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第二十六章 眠る紋と、ひらかれた地図

 「ミノリ、見てこれー!」


 陽だまりの中、ルーシャの弾む声が工房の扉をくぐって飛び込んできた。

 その後ろにはティッタ、ティオ、ニコが連なっている。ティオは自慢げに、古びた紙を両手で広げていた。


 「村の倉庫の奥から出てきたんだ!おじいちゃんが手伝いに来てくれって言うから行ったら、これが見つかってさ!」


 ミノリは紙を受け取り、慎重に広げてみた。

 古いけれど、色褪せたインクの線はまだ読み取れる。それは古い地図だった。草原の北にうっすらと描かれた印。そこには、見覚えのある紋様──前に織った“誓布”に刻まれていたものとよく似た模様があった。


 「……これは、地図?」


 「うん、多分ね」ニコが真剣な顔でうなずいた。「最長老のヨランダさんが“あれはずっと昔の地図かもしれない”って」


 ミノリの指が、紋様の端をなぞった。ふと、胸の奥があたたかくなる。

 祠の奥で見つけた糸。誓布。草原の声。──全部が、繋がっていくような気がした。


 「行ってみようか、この場所」


 「やったー!探検だ!」ティオが大声を上げると、ルーシャとティッタも手を取り合って跳ねる。

 ニコだけが少し眉をひそめた。


 「でも……危ない場所じゃないよね?」


 ミノリは微笑み、子どもたちの頭を軽く撫でた。


 「もし危なそうなら、すぐ引き返す。でも、見てみたいの。きっと、この地図を描いた人も、何かを残したかったはずだから」


 


***


 


 翌朝、ミノリは子どもたちと一緒に村を出た。

 今回はヨランダの助言もあり、大人の付き添いとして村の若者・フレッツが同行してくれた。

 エルナも「ルーシャたちだけだと心配で落ち着かない」と言って、一緒に草原へと向かう。

 ティッタと手をつなぎながら、やや硬い表情で草をかき分けていた。


 「ほんとに、変なとこじゃないといいけど……」

 「大丈夫だよー、ね? ミノリ!」


 「うん。きっと何か、見つかる気がするよ」


 目的の場所は、草原の中でも少しだけ高台になった丘のような場所だった。木々の間から差す日差しに照らされて、そこに小さな石の祠が半ば埋もれるように立っていた。


 「これ……もしかして、前の祠と対になるもの?」


 ミノリはそっと祠の前にしゃがみ込む。

 祠の扉は石板で封じられていたが、その表面には確かに、誓布と同じ紋様が刻まれていた。


 「これ、糸巻きだよね?」ティッタが指差す。


 「そうだね……糸と布、そして──守るもの」


 そのとき、ふとティオが横に積まれていた石をどかすと、小さな木箱が姿を現した。


 「おおー!?宝箱っぽいぞ!」


 「ちょっと待って、落ち着いて!」ニコが兄を制し、そっと蓋を開けた。


 中には、乾いた羊毛のようなものと、一枚の布切れが入っていた。

 みのりが手に取って広げると、そこには不思議な曲線と染めの跡──まるで歌の旋律を描いたような模様が浮かんでいた。


 「……これは、また違う織り手の手仕事かも」


 みのりの目が真剣になる。


 「この模様、前の誓布とも少し似ているけど……“うた”のように流れてる。もしかして、これが次の糸守の手がかり?」


 「ミノリ……その布、また織り直すの?」


 ルーシャの問いかけに、ミノリはそっとうなずいた。


 「うん。今度は“風のうた”を織るつもり。──誰かの声が、ここにも残っている気がするから」


 


***


 


 その夜、工房の明かりが遅くまで灯っていた。

 みのりは新たな布の構想を練りながら、ふと棚の上に置かれた箱を見上げた。

 あの中には、エルドから届いた布と、リースが選んだ未知の素材がある。


 あの旅の続きを、まだ自分は知らない。

 でも、少しずつ、重ねていける気がする。


 糸を結びながら──遠くの声と、すぐそばの笑い声を、つないでいく。

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