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わたしを攻略するなんて聞いてないんですけど!?  作者: 藤乃意
二章(開幕、これが共通√ですか!?)
20/34

4

「皆集まっていますね」


 生徒会室。

 扉を開けると既にそこにはルナとアメリア、そしてシリルがいた。


 エレナはもちろん、迷いなく会長席に向かう。

 対するわたしは今朝のことで少々皆と顔を合わせにくくて、伏し目がちに、そして遠慮がちに自席に腰掛けた。


「それでは本日の活動をはじめます」


 エレナが手元の資料をとると皆がそれに倣うように資料を手にした。


「活動内容は昨日にあらかた説明した通りです。学内の雑務、行事運営、各種自治会や部の統括、陳情の処理、それから……」

「学内の問題解決」


 シリルの言葉にエレナが頷く。


「数の多いものではないけれど、生徒間で解決できないことや教師も手を焼く問題が回ってくるので、自然と面倒ごとになりがちですわ」

「つまり……そういうことですよね?」

「ええ、今日の主要議題はそれです」


 エレナが資料の一枚をこちらに見せるように持ち上げる。

 紙面には、簡潔な報告文といくつかの箇条書きが並んでいた。

 

「そういうわけで――こちらが、今回生徒会に回ってきた案件ですわ」

「夜間、旧校舎で正体不明の音が断続的に聞こえる、というものです」

「音……ですか?」

「ええ。金属が擦れるような音、床を引きずるような音、時には人の足音のようだ、という証言もあります」


 それを聞いた瞬間、室内の空気がわずかに引き締まった。


「それは、学生たちの興味を引きそうな話だな」

 

 シリルが眉をひそめる。

 

「その通り。すでに数名の生徒が確かめに行ったそうです」

「それって……」

「夜間侵入。立派な校則違反ですわね」


 エレナは淡々と言うが、資料の次の行を示した指先は少しだけ重くなった。


「問題は、それだけではありません」

「ケガ人まで出ているのですか」


 アメリアが資料に目を落としながら呟く。


「軽傷ですが、二名。暗がりで足を取られ、階段を踏み外したケースと、教師に見つかり逃走中に転倒……こちらは物品破損のおまけ付きですわ」

「……確かに、実害が出ている以上は放置もできないな」

「ええ。当然、学校側でも調査は行われましたが」


 エレナは資料をめくる。


「老朽化による軋み、配管や換気口の異常、風切り音、野生動物なんかの線も一通り調査したようですけど、決定的な原因は特定できずじまいです」

「じゃあ、音はまだ……」

「続いていますわね」


 室内が静かになる。

 わたしは、無意識に背筋を伸ばしていた。


 よかった。この流れは知っている。共通ルート、最初の事件。

 

 “夜の校舎の怪音の正体”。


 教師が調べてもわからず、生徒が勝手に動き、問題が拡大して生徒会が介入する事となった事件。


 そしてこれは、シリルがヒロインの誰かと組んで調査をするイベントでもある。


「現在は夜間の校舎への立ち入りを、より厳しく制限しています」

「禁止しても、行くやつは行くだろうな」

「ええ。こういった非日常への好奇心は、抑圧しようとすると更にそれらを加速させますからね。事実、旧校舎で亡くなった女生徒の亡霊だ、なんて噂も出始めていますし」


 エレナは軽く肩をすくめた。


「そこで、我々が調査をする運びとなったわけです」

「なるほど……」


 いい流れだ。

 ここまでは完全に、正規のシナリオ通り。

 

 この後、皆で色々と推測を話し合って、最終的にはエレナがシリルに対して、調査のパートナーを誰にしたいかということを尋ねる。

 メタ的に言えば、プレイヤーに選択肢が委ねられるという場面である。


 ここはぜひとも、他3人と親交を深めてほしいところだ。どうにかシリルの選択をうまく誘導できないものか。


 ――などと考えていた、そのとき。


「……ひとつ、よろしいでしょうか?」


 静かな声。

 真剣な面持ちで控えめに手を上げたのは、アメリアだった。


「もちろんです」


 エレナが首肯する。

 

「ありがとうございます」


 彼女は姿勢を正し、小さく息を吸う。


「……アメリア様?」


 どういうことだ?

 ここでアメリアが声を上げる展開は、知らない。


 ――なぜかとても、嫌な予感がした。


 アメリアは一度、資料に視線を落とし、それから、極めて真剣な顔で言った。


「私、今の座席配置に不満があります」

「座席に」


 エレナがアメリアを見ながら繰り返した。

 

「はい。ノネット様の斜向かいという配置が、どうしても納得できません!」

「なぜこのタイミングでそんな話を!?」


 わたしは思わず机に身を乗り出してしまう。


「いま、音の正体がどうとか、夜の校舎が危険とか、そういう話の流れだったじゃありませんか!」

「承知しています」

「してるなら本題に戻りましょうよ!」


 だが、アメリアは少しも動じない。


「ですが……今は学内の問題について話し合っているわけですよね?」

「そうですよ!」

「なら、これは学園を揺るがす大事件ですよ」

「どう考えても些末な日常のお話ですよ!」

 

 わたしたちのやり取りにルナが、なぜか腕を組んで考え込む。


「……一理あるな」

「ないですから! どこにも!」

「座席の配置というものは、人間関係に影響を与えるからね」


 そこにシリルが、ぽつりと口を挟む。


「俺は、今のままで不満はない」

「シリル!」


 味方はここにいた……! さすがは主人公!

