表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

第十六章 芽吹きの音と、ふしぎな糸の贈りもの

 小川沿いの柳の芽がほころび始めた頃、村にはやわらかな日差しが戻ってきていた。

 子どもたちは長靴のまま外に飛び出し、小さな水たまりをジャンプして遊ぶ。

 木々の間では、小鳥たちのさえずりも増え始めていた。


 そんなある日、みのりはティッタと一緒に、染物に使う草を探しに出かけた。

 春先は、まだ色が淡く、優しい色にしか染まらない。でも、それがまたいい。


 「この辺にスミレが咲くって、去年ルーシャが言ってたの」

 「うん、たしか小川の向こう岸の近くね。気をつけてね、足もと滑るから」


 川沿いを歩いていたとき、ティッタがふと立ち止まった。


 「……あれ? なにか落ちてる」


 小さな石の上に、丸くなった糸玉が一つ、ちょこんと乗っていた。

 くすんだ青と灰色が混ざったような色。まるで、冬の空と春の霧を一緒に巻いたような、ふしぎな風合いの糸だった。


 「誰かの落とし物かしら……?」

 みのりが手に取ろうとした瞬間、糸玉がころり、と転がった。


 「わっ、動いた!?」「えっ!?」


 2人で驚いて、思わず声が出た。


 転がる糸玉を追いかけていくと、ときおり止まりながら、小川沿いの獣道をすいすいと転がっていく。

 まるで「こっちだよ」とでも言うように。


 


 ***


 


 たどり着いたのは、森の縁にある古い倒木のそば。

 その根元に、ひとつの小さな布袋が落ちていた。

 袋はほつれていたが、糸玉と同じ色の刺繍がほどこされていた。


 「これ……たぶん、あの糸玉のおうちだね」

 「うん、だけど……こんな色の糸、村じゃ見かけないよね」


 みのりは糸玉と袋をそっと持ち帰ることにした。

 その夜、薪ストーブの火の前で、糸玉を触っていると、つぶつぶした感触があるのに気がついた。糸の端の撚りをほぐしてみると──


 糸の中から、乾いた草の種が数粒、こぼれ落ちた。


 「……あれ?」


 その種は、以前キースが母に贈った巾着に入れていたのと同じ種類だった。

 だが、不思議なことに、その種はほんのりと光を帯びていた。


 そして、その袋の中には、短い手紙が一枚だけ──


 —


 「また糸が芽吹いたら、きっと戻ります。

  春の終わりの風が、帰る道をつくってくれるから」


 —


 それは間違いなく、エルドの字だった。


 


 ***


 


 それから数日後。


 みのりは、あの糸で小さな織物をひとつ仕立てた。

 春の草花を織り込んだ、しおりのような布片。


 リースと共に旅を続けるエルドに届くよう、手紙に添えて送る準備を整える。


 「帰る道が見えたら、迷わないように。ちゃんと、糸をつないで待ってるからね」


 残りの糸は村の入り口の道沿いに、子どもたちと一緒埋めた。

 糸の中の種が芽吹くことを想像して、道を照らしてくれるように。


 春風が工房の窓を叩いて、桜色のカーテンがふわりと舞い上がる。


 村では、今年も種まきの季節が始まっていた。


 


 ***


 


 「ねえみのりさん、あの糸の魔法、なんだったのかな?」

 と、ルーシャが首をかしげて尋ねる。


 「さあ……“呼び糸”だったのかもね。大切な誰かを、春の風にのせて呼ぶ糸」


 「……じゃあ、また会えるね」


 「うん。ちゃんと、この村で」


 春の空は、うっすらと霞んで、光のヴェールがゆれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