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わたしを攻略するなんて聞いてないんですけど!?  作者: 藤乃意
一章(転生、わたしがヒロインですか!?)
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14

 翌朝。

 生徒会室に集められたわたしたちは各々が指定された席についていた。


「自己紹介するまでもありませんが、こういうものは形式も大事でしょう」


 最奥の席。エレオノールが組んだ手の甲にそっと顎を預け、柔らかく微笑む。


「では、わたくしから。会長のエレオノール・ド・ルヴェリアンです。王族ですが、学園ではただの一生徒……エレナとして接してくだると嬉しいですわ」


 エレオノールは笑顔を崩さず、さらりと言った。

 

「なら、役職的に次は僕かな。副会長を拝命しました、ルナ・ド・モントルヴァルです。僕の事は気軽にルナとお呼びください、Mesdames les dames(淑女の皆様)」


 ルナは背筋を伸ばし、綺麗な一礼をしてみせた。

 

「僭越ながら次は私が……アメリア・セラフィーヌ。庶務を務めさせていただきます」


 アメリアは胸の前で小さく両手を重ね、こくりと会釈した。

 

「じゃあ、トリはノネットさんね。どんな面白い自己紹介をしてくれるのかしら。わくわく」

「やめてもらえませんかね、エレナ様! 普通に、普通の自己紹介をしますよ!」


 そしてわたしは、変なハードルの上げられ方をされて思わず声が裏返った。

 

「え……」

「なんでアメリア様はポンポンを構えてるんですか!? どこから出しました、それ!?」


 アメリアはキラキラした目で小刻みに腕を上下させていた。完全に応援モードだった。

 わたしが「普通の自己紹介」をするといった瞬間、目に見えてしょんぼりしていた。

 

「……」

「無言でクラッカーをしまおうとしないでくださいよ、ルナ様! 見ましたからね!」


 ルナは真顔のまま、カチリと紐を引く寸前の姿勢で待機していた。

 アメリアへのツッコみをみて、しれっとそれをしまおうとしていたのをわたしは見逃さない。

 

「はい、茶番はここまで。では、どうぞノネットさん」

 

 エレオノール――改め、エレナが控えめに咳払いをし、手を軽く叩く。


「はじめたのはエレナ様じゃないですかー!」

「わたくしは王族ですよ。身勝手な振る舞いが許されるのです」

「『学園ではただの一生徒』とは一体……!?」

「さらに生徒の長でもあります」

「生徒会長ってそういうものじゃないのでは!?」

「はあ……わがままですね。謝りますから早く続けていただけます?」

「こっちが悪いみたいな空気にするのやめてくださいよ!」


 ダメだ。みんなの悪ノリが過ぎる。このまま応酬を続けていても多勢に無勢だ。

 ここはさっさと終わらせてしまおう。

 

「ノネット・メリヴィエルです! 書記を務めさせていただきます。至らない点も多いと思いますが、よろしくお願いします!」


 言って、すぐに席に腰を下ろした。

 なぜか全員不満そうな顔をしていたが、無言で対抗していると、諦めたのかもう一度エレナが手を叩いた。


「さて、この4人で生徒会としてやっていこうと思っていたのですけど」


 エレナが入口に視線を向けて。


「入りなさい」


 扉が静かに開く。

 眩しい朝の光の中から、学園の制服に身を包んだ一人の青年が姿を見せた。


 整った中世的な顔立ちなのに、妙に引っかからない印象。覚えようとすると、するりと輪郭が逃げるような、そんな不思議さがある。

 青年は全員を一瞥した後、迷いなく視線をこちらへ据えた。

 

「シリル」

 

 短く発したそれはおそらく、彼の名前だった。

 皆が理解するよりも早く、彼は”いまとなってはなじみ深いその名”を呼ぶ。

 

「エット」


 時間が一拍、空白になった。

 エット――それはもちろん、ノネットちゃんの愛称だ。


「……え?」


 思わず漏れた声に、ルナが椅子を引く音が重なる。すっとわたしと青年の前に入り、低く言う。


「初対面の女性に愛称を使うのはマナー違反だよ」

「悪い。だが、確かめたかった」


 シリルは視線をわたしから逸らさない。


「どういうことだい?」

「小さい頃の話だ。スラムの市場で、俺は濡れ衣で泥棒にされかけた。誰も信じてくれなかった。……ガキの俺の言うことなんて、誰も聞かなかった。でも――」

 

