5話 村での交流
モンスター襲撃から数日が経った。村に平穏が戻り、俺も少しずつ村の生活に慣れ始めていた。
ギルドのベルナルドが言っていた通り、あの日の戦いで村人たちの目が俺に対して少しだけ変わった。とはいえ、まだ全員が俺を頼しているわけではない。村を歩けば遠巻きに見られることも多いが、少なくとも無視されたり、侮蔑されることはなくなった。
ギルドの集会所に顔を出すと、あの日以来初めてベルナルドと話をした。彼はギルドの受付兼簡単な調整役を務める中年男性で、以前は俺に冷たく接していたが、今は少し柔らかな目を向けていた。
「おいレオン、最近どうだ?」
「まあ、それなりに.....まだ自分の居場所を掴めてる気はしませんけど」
「そんなこと言うな。お前の召喚術が村を守った事実は変わらねえ。少しずつ慣れていけばいいさ」
ベルナルドはそう言ってから、隣の机で黙々と書類を書いていた女性に声をかけた。
「おい、ミリア。お前も少しは挨拶しろよ」
「ああ?別にいいでしょ、私は事務員なんだし」
ミリアは長い黒髪を後ろでまとめた、ギルドの職員だった。どこかそっけない態度だったが、ちらりと俺に視線を向けると小さくため息をつく。
「まあ、村を守ったってのは認めるけどね。でも、浮かれちゃダメよ。ここじゃ一度や二度の成功なんてすぐ忘れられるんだから。」
少し毒を含んだその言葉に、俺は苦笑いするしかなかった。
ギルドを出た俺は、村をぶらつくことにした。襲撃の後、村人たちも立ち直り始めているようだ。
「あ、レオンさん!」
声をかけてきたのは、村のパン屋で働く少女、マリンだった。彼女は襲撃の際、家族と共に物陰に隠れて震えていた子だ。今はその頃の恐怖が嘘のように明るい笑顔を浮かべている。
「はい、これ!昨日焼いたパンの余りだけど、お礼のつもりでね」
「あ、ありがとう。でもこんな......」
「いいのいいの!あの時、お兄ちゃんがいなかったら本当にどうなってたかわからなかったんだから!」
彼女はそう言うと、俺の手に強引にパンを押しつける。
「それに、また何かあった時のために、お腹はしっかり満たしておかなくちゃ!」
俺はその言葉に救われる思いがした。自分の力を少しだけ誇れる気がしたからだ。
パンを受け取った後、村外れにある鍛冶屋に立ち寄る。襲撃で壊れた家や道具を修理する音が響く中、大柄な男性が俺に気づいた。
「あんたが例の召喚士か」
鋭い目つきで俺を見たその男は、エリオットという鍛冶屋の親方だった。年齢は40代くらいで、筋骨隆々の体つきが目を引く。
「いや、俺はただ.....」
「謙遜するな。俺たちが命拾いしたのは事実だ。ただ、俺の武器を使ってくれる気はないか?」
「武器?」
「スライムだのゴブリンだの、あんたの召喚獣には武器が合う。小さな刃でも持たせれば、あいつらの戦闘力は一段と上がるだろう?」
俺はその提案に驚きながらも感心した。鍛冶屋としての腕だけでなく、召喚術への理解もあるとは思わなかったからだ。
「それに......この村を守るためなら、あんたの力を最大限引き出す必要がある。俺の技術も役に立つだろう」
エリオットの言葉に俺は深く頭を下げた。
夜になり、村の広場では小さな宴が開かれた。あの襲撃を生き延びたことを祝うものだったが、同時に再建の決意を込めた集まりでもあった。
「レオン、乾杯しよう!」
ベルナルドがグラスを持って近づいてくる。他にもマリンやエリオット、村人たちが集まり、俺を囲む。
「俺は何も特別じゃない。ただ、召喚術を使えるだけだ」
そう言おうとしたが、声には出さなかった。この村の人々は、そんな俺の力でもじてくれるのだと思ったからだ。
宴が進む中、俺は小さく呟いた。
「......悪くないな」
今まで味わったことのない温かさを胸に、俺はこの村での新たな日常を少しずつ受け入れ始めていた。