第七章 村祭りと、リボン細工のちいさな魔道具
この日、ティル村の朝は、どこか浮き足立っていた。
風に揺れる洗濯物、にぎやかな子どもたちの声、焼き菓子の甘い香り。
空の色も少し深くなって、夏と秋の境目にある澄んだ青。
この村では、収穫前に「豊作を願う祭り」がある。
それは祈りであると同時に、皆で力を合わせて働いた夏を労う、小さなごほうびのような行事だった。
人口は200人に満たない。
けれど、誰もが顔を知っていて、家族のように支え合う。
ここで、みのりが暮らすようになって、もう半年が経っていた。
「最初は、行き倒れの女の人なんて滅多にいないからね。浮いてたけど……今じゃ、すっかり村の人だね」
そう言って笑ったのは、若い母親の一人、サラだった。
***
「お祭りのとき、子どもたちに何か作ってあげたいな」
と、みのりはエルドに相談した。
「うーん、食べ物は用意されるみたいだし……おもちゃとか?」
「うん。でもせっかくだから、ちょっとした“魔法の遊び道具”にしたいの」
そう言ってみのりが取り出したのは、カラフルなリボンとレース糸。
「これで……何ができるんですか?」
「“リボンの風車”を作るよ。風が吹くと、ふわっと舞い上がる小さなおもちゃみたいな感じかな」
材料には、風精草という魔力を帯びやすい繊維を練り込んだレース糸を使う。
軽くて丈夫で、風の魔力と相性がいい。
作り方は簡単。リボンを螺旋状に巻いて、小さな魔石のかけらを芯に仕込み、先端を棒に結びつける。
完成した風車は、風が吹くたび、花びらのようにくるくると回りながら光を帯びた。
「わあ……! これ、魔法じゃないのに魔法みたいですね!」
「いい感じにできたね!素材の力を信じて手を貸してあげれば、こんな魔法みたいな素敵なものが作れるんだ」
***
祭り当日。村の広場には、花と収穫物の飾りつけが並び、焼きたてのパンと蜜菓子の香りが漂っていた。
子どもたちは、みのりの「てのひら工房」の前に集まり、風車を手にして走り回っていた。
「見てー! 回ったー!」
「なんかこれ、飛ぶよ!」
「ふわって浮いた!」
子どもたちの笑い声が風に乗って村中に広がっていく。
「……こういうのが、一番の魔法かもしれないな」
隣でエルドがつぶやいた。
みのりも微笑んでうなずいた。
この半年、村に来て、編んで、出会って、少しずつ心を重ねて――
今、ようやくこの村に「根を張った」気がしていた。
***
祭りの終盤、村長のロダンが火を灯し、村人たちは手をつないで輪になった。
祈りの歌とともに、来たる収穫への感謝が空へと捧げられる。
「大地に実りを、空にやすらぎを、手にぬくもりを」
みのりは、そっと胸に手を当てた。
――ありがとう。この村に来られてよかった。
風がふわりと舞い上がり、子どもたちの風車がいっせいに回った。
キラキラと魔法みたいな音を立てて。