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わたしを攻略するなんて聞いてないんですけど!?  作者: 藤乃意
二章(開幕、これが共通√ですか!?)
21/34

5

 泣き出しそうな空の下、しとしとと降る雨の湿った匂いが鼻を突く。

 なんだか良くないことが起こりそうな……そんな、ざわついた予感を振り払うことができないでいた。


「暗いから足元に気をつけろよ」

「う、うん」


 シリルはランプを片手にわたしの少し先を歩く。

 沈黙を埋めるように努めて話題を振ってくれるのだが、わたしは生返事を繰り返すばかりだ。

 にもかかわらず、彼は嫌な顔ひとつ見せず、しきりにわたしを気遣ってくれている。

 

「それらしい音は聞こえないな」


 彼の横顔を見るのが、少しだけつらい。

 かつて自分を重ね合わせていたはずの視線に、今、他者としてのわたしが捉えられている。

 その事実が、どうにも落ち着かなかった。


「上に行ってみよう」


 階段を上がり、3階へ。


「特定の日だけ起きる現象かもしれないな。条件がある可能性も疑うべきか」

「……うん」

 

 また、気のない返事。


 ——だめだ。これじゃ感じが悪すぎる。

 とにかく、失敗はしっかりと受け止めて……今回はさっさと片をつけてしまおう。余計なことを考える前に。

 

「……あー、暑いなー。ちょっと窓開けたいなー!」

「……どうした?」

「いやー! ほんとあっついね! 具体的には1階から3階に風が抜けるように窓とか開けると涼しいかなって思うんだよね!」

「……? 雨が吹き込むぞ。それに、今は春だが夜はまだ冷える……」

 

 不審極まりない視線を向けてくるシリルを無視して、わたしは近くの窓をガラリと開けた。

 途端、建物の中に溜まっていた空気が、冷たい夜の闇へと猛烈な勢いで吸い出されていく。

 ヒュウウウ! と耳を打つ風切り音は、1階から3階へと空気が駆け抜けている証拠だ。


 この件の真相は、こうだ。

 旧校舎の各階を貫く、今は使われていない手動式の昇降機。

 その通りシャフトが、図面上から消された隠し通路となって残っている。

 

 3階の窓を開けて空気の逃げ道を作れば、1階の搬入口から一気に空気が吸い上げられる。

 いわゆる煙突効果によるものだ。(なんて、ゲームでそう描写されてるただけだから、詳しい理屈はよく知らないんだけど……)

 

 そうなれば――。


 ギギ……ギギギ……ッ!

 

 直後、校舎の奥底から、悲鳴のような金属音が響き渡った。

 風に煽られた古いワイヤーと滑車が、数十年分の錆を削りながら回り始めた証拠だ。


「……今の音、下からか?」

「みたいだね! 1階かな? 1階かもね! うん、1階に行ってみよう!」

 

 シリルの手を引いて、わたしは階段を駆け下りる。

 正体さえ暴いてしまえばこっちのものだ。

 

「古い機械が風で鳴ってただけでした」という報告書をエレナに叩きつけて、この事件を最短記録で終わらせてやる。

 

 大丈夫。場所はわかってる。

 あそこの扉を『開けさえ』しなければ、“あの展開”は発生しないはずだ。外から壁を叩いて、音が響くのを確認するだけでいい。

 

 1階に下りると、金属音は呻き声のように廊下一体に残響していた。

 確かに、これなら幽霊だなんだとうわさが出るのも納得である。


「な、なんだかこの辺から音がでてないかな!?」

 

 シリルを引っ張って、1階の廊下の突き当たりへとやってくる。

 そこには、長年の塗り替えで壁と同化した、古い木製の腰壁がある。


「ん? ……何だ、この違和感は……ここだけ少し色合いが違う、か? ……もしかして、化粧板になってるのか?」

「もしかして、裏に何かあるのかも!」


 シリルの言うとおり、それはダミーパネルになっており、取り外しができるようになっている。

 

「外れそうだ、な!」

 

 言いながら、シリルがカバーを外すとそこに錆びた鉄製の扉が現れる。


「扉? 隠し部屋か? ……いや、それにしては入口が妙に横に広いな」

 

 それはそうだろう。なぜならこの昇降機、用途は荷揚げ用だ。

 中もそこそこ広くなっている。それこそ、人が二人くらいは入れるようになっている、だってここでは――

 

「シリル、ストップ! そこ、開けちゃダメ!」

 

 簡単な掛金がついたそれをシリルは開け放つ。

 咄嗟にシリルの服を引っ張ろうとして、わたしは一歩踏み込んだ。

 

 ――が。

 

 脳が理解するよりも先に、足裏から感覚が消えた。


「――あ」

 

 積み重なった長年の埃が雨の湿気でぬるりとした泥に変わり、わたしの靴底と床の間の摩擦係数を、無慈悲にゼロへと叩き落としたのだ。

 

「わ、わあああああッ!?」

 

 盛大に滑ったわたしの体が、シリルへと一直線に突っ込んでいく。


「ノネット!」


 咄嗟にシリルがランプを床に置き、両腕を広げてわたしを抱きとめてくれる。

 けれど、勢いは殺しきれず、わたしたちは開いたばかりの暗がりのなかへ、揃って転げ落ちた。


「――っ!」


 視界が上下に揺れ、背中に衝撃が走った直後。


 ガシャン! という暴力的なまでの金属音が、狭い室内に反響した。

 廊下から差し込んでいたわずかな光が、その音と共に消失する。


 視界が一瞬で、完全な暗闇に塗りつぶされた。

書いていたら思ったよりも長くなってしまったので前後編的な感じで2分割します。

後編は明日くらいに投稿予定です。

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