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2話 牙狼の襲撃

辺境の村での穏やかな日々が突如として崩れ去った。鐘の音が村中に響き渡り、広場に集まった村人たちは恐怖に震えていた。


「モンスターの群れだ!」


ギルドの職員が必死に声を張り上げる。


「北の森から、巨大な狼型モンスターが迫ってきている!村人は全員避難を!」


村人たちは悲鳴を上げ、家族を連れて避難しようと慌てふためく。俺も一瞬その場に釘付けになったが、咄嗟にギルド職員に問いかけた。


「どれくらいの数なんですか?」


「10体以上だ......それも普通の狼じゃない。牙狼がろうだ。鋭い牙と強靭な体力を持ち、普通の冒険者でも1体で手一杯だと言われる危険な魔物だぞ!」


「......10体以上......」


その言葉に、喉がカラカラに乾いていくのを感じた。どう考えても、こんな村で対処できる相手じゃない。


「どうしてこんな村に牙狼の群れが......」


「理由なんかどうでもいい!村を守れる戦力がないんだ!逃げろ!」


職員の叫びが村の広場に響く。逃げる一一それが最も合理的で安全な選択肢だろう。俺もここで逃げるべきだ。


だが、足が動かなかった。


「俺は......俺は戦います!」


自分でもじられないほど強い声が出た。その声は周囲のざわめきをかき消し、広場にいた全員の視線を集める。


「な、何を言っているんだ!お前一人でどうやって戦うつもりだ!」


ギルド職員が驚愕の声を上げる。周囲の村人たちからも嘲笑や戸惑いの声が聞こえた。


「確かに、俺の召喚獣は弱い。でも、何もしないで見殺しにするなんて嫌なんだ!ここで逃げたら......俺は一生自分を許せない!」


「無茶だ!死ぬぞ!」


それでも、俺は決意を曲げなかった。震える手で短剣を握り、村の入り口に向かう。


「俺が時間を稼ぎます。その間に村人を避難させてください!」


その言葉にギルド職員は言葉を失ったが、やがて真剣な顔でうなずいた。


「わかった......だが無理はするな。生き延びろよ!」


村の北側。夕焼けが迫る森の中から、地響きのような足音が響いてきた。


「来る......!」


草木を押し分けて現れたのは、漆黒の毛並みを持つ巨大な狼一一牙狼だ。その大きさは馬をも超え、赤い瞳がこちらを射抜いてくる。その後ろには、さらに複数の牙狼たちが姿を現した。


「本当に10体以上いるのかよ.......」


体が震えた。恐怖で全身が凍りつきそうになる。だが、ここで逃げたら終わりだ。


「行くぞ......!」


俺は魔法陣を描き、第一の召喚獣ーースライムを呼び出した。


「頼む、お前にかかってる!」


スライムはぷるぷると揺れながら前に進む。牙狼のうち一匹がそれを見て低い唸り声を上げたかと思うと、ものすごい速さで飛びかかってきた。


「避けろ!」


スライムはその動きに応じて体を膨らませ、牙狼の牙を弾いた。驚いたのは俺だけではない。牙狼も一瞬動きを止めた。


「いいぞ.......次だ!」


俺は続けてゴブリンを召喚する。小柄な緑の体に短剣を握ったゴブリンがスライムの横に現れた。


「お前は攻撃だ!」


ゴブリンが牙狼の足元に飛び込み、短剣を振り下ろす。牙狼の脚に浅い傷がつき、血が滲む。牙狼が哮し、怒りのままにゴブリンを狙って牙を剥いた。


「スライム!ゴブリンを守れ!」


スライムが間に割り込み、牙狼の攻撃を受け止めた。その体が弾け飛ぶように散ったが、その間にゴブリンが手び牙狼に一撃を加える。


「まだだ......!」


魔法陣を描き続け、スライムとゴブリンを召喚する。その数を増やし、牙狼に立ち向かわせた。スライムが前線で体を張り、ゴブリンがその隙をついて攻撃を仕掛ける。


「この程度で......終わるもんか!」


牙狼たちは次々にスライムを引き裂き、ゴブリンを噛み砕くが、俺はさらに召喚を繰り返す。消えた仲間たちの分を補うように、次々と戦力を増やしていく。


だが、魔力は限界に近づいていた。


「くそっ.......まだ足りない.....!」


牙狼たちの猛攻に押され、村の入り口が危険な状況に陥る。村を守るためには、さらに何かが必要だーーだが、どうすればいい?


