんと頭を下げた。
リアムは少し照れたように肩をすくめながら言った。
「お母さん。エレナとテオが……魔法と剣の指導をしてほしいって。お父さんとお母さんに」
「あらまぁ、そういうことね」
リーナは柔らかく笑い、奥に向かって声をかけた。
「お父さん、テオくんが剣の稽古をお願いしたいって」
呼ばれてガイアスが姿を見せる。
「おぉ、テオか!」
白い歯を見せて豪快に笑いながら近づいてくる。
「今日も剣の稽古に来たんだな!」
ガイアスは大きな手を伸ばし、テオの頭をわしわしと撫でた。
「えらいぞ。そんなにやる気があるのはいいことだ!」
撫でられたテオはくすぐったそうにしながらも、誇らしげに胸を張る。
「はい!」
胸に手を当てるようにして、テオはキラキラした目で言った。
「オレ……将来、リアムのお父さんみたいに、
村のみんなを守れる戦士になりたいんです!」
その言葉が家の空気を明るく震わせた。
ガイアスは力強く頷き、笑った。
「よし! じゃあ表に行くか!」
そう言って振り返り、リアムにも声を投げる。
「リアム! お前のことも見てやるぞ!」
「うん! 今日は負けないからね!」
リアムが目を輝かせて答えると、ガイアスは愉快そうに喉の奥で笑った。
「ははっ、言うようになったな!」
一方、リーナはそっとエレナの肩に触れた。
「じゃあ、私たちは向こうへ行きましょ?」
「はいっ!」
エレナは元気よく返事をする。
リーナはリアムのほうを振り返り、優しい声でひとこと添えた。
「リアム、剣が終わったらこっちに来てもいいわよ」
「わかった!」
リアムは息を整え、テオと並んで家の前へと歩き出した。
リアムの家の前には、村ではめずらしいほど開けた土のスペースが広がっていた。
草はほとんど刈られ、地面は何度も踏み固められた跡が残っている。
境界には簡素な木柵があり、端には古い丸太や練習用の木杭が立てかけられていた。
その中央にガイアスが立ち、木剣を構えたテオをまっすぐに見据える。
「よし、テオ。まずは――基礎から教えるからな」
「えっ、無属性魔法とかは?」
期待に目を輝かせるテオに、ガイアスは笑って首を振った。
「まだだ。
無属性魔法は“誰でも持ってる力”だが、
扱うには素振りや足運びみたいな基礎がなきゃ意味がない」
「そっかぁ……」
テオは木剣を見つめて、少しだけ肩を落とす。
ガイアスはそんなテオの頭を軽く撫でた。
「物事には順序ってものがあるんだ。
基礎ができるようになれば、ちゃんと教えてやるさ」
「……ほんと?」
「ああ、約束する」
テオの目に再び光が戻る。
「じゃあ……がんばる!!」
小さな拳をぎゅっと握りしめ、
テオは力強く前を向いた。
「よし!」
ガイアスが木剣を肩に担ぎ、声を張る。
「じゃあ実践形式で教えてくぞ。テオ、来い!」
「……っ!」
テオは木剣を両手で握りしめ、構えを取った。
だが、ガイアスが正面に立った瞬間──
空気が変わった。
普段は穏やかなはずの姿が、
今は“戦士”の気配をまとっている。
「ひ……っ」
テオの肩がビクリと震える。
リアムは横でその様子を息をのんで見つめていた。
「うわぁぁぁぁ!!」
テオが震えを振り払うように叫び、
勢いよく踏み込んで剣を振り下ろす。
──ガキン!
金属にも似た乾いた衝撃音。
ガイアスはその一撃を片手であっさり受け止めていた。
「いいぞ!」
ガイアスが笑う。
「前に比べて速くなったじゃないか!」
そのまま軽く押し返され、
テオの足が何歩も後退する。
「くっ……!」
ぐらつきながらもテオは踏みとどまり、
再び構え直した。
「はぁ、はぁ……! もう一回!!」
叫んで飛び込み、
力任せに剣を振り上げる。
だが──
「剣の形が疎かだぞ!
力いっぱい振るうな! もっと肩を落とせ!」
「は、はい!!」
息が上がりながらも、テオは言われた通りに修正しようとする。
それでも全ての攻撃をガイアスに受け止められる。
「うん。前の時より上出来だな」
ガイアスの目が細くなる。
「日頃から練習してるんだな」
「っ……そりゃ……がんばってるから……!」
テオが力なく笑った瞬間──
ガイアスが木剣を持ち直す。
「よし、今度は俺が攻撃する番だ。テオ、受け止めてみろ!」
「は、はいっ!!」
構えたテオの腕が震える。
「いくぞ!」
ガイアスの一撃目がテオの剣に当たった瞬間──
「っ……重っ……!!」
テオの顔が歪む。
「にっ……」
ガイアスは戦士の笑みを浮かべ、さらに連撃を浴びせる。
「どんどん行くぞ!!」
「わっ、わっ、わっ!? ちょ、待──!」
テオは必死に剣を受け止め続けるが、
足がずるずると後ろに下がり、ついに──
──バンッ!