 そうだよ。もう少しこの件についてちゃんと議論を重ねるべきで、こんなどうでもいい話をしている場合ではない。

 

 ……まあ、解決だけが目的ならば、当然この件のオチをわたしは知っているので、真相を説明すればいいだけなんだけど。

 

「ノネットの向かいは、安心できる」

「シリル……!」


 おまえも敵だったか!

 わたしは視界を手で覆った。


「シリル……君は少し、エットと距離が近すぎやしないかい?」


 ルナから声が上がる。

 静かな声だったが、言葉の端に棘が感じられた。


「普通に席に座っているだけだ」

「……そうかな。僕には、エットに随分と気安いように映るけれどね」

「いつも通り話してるだけのつもりだけどな」


 そう言ってから、一瞬だけ間を空いて。


「なあ、“エット”?」

 

 確かに“わたし”は気にしないんだけど! お願いだから、そういう挑発じみた行為はやめていただけませんかね!?

 ああもうなんでこんなことになってんだ!

 

「エレナ様も何とか言ってくださいよ!」

 

 ルナが何か口を開こうとしていたが、それにかぶせるようにわたしはエレナに助けを求める。

 このままでは収集がつかなくなる。学校側からの依頼だ、さすがに彼女もふざけたりは――


「なるほど……面白い流れですわね!」


 ――するに決まってますよね。わたしって、ほんとバカ。

 

「面白がらないでくださいよ!」


 そして、にこやかに宣告する。


「ではこうしましょう」

「やめてください! 嫌な予感しかしません!」

「今回の問題。成果を出した順に、席を選ぶ権利を与えます」

「やっぱりだーーーっ!」


 アメリアとルナが、即座に頷く。

 シリルも、否定はしなかった。


「なら、この件は各自自力で調査を行うということだね」

「いえ、それは許可できませんわ」

「なぜですか?」

「学内での情報収集はよいですが、メインは夜間の学内の調査になるでしょう? 何かあったときのために二人一組で行動をしてもらいます」

「なら、当然僕はエットとだね。君を守るよ」


 なぜかルナがわたしの手を取りながら言う。

 今キメるところじゃないですから。


「いえ、私ですけどね」


 と、アメリアがそれに反発。

 そういうシーンでもないです。


「俺は誰とでも構わない」


 シリルは至って普通の発言だった。

 ここまできたら、ボケてよ!


 エレナはそんなわたしたちを見て、一瞬だけ考える素振りを見せる。そして。


「なら、ノネットさんとシリル君がペアで」

「「「なぜ(ですか!?)」」」


 彼女の発言に、ルナとアメリア、そしてわたしの声が見事に重なる。

 よりにもよって、一番避けたい選択肢が強制発動だ。


「その方がおも……いえ、席替え賛成派と反対派ですし公平なチーム分けでしょう。あ、逆らったら席替えの話はなしにしますので」

「はい! はい! 席替えとか不要です!」

「賞品に発言権はありませんわ」

「理不尽! 理不尽ですよ!」


 もう、なんとなく察してはいたが、わたしの発言は華麗に却下される。

 しかも賞品扱いされているし。

 

「残念ですが、わかりました……ルナ様! 打倒! 席替え反対派、です!」

「ああ、アメリア嬢! 必ず勝とう!」

「こうしてはいられません! 早速作戦会議に行きましょう!」

「そうだね」


 言いながら、ふたりは意気揚々と席を立ち上がり、生徒会室から退出していった。


「今日も良い仕事をしましたわ。本日はお開きにしましょう」


 言いながら、エレナも席を立つ。


「あ、シリル君は諸々の手続きがまだ残っていますので、この後、少しお時間をくださいな。10分後、職員室にお願いしますわね」


 扉から顔だけ覗かせて、エレナはそう言い残して去っていく。


「……だそうだ。悪いが、また後でな」


 シリルもまた、嵐が去った後のような静けさを残して部屋を出ていく。

 予定していた誘導も、正規シナリオへの軌道修正も、何もかもがうまくいかない。

 

 翻弄され、ボロボロになったわたしは、ただ天井を仰ぐことしかできない。


「……わたし、いろんな意味で置いてけぼりなんですけど!?」


 わたしの嘆きだけが、虚しく室内に響き渡ったのだった。

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