「くそっ……! 力が……足りない……!」


限界だ。スライムやゴブリンの召喚だけでは、牙狼たちに対抗できない。これ以上続けても、どんどん体力と魔力が奪われ、時間が経つほどに俺たちの不利は大きくなる。


「どうすれば……」


心の中で叫びながらも、俺は必死に頭を回転させる。牙狼の数はまだ多いが、もし数で勝ることができれば、少しは有利になるかもしれない。だが、今の俺にはその手段が思いつかない。


「くっ、もう一度……! 召喚術を使うんだ!」


俺は再び魔力を込め、魔法陣を発動させた。


「来い……!」


目の前に現れたのは、大量のスライムとゴブリンだった。


「!?」俺は出てきたモンスターたちに驚いたが、今はそんな場合ではない。


「行け!スライム! ゴブリン! 全員突撃!」

俺の声に応じて、前線に配置したスライムたちが次々と跳びはね、敵モンスターの足元を固めていく。それに乗じてゴブリンたちが、槍や棍棒を振り回し、牙狼たちを次々と仕留めていく。


戦況はやや有利――だがそれも一瞬だった。


「やっぱり、数だけじゃダメか!」

牙狼たちは頭がいい。ゴブリンたちの攻撃パターンを学習したのか、巧みに攻撃をかわして反撃を始めた。ゴブリンたちが次々と倒され、戦列が崩れそうになる。


俺は必死に考えた。どうすれば、この数の力を維持できる? 魔力はすでにギリギリだというのに。


そのとき、脳裏にふと浮かんだのは昔、父親から聞かされた話だった。


「召喚の本質は魔力だけじゃない。召喚主の意志――つまりお前自身の覚悟がモンスターを動かすんだ。」


「覚悟、か……」

俺は拳を握りしめた。自分がどれだけ笑われ、どれだけ軽んじられても、「役立たず」と呼ばれた日々を思い出すと、不思議と力が湧いてきた。


「負けるもんか!」


気合を込めてもう一度召喚の印を描いた。すると、再びスライムたちが目の前に大量に現れる。いや、さっきよりも数が多い。


「な、なんでだ? こんなにたくさん出せるなんて……」


だが、考える時間はない。牙狼たちはスライムの壁を突破しようとする。俺は急いでゴブリンたちを追加召喚し、前線に送り込んだ。


すると――気づいた。


スライムやゴブリンたちは、俺が召喚するたびに少しずつだが”自分自身で再生”している。たとえば倒されたスライムが溶けた残骸から、さらに新しいスライムが生まれたり、ゴブリンたちが戦利品から武器を拾って勝手に強化されていたり。


「まさか、これが俺の召喚術の特性か!」


俺は心の中でガッツポーズを取った。どうやら俺の召喚術は、倒されたモンスターが残した”残滓”を再利用し、新たな召喚の素材として使うことができるようだ。だから、魔力の消費が極端に少ない。


「ふはは! これならどれだけでも出せるぞ!」


状況が見えてきた俺は、さらに指示を飛ばした。「スライムたちは周囲を囲め! ゴブリン、背後から援護しろ!」


次々とモンスターたちが牙狼を追い詰めていく。敵は徐々に減り、ついには残り数匹にまで追い込まれた。


「よし、これで終わりだ!」


ゴブリンの1体が牙狼の首元に槍を突き刺し、最後の1匹が倒れた。その瞬間、広場は静寂に包まれた。


「や、やった……」

俺はその場にへたり込んだ。これほど多くのモンスターを召喚し、戦わせたのは初めてだ。全身が疲労感に包まれる。


そこへ、一匹のゴブリンがぴょこぴょこと近寄ってきた。なぜか、手にちょっとした石ころを持っている。


「え、なにそれ? ……え、プレゼント?」

ゴブリンは俺の目の前で石を掲げ、誇らしげな表情をしている(ように見える)。


「いや、これ、いらないから……」

俺が石を受け取ろうとしないと、ゴブリンは拗ねたように地面に石を置き、その場でふて寝を始めた。


「おい、なんで寝るんだよ! っていうか仕事中だぞ!」


戦闘の疲れを癒すかのようなそのやり取りに、俺はつい吹き出してしまった。こんな調子でこれからもやっていけるのだろうか……?



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