最後の一撃で、テオの木剣が大きく弾き飛ばされ、空中で回転しながら地面に転がった。
テオはその場で尻もちをつき、
肩で大きく息をしていた。
「テオ!」
ガイアスが近づき、しゃがみ込む。
「強くなったなぁ。前とは比べものにならんぞ」
息切れしながら、テオは顔を上げる。
「へ……へへ……」
苦しそうなのに、誇らしげな笑みを浮かべた。
「ただな」
ガイアスは優しく言葉を続ける。
「実践になると、どうしても剣の形が疎かになる。そこを直すことと……体力と筋力がもっとつけば──」
少しだけ意地悪く笑って、
「無属性魔法も、教えてやっていいかもな」
「……はい!!」
テオの瞳が一気に輝きを取り戻した。
ガイアスは満足げに頷き、
次に視線をリアムへ移す。
「さて、リアム。今度はお前の番だ。やってみるか?」
「うん! よし!」
リアムは軽く拳を握り、小走りでテオのそばへ行く。
「剣、借りるぞ」
「うん……分かった……!」
テオの横に転がっていた木剣を拾い上げ、
リアムは庭の中央──いつもの定位置へ向かった。
ガイアスが腕を組み、言い渡す。
「今の自分の全力で来い。」
「わかった」
リアムは深く息を吸い、静かに吐く。
その瞬間──
空気が揺れた。
リアムの周囲に、淡い光の粒がふわりと集まり、身体の表面に沿うように魔力が纏い始める。
リアムは静かに木剣を構え、息を整えた。
「……行くよ!」
その声に、ガイアスはわずかに顎を上げる。
「来い」
次の瞬間だった。
シュッ──!
リアムの姿が一瞬、視界から消えた。
「えっ……!?」
テオは思わず目を見開く。
その刹那──
ガチィンッ!!
鋼のような衝撃音が庭に響き渡り、
リアムとガイアスの木剣が真っ向からぶつかり合った。
ぶわっ──!
ふたりのぶつかった瞬間に生まれた風圧が、
テオの前髪を大きく揺らす。
「うわっ……!」
息を呑む暇もない。
リアムはそこからすぐに連撃へ移っていた。
ガン! ガキン! ガッ!!
剣と剣がぶつかるたび、まるで鉄塊を叩きつけ合うような重い音が響く。
踏み込む音、跳ね返る衝撃、風の流れ──
全部が速すぎて、テオの目では追いきれない。
「す……すご……っ!」
テオの喉が、かすれた声を漏らした。
目の前で戦っているのは、
自分と同じ年のリアムとは思えなかった。
ガイアスは連撃を受けながら、豪快に笑った。
「いいぞ、リアム!」
その声に呼応するように――
リアムの足元で風が巻き起こる。
「はぁ……っ、はぁ……っ……まだいける!」
リアムの身体にまとわりつく風の流れが一気に濃くなり、次の瞬間、彼の姿がまた“線”になった。
「おっ……!?」
ガイアスの目がわずかに見開かれる。
そして――
ガガガガガッ!!
先ほどよりもさらに速い連撃が始まった。
木剣がぶつかり合う音が、まるで連打のように響く。
リアムの呼吸はすでに荒い。
息を吸うたび、風が胸に巻きついて震える。
「はぁ……っ、くっ……!」
それでも、目は決して折れていなかった。
「よくやる……!」
ガイアスはにっと笑い、受け止めながら言う。
「リアム、お前も強くなったな!」
「……これなら!」
リアムは叫び――
木剣を振り抜く直前、手のひらに微かな光が集まった。
「光魔法……っ!?」
テオが言うより先に――
バッ!
眩い光がリアムの手元から弾ける。
「うわっ!!」
テオは思わず目を強くつむった。
世界が真っ白になり、
一瞬、音すら消えた。
──数秒後。
テオはゆっくりと目を開けた。
そして息を呑む。
「り、リアム……?」
リアムは地面に倒れていた。
肩で大きく息をしながら、動けずにいる。
木剣は彼の手を離れ、数歩離れた場所に転がっていた。
その前に立つガイアスは、
倒れたリアムへ木剣の先端を向けたまま、
戦士の目をしていた。
しばしの静寂。
「……ま、負けたぁ……!」
リアムが息を切らしながら、
悔しさと達成感が混ざった声を漏らす。
その瞬間、ガイアスは豪快に笑い声を上げた。
「ワッハッハッ!! よく言ったリアム!」
木剣を肩に担ぎながら続ける。
「強くなったなぁ、お前。
特に最後の光魔法は危なかったぞ!」
「はぁ……っ、はは……っ」
リアムも倒れたまま、どこか誇らしげに笑った。
「リアムーっ!!」
テオが駆け寄り、膝をつく。
「大丈夫!? めちゃくちゃすごかったよ!」
「お、おう……ありがと……」
リアムがゆっくり起き上がると、
ガイアスは二人を見渡し、満足げに頷いた。
「よし。今日はこれで終わりだ。
また時間がある時に、二人とも見てやるからな」
そう言って背を向け、家の方へ歩き出す。
広い背中。
太陽の光を浴びて、影が地面に長く伸びる。
リアムには、その背中が
いつもよりずっと大きく見えた。
続く
ここまで読んでくださりありがとうございます。
テオもリアムも頑張ったけど、やはりガイアスは強かったですね(笑)
父の背中はおおきい!!
次回はエレナとリーなとの魔法の勉強会になります!
お楽しみに




