立ち食い蕎麦屋
「らっしゃい」
カウンター越しから店主が声を上げる。
私はすぐ左にある食券機で、かけ蕎麦を注文した。駅の改札口に隣接しており、窓越しからサラリーマンが幾度となく、通りかかる。
朝の通勤時間のせいか、店主が一人で回している為か、店内は少し混んでいた。ガタガタと音を立てて、扇風機が申し訳程度に空間を冷やしている。私はこの八畳ほどの空間に、不思議と安心感を覚えた。
「お願いします」
食券を店主に渡すと、奥の寸胴に向かった。蕎麦を沸騰した水にくぐらせ、丼ぶりにダシを注いでいる。ネギをかけると、すぐに出来上がった。
「かけ蕎麦ー、かけ蕎麦の人、」
呼ばれて、すぐに蕎麦を受け取った。そのままカウンター向かいの席に腰を下ろす。箸を取り出して割ると、蕎麦をかきこんだ。美味しい。ダシの香りが鼻いっぱいに通り込んだ。
すると、一人の男性の声が耳に入る。
「すいません、大盛りのかけ蕎麦を頼んだ筈なんですが...」
「えっ、大盛りなら、もう提供しましたよ?」
店主は驚いた表情で返す。
私はしばらく食べている内に、妙に量が多いように感じた。口いっぱいに放り込みながら、そんな事を聞いて、違和感を覚えた。
これは私の蕎麦ではない。
私はカウンターの方へ向くと、男性がこちらを見ていた。私は咄嗟に謝ろうと思ったが、口に詰まった蕎麦がそれを許さない。モグモグとする私は、呆然とした男性と目を合わせていた。
「すフィふぁセん...」
私は口に入りながらも、必死に声を出した。
店主も呆気に取られて、こちらを覗いてくる。
数秒間の沈黙が続いた。
「いや、まぁ、しょうがないですよ、」
男性は話を切り出すと、少し笑うように言う。
「あっちゃー、すいません..ちょっと作り直しますね..」
店主は丼ぶりを持って、寸胴の方へと向かって行く。
私は恥ずかしくて堪らなかった。




