龍の印を持つ少年と最初の事件
今回の話はリアムとテオが森で風魔法で遊ぶ回です。
いつものようにテオとふざけ合ってると……
ぜひ続きをお楽しみください。
森の匂いが、今日はいつもより甘い。
鳥が騒がしく鳴いていて、葉っぱがカサカサ喋ってる。
枝の上ではリスがしっぽを膨らませて、
どこかへ走っていく。
「リアムー!はやく来いって!」
「なぁ、あそこの大きい木まで競争な!」
「え、まだ走るのかよ……お前元気すぎだろ」
「いーからいーから!よーい……どんっ!」
「へ!?ちょ、待——」
言う前にテオがもう走り出していた。
慌てて追いかける。
前世じゃそこそこ運動できたはずなんだけどな……
子どもの体じゃ息が上がるのが早い。
「はっ……はや……っ!」
必死に追ったけど、テオがそのまま木にタッチ。
「へへっ、おれの勝ちぃ……ッ!」
そのままドサッと地面に倒れ込む。
「お前……ほんと元気だな……」
俺も隣に寝転がる。
青空が、やけに眩しい。
「な?走るの楽しいだろっ」
「……まぁな」
風がふわりと木の葉を撫でていく。
肩に落ちる日差しも暖かくて、眠くなるくらい気持ちいい。
「……なぁリアム」
隣で倒れていたテオが、むくっ、と勢いよく起き上がった。
草の葉っぱが髪にくっついてるのに気づきもしない。
「この前のアレ!風魔法でふわーってやるやつ!!またやろーぜ!!」
「えー……またかよ」
と言いながら、僕は笑ってる。
断る気なんて、最初からなかった。
左腕を軽くさする。
細い龍がくるっと輪になったみたいなアザが、生まれた時からそこにあった。両親いわく、これは“龍脈”って呼ばれる特別な印らしい。
詳しいことは教えてもらってない。
ただ――
「リアム、人より魔力が多いのよ。だから危ないことはしちゃダメ」
ずっとそう言われていた。
「じゃ、ちょっとだけな」
手をかざす。
風が足元に集まって――
ぐん、と体が押し上げられた。
最初はふわっと浮くだけだった空が、
今日はどんどん近づいてくる。
「お、おお……!?」
気づけば木のてっぺんを越えて、
村の屋根まで一望できる高さ。
広がる草原も、遠くの山も、
世界がいつもより大きく見えた。
「リアムー!すげぇ!!ほんとに飛んでる!!」
下でテオが目を皿みたいにして叫んでる。
その顔を見るのがなんか、嬉しかった。
風の流れを切って、ゆっくりと地面に降り立つ。
「着地っと……ん?」
俺が足をつけた瞬間――
「うおおお!やっぱすげぇな、お前!!」
テオが目ん玉ひっくり返る勢いで駆け寄ってきた。
興奮しすぎて、そのまま浮き上がりそうな勢いだ。
「お前、ほんとすげぇよ!
おれ、今の見て鳥肌たったもん!」
「そんな大げさな……ほら、今度はお前の番だろ?」
笑いながら手をかざす。
「テオ、落ちんなよ?」
風の流れをテオへ――
ふわっ、と持ち上がる。
「うひゃあああ!高ぇぇ!!」
「おい、暴れんな!落ち――」
ぷつん。
「えっ」
「いやいやいや!!リアム!?!?」
テオが一気に落下し始める。
「っと!」
すかさず風を追加。
地面すれすれでふわっと受け止める。
「……っ、もう!!殺す気か!!」
半泣きで睨んでくるテオに、
俺はぺこりと頭を下げる。
「悪ぃ悪ぃ、ちょっと楽しくなっちゃって」
「まったく……楽しいけどよっ!」
結局、笑って終わる。
僕らはそういう関係だ。
「なぁリアム、次はもっと――」
テオの言葉が途中で切れた。
森の奥の方向――
女の人の叫び声が風に乗って届いた。
「……今の、何だ?」
僕はもう、考える前に飛んでいた。
木々の高さを越え、視界が開けた瞬間――
川だ。
流れが速い。
母親らしき人が、腰まで水に浸かったまま、必死に前へ進もうとしていた。
でも、大人の男性二人が背後から抱きつくようにして止めている。
「やめろ!流れが強すぎる!!」
「自警団呼んでるから!今は動くな!!」
母親は振り払おうと暴れる。
「この子が……うちの子が!!今すぐ助けないと!!」
少し下流――
幼い子が岩にしがみつき、流れに引き剝がされそうになっている。
「か、かぁ……しゃ……
たす……っ」
水を飲んで声が途切れる。
指先が震え、岩から滑り落ちそうだ。
「……っ!」
僕はすぐに地面へ降りる。
「どうしたんだよリアム。なに見えた?」
「子どもが……溺れてる。川の方!」
「は!?まじ!?」
「まじ!!」
テオが青ざめる。
「ど、どうする!?大人呼んだ方が――」
「間に合わない!!」
胸の奥がドクンって鳴った。
考えるより先に、体が動く。
「テオ!行くぞ!!」
「えっ!?ちょ、おいおいおい!」
「しっかり掴まれ!絶対に離すなよ!!」
僕が背を向けると、テオは条件反射で抱きついた。
「ああもう!!こうなったら離さねぇけど!!」
「行くぞッ!!」
風を、今までよりもっと強く。
ぐん、と空気が体を押し上げた。
ビューンッ!!
「はっ!?ちょっ!?速っ!?!!
ま、待て!!!待てってリアムぅぅぅ!!
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬッ!!」
テオの絶叫が、背中で暴れまわってる。
でも僕は、一度も視線を逸らさなかった。
川だ。
母親が叫んでる。
沈む子の手が、水面から消えかけていた。
続く
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
リアムとテオ、少年らしさ全開でしたね。
無邪気に遊んでいた今日が、
リアムにとって初めての“事件”になります。
次回、助けは間に合うのか。
引き続き読んでいただけたら嬉しいです。




