第十一章 冬ごもりと、ぬくもりの輪
しん、と張り詰めた冬の空気。
朝、家々の屋根にはうっすらと霜が降り、畑はすっかり白く染まっていた。
村では、外での仕事が減るこの季節になると、家の中でできる“手しごと”が盛んになる。
「冬の間はみんな家の中で手を動かして、暖かくなり始めたらそれを売って村のみんなの生活の足しにしてるの」
と、村の年配女性のマーニは笑った。
暖房の薪を削る手が鈍くなってきた人の代わりに、若い娘たちや子どもたちが覚えた手しごとで、少しずつ支え合っていくのがこの村の冬の風習だった。
***
その一環として、みのりは「てのひら工房」を開放し、
冬の手しごと教室を週に一度開くことにした。
教えるのは、
•編み物(手編みの靴下とミトン)
•籐細工のかご編み(乾燥した柳の蔓を使用)
•そして余った布で作る“裂き織り”のコースターや鍋敷き
「ひと針ひと編み、焦らずに」
「かごは、最初の組み始めが大事なの。歪んでも大丈夫。自然なゆがみは、味になります」
「裂き織りはこの木枠に合わせて経糸を張って、緯糸として裂いた布を交互に通していくの」
村の女性たちは最初こそおっかなびっくりだったが、「こうやってみんなで手を動かすと、話が弾むもんだね」と、すぐに笑い声が工房に満ち始めた。
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ある日、教室が終わったあと。
「……わたしにも、教えてくれる?」
みのりが後片づけをしていると、そっと声をかけてきたのは――エルナだった。
彼女は母の形見のコートをしっかりと着て、
少し照れくさそうに、でもまっすぐにみのりを見ていた。
「もちろん。どれからやってみる?」
「……編み物。靴下」
――弟のユリスのためだろうか、とみのりは思ったが、あえて聞かなかった。
最初は棒針の持ち方にもたつき、何度も編み目がほどけてため息をついていたエルナだったが、
手を添えて教えるたびに、少しずつ手の力が柔らかくなっていく。
「……できないと思ってたけど、編めてきたかも」
「そうでしょ。手しごとって、“ゆっくり”がいちばん大事なの」
ふと、エルナの口元に小さな笑みが浮かんだ。
それは、少しずつでも着実に成長している実感に対しての嬉しさからの表情だった。
みのりにも覚えがある。
編み物を始めたばかりの頃。段々と綺麗に編まれるようになる編み地をみてはニヤついて、触って、眺めて、それがまた自信にもなって。
気付いたらどハマりして今に至っている。
もしかしたら、エルナもそうなってくれるかも、そう思ったらみのりの口元にも自然と笑みが浮かんだ。
***
数日後、雪が舞い始めた日。
みのりの元に、エルナが小さな包みを抱えてやってきた。
「これ……できた。ユリスの靴下。すこし曲がってるけど」
中には、淡いグレーと水色で編まれた、ちいさな靴下のペア。
かかとの部分にだけ、みのりが少し手直しした跡が残っていた。
「ユリス、きっと喜んでくれるよ」
「うん。……それと、ミノリさん」
エルナは言いにくそうに、でもはっきりと口にした。
「……ありがとう。お母さんのことも、ユリスのことも、わたし、ちゃんと向き合いたいって思ったの」
「うん。それでいいよ。焦らなくていい。ゆっくり、でね」
***
夜、みのりはひとり、仕上げたかごに編み紐を通しながらふと手を止めた。
薪のはぜる音とともに、遠くから聞こえる姉弟の笑い声が、雪の静けさの中に溶けていく。
誰かと手を動かす。
それだけで、人はあたたかくなれる。
そして、編んだものは、編んだ人のぬくもりを伝えてくれる。
てのひらのなかの、ちいさなぬくもり。
それを分けあうだけで、冬はきっと越えていける。




