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「はい、では結果発表です」
エレナはわたしたちの上げた報告書を読み終えると、パチリと指を鳴らした。
「少々、気になる点はありますが……」
エレナはわたしを一瞥し、おもむろに告げた。
気になる点というのは、わたしの“知識”のことを言っているのだろう。さすがに解決が早すぎたという感は否めない。
「ノネットさんとシリル君のチームの勝ちと判断させていただきますわ」
エレナはニコニコとしている。
真相はさておき、わたしたちを弄る材料を手に入れたのが嬉しくてたまらないといった様子だ。
「この世の終わりです……」
アメリアが深く沈んだ顔を見せる。
本人の言うようにまるで世界の終わりかのような、暗くか細い声だった。
「ま、まあ、斜め向かいになるのはひとりだけなんだ……そそそ、そんなに気を落とす必要はないさ」
ルナの声は震えていた。
ふたりとも、席くらいでそんな必死にならなくても……。
いや、大好きなヒロインから好意を向けられるのは素直にうれしいんだけどね。
「それではお約束通り、席はシリル君のお好きなように選んでくださいな」
わたしの意見は?
……と言いかけて、やめる。
声を上げたところで、「貴女は賞品でしょう?」だとか「不正疑惑があるので発言権はありません」とか言われるのがオチだろう。
わたしだって学習するのだ。
「その件だが」
シリルが口を開いた。
「席を選ぶ権利はルナたちが使ってくれて構わない。俺はもともと、座る場所にこだわりはないんだ」
「……どういうつもりだ。憐れんでいるのかい?」
ルナが鋭く問い返す。けれど、シリルは動じなかった。
「違う。俺は……」
彼は一度言葉を切ると、真っ向からルナを見据えた。
「繰り返しになるが、本当に、こだわりはないんだ」
彼は困ったように、けれど隠し事のない苦笑を浮かべた。
「でも……誰かが喜ぶ顔を見るのは嫌いじゃない。だったら、その権利は君たちのために使いたい」
飾らない本音。
ルナは毒気を抜かれたように目を見開き、やがてふっと肩の力を抜いた。
「……すまない、シリル」
「ルナ?」
「どうやら色々と意地になってしまっていたらしい。申し訳ない、これまでの無礼を許してほしい」
ルナの謝罪に、シリルは少しだけ目を見開いた。
けれど、すぐに柔らかな、どこか申し訳なさそうな顔をして首を振る。
「いいや、俺こそ最初の挨拶があんなだったからな。ノネットにばかり気がいって、君たちを蔑ろにしていたのは俺も同じだ。気にしないでくれ」
「感謝する……だが、座席の件はやはり君が決めるべきだ。厚意に甘えてしまっては、対等な友人にはなれないだろう?」
ルナは顔を上げ、凛とした瞳でシリルを見据えた。
その言葉は、彼を「遠ざけるべき邪魔者」ではなく、対等に向き合うべき一人の相手として認めたという意味でもあるのだろう。
けれど、その『美しい友情』の空気を、隣にいた少女が全力でぶち破った。
「ええっ!? そんなぁ!?」
アメリアが、天地がひっくり返ったかのような絶望の声を上げる。
心底驚愕した……というより、魂が抜けたような顔で椅子から立ち上がっていた。
……アメリアさんや、今はすごく良いところなんだから、少しは空気を読んではいかがでしょう。
「そうか……なら、アメリア。その席を俺に譲ってくれないか?」
その提案の意味がよくわからなかったのか、アメリアは一瞬だけきょとん顔で固まっていた。
が、すぐに顔をぱあっと明るくする。
「いいのですか、シリル様!?」
「アメリア嬢……」
「待ってくれ、ルナ。俺が『望んで』その席につくんだ。これならルナの言う通り、俺の権利の行使だ。構わないよな?」
「……ふふっ。シリル、君という男は」
ルナが感心したように呟く。
よし……!
わたしは脳内で、会心のガッツポーズを決める。
そうだよ。感情を抜きにして、冷静に話し合えばふたりとも諍いを起こすタイプではないのだ。
シリルが身を引くことで、逆にルナの潔さを引き出す。閉じ込められた時に思いつきで提案したことだけど、結果は大成功だ。
これだよこれ! 本来はこうあるべきなんだよ!
ようやく、本来のシナリオのスタートラインに立った程度だけど、わたしにとっては大きな一歩だ。
「あらあら。一件落着ですわね」
エレナが満足げに言う。
それが、さっきまで面白いことにならないかと期待していた人間の言葉か……!?
わたしが信じられないものを見るような目を向けても、エレナはどこ吹く風という様子なのであった。
今回は少し短めです。
※簡単なやり取りですが、書き忘れがあったので2章6話目を少しだけ改稿しています。改めて読まなくても問題ないですが、こういう会話もあったということでひとつ。
次回ですがもう1話ほど、今年中に投稿できたらいいなと思っています。(アメリアとのお話で、前後編か前中後編くらい……?でイメージしています)




