第十二章 雪の日の、くるみボタンと毛糸のランタン
朝から雪が降り続いていた。
空はまっ白に曇り、村の屋根も道も、すっかりふわふわの綿で包まれたようになっている。
「……ミノリさーん、あそびにきたー!」
子どもたちの元気な声が、いつものように工房に響いた。
工房の近くに住む子どもたち――おしゃまなルーシャと、内気な妹のティッタ。
そして隣の家の末っ子ノア、やんちゃな双子の兄弟ティオとニコも含めた、小さな常連たち。
今ではすっかり、みのりの「てのひら工房」は、放課後の秘密基地のような存在になっていた。
「今日は、あそべない……?」と、ティッタが不安げに聞くと、みのりはくすりと笑った。
「もちろん、大歓迎。でも今日は“遊びながら手しごと”よ?」
***
この日、みのりが用意していたのは、小さな毛糸ランタンづくり。
かぎ針編みや裂き織りの端材、透明な魔道具の丸い瓶(中に火石を仕込めばほのかに光る)を使って、
瓶を包むような毛糸のランタンカバーを作るのだ。
「寒い夜でも、これがあればあったかい光でお部屋がぽかぽかになるよ」
まずはみのりが一例を見せると、子どもたちは目をきらきらさせながら、箱の中の毛糸を漁り始めた。
「わたし、ピンクと水色!」
「おれ、もふもふの毛糸にする!」
くるみボタンを飾りにしたり、麻ひもを巻きつけたり――思い思いに工夫して作っていく。
その中で、ひときわ集中していたのがルーシャだった。
「……これ、妹のティッタのぶん」
「えっ、ほんと?」とティッタが驚くと、ルーシャは少し照れたように言った。
「ティッタ、夜こわくて眠れないって言ってたでしょ?これがあれば、だいじょうぶかなって」
みのりは静かにほほえんだ。
「灯りってね、不思議なのよ。小さくても、暗い中でそばにあると、すごく心が落ち着くの」
ティッタはみのりとルーシャを交互に見るとくしゃっと笑って
「ありがとう!」
と満面の笑みを見せてくれた。
***
みんなが完成したころ、外はすっかり夕暮れ。
小さなランタンに明かりを灯すと、工房の中がほんのりと温かな色で満ちた。
その灯りの中、後からやってきたのは――エルナだった。
「ごめん、遅くなって」
雪で道がぬかるんでいたのだろう、スカートのすそを少し濡らしていた。
「ちょうど、エルナちゃんの分も作っておいたよ」と、みのりが笑って差し出したのは、
グレーと紫の毛糸で編んだ、シックなランタンカバー。
「……これ、もらっていいの?」
「もちろん。でも、あったかくして帰ってね。今日は冷えるから」
「うん。……でももう、あんまり寒くないかも」
と、ランタンを受け取りながらエルナはふっと笑った。
***
その晩。
子どもたちが家に持ち帰った小さなランタンの灯りが、村のあちこちにぽつ、ぽつと灯っていた。
それはまるで、雪の夜空に浮かぶ星のようだった。
家の中から漏れるその光を見て、通りかかった年配の女性がぽつりと言う。
「不思議ね……こうして見ると、村がひとつの家みたいだわ」
てのひら工房の灯りもまた、雪の中で優しく揺れていた。
――この村の冬は、あたたかい。