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竜砂少女は世に立つ  作者: 由喜坂由樹
8/18

竜砂日記8 戦闘開始

「…ありえない」



「んー?」



 サンドラスは動揺の眼差しでヒルファンドから目が離せない。

 三階から飛び降り、さらには車と同等の速度をサンドラスは出していたのだ。

 普通に考えれば、万が一にも追い付かれる可能性などありはしない――なのに目の前に立つ女性は悠々自適な態度でサンドラスの進路に立っていた。

 


「…まさか魔力者なの?」



 魔力者は異常な力を持っていると本に書かれていることを思い出したサンドラスは、ヒルファンドがそうであると睨むがヒルファンドは首を横に振り否定の意を示す。

 ヒルファンドは、砂漠の村出身と語っていたサンドラスの生活水準を予想し、知識不足を加味して情報を付け加えた。



「魔力者、正式名称【魔力術式保持者】……生憎とだけど、私は【霊能技力者】に分類されるかな」



「……霊能技力者?」



 初めて聞く単語にサンドラスは、ひっかかりを感じる。

 過去に何度も見てきた反応に、ヒルファンドは機械的に言葉を折り返す。

 



「略して【霊力者】と呼ばれる存在は魔力者よりも遥か前に存在していた異能者たちでね、陰陽師とか祈祷師とか巫女とか様々な名で呼ばれていたんだよ…因みに、扱う力は【霊力】と呼ばれ、魔力者以上に才能のある者だけしか使えなかったの…だから、長い歴史の中でも表舞台に姿を見せることは滅多にないから耳にしたことが無くても仕方ないよね」



「丁寧に説明ありがと……要するに、その力を使って私に追い付いて来たってわけね」



「私は、走ってサンドラスちゃんに追い付いただけだよ…【少し小細工はしたけどね】」



「……」



 違うのであれば、説明する必要などなかったのではないかとサンドラスは顔を歪める。

 初めて会ってからここに至るまで常にかき乱さているサンドラスは、ヒルファンドが何もかもわざとやっているのかとさえ思えた。

 実際はヒルファンドは天然気質なので、サンドラスを精神的に追い詰めるつもりも、不快にさせる意図も持ってはいないのであるが、それを知っているエクスはヒルファンドの一撃に沈んでしまった為、サンドラスがそれを知る手段はなかった。

 


「そんなむすっとしないでよ。サンドラスちゃんには、後で美味しい紅茶でも飲ませてあげるから」



「いらないわよ。と言うかさっきからちゃん付けは馴れ馴れしいわよ」



「言われてみれば確かに馴れ馴れしかったね――じゃあ本題に入ろうかな。このまま抵抗せず大人しく私と一緒に来てほしいな」



「もし断ったら?」



 サンドラスにとって自身が捕まることは村の崩壊に繋がる恐れがある。

 当然、ヒルファンドの命令に従う気は毛頭ないが、得体の知れない彼女から情報を引き出す為に質疑を交わす。



「純粋な力――暴力を以てサンドラス、貴女を拘束します」



「……!!」



 先ほどまでと違い人が変わったかのように、ヒルファンドの鋭い双眸がサンドラスを射抜く。

 ピーコフルと対峙した時と同じ闘気と殺気――それをも上回るほどの冷たさを肌で感じたサンドラスは、ヒルファンドの圧に押されないように反抗の言葉を絞り出す。



「私の身体能力は見たでしょ?……戦いになったら死ぬかもしれないわよ」



「躊躇う必要はないよ……私に連れて行かれることがよっぽど都合が悪いんでしょ?……なら私の心配なんてせず全力で未来を掴み取ればいいんじゃないかな?」



「(ピーコフルさんと同じ言葉を……)」


 

「ねぇ交渉決裂したし――制圧させてもらうよ」



「……!!」



 ほんの一瞬、体を後方に回転させたヒルファンドに、サンドラスの反応が遅れる。

 まるでゴムを引っ張って離したかのように、ヒルファンドは加速し、サンドラスに拳を突き出した。

 サンドラスは反射的に拳が自身の体に喰い込む瞬間に、後ろに下がり威力を殺した。

 だが、それでもサンドラスの体は空へと浮き上がり、近くに見えた街から随分と遠ざかってしまった。



「その若さで今のを捌くの!?…しかも、その動き……うんうん、そんなこともあるよね!!」



「威力を殺しても、衝撃でここまで飛ばされるなんて(さっきの攻撃、ピーコフルさんの初撃と似ていたから咄嗟に体が動いたけど、もし初めてだったら……くそっ、ピーコフルさんの時と同じだ。この勝てる気がしない…嫌な状態)」



 自身の自慢の打撃を受け流されたヒルファンドは驚き以上に喜びが上回ったのか喜々とした様子を見せる。

 子供が、玩具で遊ぶかのような高揚感に満ち溢れた笑みとは対照的に、サンドラスの表情は硬い。

 今の一撃で、ヒルファンドと自身にある技量を痛感させられたからだ。

 しかも、もしヒルファンドの一撃がサンドラスに直撃していたなら、それで勝負は着いていたことも、威力を受け流しても腹部に響く痛みが伝えている。

 避けることが出来なかった戦闘――竜と人でありながらも、互いの戦闘力の差は明白であった。

 

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