表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

第十九章 再会の糸と、染まりゆく空の下で

 春も終わりに近づくころ。

 工房の戸を叩く音に、みのりは顔を上げた。


 「ミノリさんこんにちは!いま戻りました!」


 少し背が伸びて身体つきがしっかりしたような気がする。

 でも変わらぬ笑顔と、ちょっと不器用な声。


 「……エルド!」


 久しぶりの再会に、みのりの顔がぱっと明るくなる。

 工房に入り込んだ春風のように、エルドが穏やかに立っていた。


 


 ***


 


 エルドは、旅先の市で仕入れた品々をいくつかみのりに手渡した。

 中でも目を引いたのは、小さな木箱に丁寧に収められた糸束。


 「これは、師匠のリースさんと一緒に立ち寄った港町で見つけました。

  “水精樹”という特殊な木の繊維から作られた糸で、乾いたままでも光を反射するんです」


 指で触れると、まるで霧のように淡い光を帯びた糸がするりと流れた。


 「……なんて繊細な……」


 みのりは思わず見入ってしまう。

 それはまるで、祠で見つけた古い糸巻きと、どこか似た気配をまとっていた。


 「これ、祠の糸と組み合わせられるかもしれない……」


 みのりの声に、エルドがぱっと目を輝かせた。


 「本当ですか? だったら、いっしょに試してみませんか。……前みたいに」

 「ふふ、あの頃より手際はどう?」

 「少しは、成長したつもりです。たぶん、ですけど」


 そう言って照れたように笑うエルドを、みのりは懐かしく感じていた。


 


 ***


 


 作業を進める合間に、エルドはふと、リースとの旅の話を語り始めた。


 「リースさん、変わらず口うるさいですけど……本当に、いろんなことを教えてくれるんです。

  素材の見極め、魔道具の仕組み、それに……“職人としての責任”とか」


 「リースさんは、すごく信頼されてる方なのね」

 「……はい。ああ見えて、人の心をよく見てるんです。師匠には敵わないなって、よく思います」


 みのりはうなずきながら、エルドの手元に視線を落とす。

 その動きは、数ヶ月前に別れた頃よりも格段に落ち着き、迷いがなかった。


 彼の努力が垣間見えて、自分のことでないのに、ちょっと誇らしく思えた。


 


 ***


 


 夕暮れの工房に、風が吹き込む。

 みのりとエルドは並んで腰を下ろし、染まりゆく空を見上げた。


 「この村に戻ってきて、やっぱりほっとします」

 「またしばらく滞在するの?」


 「……いえ。リースさんともう一度、北の街に向かいます。

  でも、必ず戻ってきます。師匠も、いずれ村に立ち寄るって」


 その言葉に、みのりは少し驚く。


 「リースさんが?」


 「はい。実は……師匠もあなたのこと、気になってるみたいで」


 「……あら。こわいお叱りでも受けるかしら」


 「違いますって! あの人なりに……“認めた”ってことだと思います」


 エルドは小さく笑ってから、言葉を選ぶように静かに続けた。


 「みのりさん。……ぼく、もっと立派な魔道具師になって、またここに来たい。

  あなたといっしょに、世界に一つの布を作ってみたいんです」


 その真剣なまなざしに、みのりはふと息をのむ。

 けれど──彼の年齢、まっすぐな想い、それを“答え”にするにはまだ早すぎる。


 「ありがとう。そう思ってくれるのはうれしいわ」

 「……はい」


 優しい沈黙のあと、みのりは立ち上がる。


 「じゃあ、そろそろ休憩はおしまいにして続きをやりましょう!春の光のような布、仕上げていかないとね」


 エルドも頷き、2人で工房の中に戻り、ふたたび糸を手に取った。


 そして、静かに流れる夕暮れの中──

 2人は並んで作業台に向かい、光の糸を少しずつ織り重ねていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