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わたしを攻略するなんて聞いてないんですけど!?  作者: 藤乃意
一章(転生、わたしがヒロインですか!?)
1/11

プロローグ

「こ、この光景は……!」


 興奮に踊り出してしまいそうな衝動をぐっと抑え込む。


『お前、その机で何を工作するつもりなんだ?』とツッコまずにはいられない、部屋の3分の1くらいの大きさのあるクソデカ文机と『せめて机と大きさが逆ならば……』と惜しまれた余りにも質素なベッドがひとつ。部屋の出入口から見ると、それは紛れもなく画面越しに見たあの光景。


「まさしく! 恋愛ADVゲーム『青い、青い空。』…略して『青空』の自室!」


 発売前から公式サイトに公開されていた画像で『草。どんな部屋だよ』と一時ネットで話題となっていたが、体験版が公開され、今度は自室(正確にいえば、寮の一室という扱いである為、誰の部屋であっても同様の背景が表示されるが)であることが判明した際には悪い意味でもう一度盛り上がった。ちなみに各所で散々コケにされまくったにも関わらず、背景は差し替えられることなく正式版が発売された。

 結局ストーリー的に伏線がある訳でもなく、ただただネタ背景としてこの件は伝説となった。他の背景は特におかしな点がなく、とにかく謎の背景である。まあ、このゲーム発売直後に製作会社が倒産したから、会社的に描き直す体力も無かったのかもしれないけど……。


 "伝説の背景"と検索するだけで記事がヒットする程に一部界隈ではネタにされている本作だが、反面そのストーリーに対する評価はとても高い。かく言うわたし自身もこのゲームの熱狂的信者である。

 まあこの系統のゲーム(R18)で初めて触ったタイトルだからという思い出補正もあるのだが、最も好きな一本は何かと訊ねられたなら、わたしは迷わずこのゲームを挙げる。


 これが夢でも何でもいい。画面越しでなく確かな現実感を持って、『青空』の世界に立っているというだけでそれはもう感無量なのだ。もしも『青空』の世界にいけるのなら死んでもいいとさえ思っていたのだから。


 ……とはいえ。


 いわゆる、明晰夢というやつだと思うがこうなると欲が出てくる。色々探検したい! 何ならヒロインとお話なんか出来ちゃうかもしれない!


「ふふふ! あはははは!」


 さあ、こうしてはいられない。パジャマを脱いだら出かけよう!


 扉のすぐ隣には衣装棚があった。そう、画面上死角となって見えないが、地の文では衣装棚がある事はしっかりと描写されている。 なんだか、一種のテーマパークのようでとても楽しい。

 衣装棚を開け放つと、そこには服がズラリと並んでいた。右側の扉裏には身だしなみを整える為にあるのだろう、大きな姿見があった。

 姿見には本作のヒロインのひとり。推しキャラのノネットちゃんがパジャマ姿で映っていた。うーん、これは紛うことなき美少女。


 ……あれ。というかノネットちゃんの寝間着姿の立ち絵なんてあったかな。スチルでは見たことあるけどそれともちょっと違う気が。


「ん!?」


 そう。このゲームは夏と冬の制服と私服、それから水着の計5着しか服の種類が無いはずだ。

 イベントCGを含めても10には満たない。だが、この衣装棚には数えるまでもなく20着以上はある。これはつまり……そういうことか!?


「設定資料集に書いてあったお蔵入り衣装!」


 特装版の予約特典でもらえる設定資料集にキャラの原画集があったのだが、そこに『これ以外にもボツになった衣装がたくさん……!?』と書かれていたのを思い出す。

 やるな。わたしの想像力。全力で自分を楽しませに来てる。これらを着たノネットちゃんを見られたら今生に悔いはない。が、ここは涙を飲んで我慢しよう。この夢が終わる前に。

 この部屋から飛び出したくてうずうずしているが身だしなみを整えずして我が女神達に逢う訳にはいかない。わたしは淑女だからね。

 ざっと衣装に手をかけてみたが、どれもこれも着づらそうな服ばかりである。

 そう言えば、フォローしてる現役レイヤーさんが『マンガやアニメで見る服装って実際に仕立ててみると機能性や快適さを切り捨てたデザインになっている場合がほとんどなんです。ヒドイものになると、構造上着れません笑。なので私の場合は原作の雰囲気を壊さない範囲でアレンジしています』と投稿していた。


 流石にそこらに売っている、安物のコスチュームのようにペラペラな生地ではないとはいえ、正しい着方を知らないと破いてしまいそうだ。

 それによくわかんないけど、こういうドレスチックな服はペティコートとかコルセットとかそういうのを正しくつけないと型崩れしてしまって却ってみすぼらしく見えるとかも聞いたことがある。


「簡単に着られそうな服がない……」


 わたしは嘆息して衣装棚を閉じた。


 というかここは誰の部屋なのだろう。

 確か主人公が気を失って、その時点で一番好感度の高いヒロインの部屋に運び込まれる展開があった。丁度ヒロインが席を外している間に目が覚めて、着替えようと服を漁っているところにヒロインが戻ってくるという流れだったはずだ。


 ははっ、主人公正気じゃないね。


 ――まさか、その展開をなぞっている?


 ここでの選択肢は確かふたつ。


『このまま横になっておく』

『起き上がる』


『このまま横になっておく』を選択した場合、特に何かイベントが起きることも無くヒロインが戻ってきて会話へと移行する。『起き上がる』を選択した場合、前述した通りの展開に移行してイベントCGが獲得できる。ルート分岐に関係する重要な選択肢でもない。イベントが発生したところで多少会話内容が変化するのみで後々の展開に大きな違いは無かったはずだ。


 ならば、わたしの取るべき選択肢は決まっている。『起き上がる』一択だ。

 ベッドと衣装棚の真ん中で思案していたわたしは踵を返すともう一度衣装棚を開け放った。ノネットちゃんが戻ってくるまで物色……もとい、服を探すフリをしておこう。


 ん……? わたしはどうしてこの部屋の主がノネットちゃんだと思ったんだ?


 瞬間、背中に冷たい汗が伝う。わたしはゆっくりと、右手にある姿見へと視線を向けた。そこには、つい先程と変わらず本作のヒロインのひとり。最推しキャラのノネットちゃんがネグリジェ姿で映っていた。ふふ、いつ見ても可愛いぜ。…じゃなくて!

 両手を自分自身の頬へと伝わせる。当たり前だが、鏡の中のノネットちゃんも同様に自身の手をその頬へと伝わせていた。その現象が示す意味は単純明快、簡単な事実である。


「わたしがノネットちゃんだと……」


 結局、わたしは大きなショックを受けてしまい『このまま横になっておく』事にしたのだった。

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