 瞬間。わたしは理解する。


「ひとりだけ、俺を守ろうとしてくれた子がいた。怖い顔の大人の前に立って、『やめてください! その子は盗んでいません!』って」

 

 それは、『青空』の主人公・シリルの幼き日の思い出。

 ノネットとの縁。


「落ちてた財布を拾って、『ここにありました!』って証明してくれた」


 主人公はスラムの出であり、彼の語る通り、小さな頃ノネットはシリルを助けている。

 ノネットと主人公は少しだけ仲良くなり、互いを”エット”、”シル”と愛称で呼び合うようになる。


 程なくしてノネットは街を離れ、離れ離れになるが、この事件がきっかけで再会を果たす……という設定だ。

 

 「あの時の子の名前は、ノネット」

 

 大事な思い出を慈しむようにシリルは胸に手を当てた。

 

「ちょちょちょちょちょっと待って」


 頭の整理が追い付かない。

 だって、その設定は、”この時点”では彼の『困っている人を捨て置かない』というパーソナリティを形成した背景に過ぎない。

 

 その事実が明かされるのは、個別ルート――要はノネットルートに突入してからである。


 なんで今ここで、本人の口から出てくる!?


「それはわたしだけど! わたしじゃないというか!」

「……? 君は君だろう」

「それはそうだけど!」


 周囲から見ておかしなことを言っているのは、シリルではなくわたしの方だ。

 わかってる。わかってるけど、違う。違うんだってば!

 

「はいはい、そこまで。そういうことで、生徒会は彼を含めたこの5人で活動しますわ」


 収拾がつかなくなりそうなのを、エレナが制した。

 だが、これにルナが食いついた。

 

「どういうことですか! 納得できません!」

「わ、私もです!」


 アメリアがそれに続く。

 

「残念ながら、納得できるできないの問題ではありませんわ。彼だって関係者ですから」

「……まさか、昨日の!?」


 エレナの回答に、ルナが何か察したように彼の顔を見た。

 シリルは表情を崩さない。あいも変わらず、わたしだけを見据えていた。

 

「捕縛した者たちの仲で彼だけ少々様子が違ったので事情を伺ったら、ノネットさんと浅からぬ縁があるというではありませんか」


 エレナが続ける。

 

「詳しく話を聞いて胸を打たれたわたくしは、彼を生徒会に招いた、というわけですわ」

「……本音は?」

「賊の仲間ではないと裏も取れましたし、もうなにか面倒でしたので、彼もわたくしの監督下に置かせてもらうことにしましたわ。事後処理が多すぎる」


 経緯は違えど、全体的なシナリオの流れに違いはない。

 ノネット救出に協力した彼が生徒会に加入する。

 そう。違いはないはず――ないはずなのに。

 

「君がエットと古い友人であることは分かった。昨日僕らを助けてくれたことにも感謝しているよ」


 その言葉とは裏腹に、ルナはどこか警戒した様子でシリルの前に立つ。

 

「同門となった以上、君も学友だ。だが、ひとつ言っておくよ」


 威圧するように。あるいは、牽制するように。

 

「――いまエットと一番親しくしているのは、僕だ」


 それに対してシリルはひとこと。

 

「覚えておく」


 二人の間に、火花が散っているように見えた。

 ……いや、見えるっていうか、散ってる。確実に散ってる。

 

「いえ、私ですけどね」

 

 そして、なぜかアメリアまで張り合っていた。


 じゃなくて!

 いやいやいやいや!

 なんで!? どういうこと!?


 本来のシナリオでも最初は多少のわだかまりはあれど、バチバチではなかった。

 どうして主人公とヒロインが対立してるんですかねぇ!? ダメでしょ!?

 

 彼のあの発言もわからない。情報量が多すぎるよ!

 まさか色々フラグがおかしくなってノネットルートに入っちゃってたりする!?

 

 え、待って。

 

 ていうか――このゲームR18ですよ!? もしかしてわたし貞操の危機ですか!?


 ――わたしを攻略するなんて聞いてないんですけど!?

これにて1章完結です。

次回は幕間ストーリーでかなり短めになります。

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― 新着の感想 ―
めちゃくちゃよき! 今後も追わせていただきますm(_ _)m
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