表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/31

第七章 村祭りと、リボン細工のちいさな魔道具

 この日、ティル村の朝は、どこか浮き足立っていた。


 風に揺れる洗濯物、にぎやかな子どもたちの声、焼き菓子の甘い香り。

 空の色も少し深くなって、夏と秋の境目にある澄んだ青。


 この村では、収穫前に「豊作を願う祭り」がある。

 それは祈りであると同時に、皆で力を合わせて働いた夏を労う、小さなごほうびのような行事だった。


 人口は200人に満たない。

 けれど、誰もが顔を知っていて、家族のように支え合う。

 ここで、みのりが暮らすようになって、もう半年が経っていた。


 「最初は、行き倒れの女の人なんて滅多にいないからね。浮いてたけど……今じゃ、すっかり村の人だね」


 そう言って笑ったのは、若い母親の一人、サラだった。


 


 ***


 


 「お祭りのとき、子どもたちに何か作ってあげたいな」

 と、みのりはエルドに相談した。


 「うーん、食べ物は用意されるみたいだし……おもちゃとか?」


 「うん。でもせっかくだから、ちょっとした“魔法の遊び道具”にしたいの」


 そう言ってみのりが取り出したのは、カラフルなリボンとレース糸。


 「これで……何ができるんですか?」


 「“リボンの風車”を作るよ。風が吹くと、ふわっと舞い上がる小さなおもちゃみたいな感じかな」


 材料には、風精草ふうせいそうという魔力を帯びやすい繊維を練り込んだレース糸を使う。

 軽くて丈夫で、風の魔力と相性がいい。


 作り方は簡単。リボンを螺旋状に巻いて、小さな魔石のかけらを芯に仕込み、先端を棒に結びつける。


 完成した風車は、風が吹くたび、花びらのようにくるくると回りながら光を帯びた。


 「わあ……! これ、魔法じゃないのに魔法みたいですね!」


 「いい感じにできたね!素材の力を信じて手を貸してあげれば、こんな魔法みたいな素敵なものが作れるんだ」


 


 ***


 


 祭り当日。村の広場には、花と収穫物の飾りつけが並び、焼きたてのパンと蜜菓子の香りが漂っていた。


 子どもたちは、みのりの「てのひら工房」の前に集まり、風車を手にして走り回っていた。


 「見てー! 回ったー!」

 「なんかこれ、飛ぶよ!」

 「ふわって浮いた!」


 子どもたちの笑い声が風に乗って村中に広がっていく。


 「……こういうのが、一番の魔法かもしれないな」

 隣でエルドがつぶやいた。


 みのりも微笑んでうなずいた。

 この半年、村に来て、編んで、出会って、少しずつ心を重ねて――

 今、ようやくこの村に「根を張った」気がしていた。


 


 ***


 


 祭りの終盤、村長のロダンが火を灯し、村人たちは手をつないで輪になった。

 祈りの歌とともに、来たる収穫への感謝が空へと捧げられる。


 「大地に実りを、空にやすらぎを、手にぬくもりを」


 みのりは、そっと胸に手を当てた。


 ――ありがとう。この村に来られてよかった。


 風がふわりと舞い上がり、子どもたちの風車がいっせいに回った。

 キラキラと魔法みたいな音を立てて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