竜砂日記6 未知の食事
「はぁ…(駄目だ。やっぱり此処に飛ばされた理由が分からない……電話かメールとかで聞くしかないか……エクスに聞いてみよう)」
エクスが戻るまでに状況を把握しようとしたが、どこまで考えても憶測の域でしかなく諦めて連絡を取ることにサンドラスは決めた。
方針が決まり思考することに疲れたサンドラスは、ベットから起き上がり窓から外を見る。
サンドラスが居る建物は三階建ての三階で、建物そのものは窓から見る限りでは学校のような造りになっている。
そして、建物の先を見ると荒れ果てた大地に、意図して作られた障害物や的のような物が目についた。
「軍隊が訓練する場所っぽいわね。土地は高台だから避難所としても使えそう……少し遠くには町と、さらに遠くにはビルが立ち並んでいるわね」
まじまじと外を見ると此処が自分とは、まるで所縁の無い土地だと改めて理解できた。
自然の中にぽつりとあった砂漠の村とは全く違う、自然と高度な文明がまとまった世界。
まるで、異世界に飛ばされた気分で、本来であれば焦らなければならないが、サンドラスには心地よい高揚感が湧いていた。
その心のまま暫く外を見ていると、こちらに向かってくる足音に気づきサンドラスはドアの方に目をやった。
「外を見ていたんですね。見晴らしが良くて落ち着きますよね」
「ええ、良い景色ね……それと……」
サンドラスの鼻に甘い香りが漂い、同時に空腹感が押し寄せる。
その正体は、エクスが持ってきた食事にあった。
「これは……カレーライス?」
「何で朝からカレーと思いますよね……すいません、先生がカレーを作りすぎてしまって俺一人だと食べきれなかったので……」
「いや、そうじゃなくて…実はカレーライス食べたことがなくて……」
「…マジですか?」
「マジよ……さっき私のこと何も話せなかったけど落ち着いたから話すわ……私はここから遠く離れた砂漠に囲まれた村の生まれなの……そこでは食料を買いに車で四時間ほど離れた街に行くんだけど基本的に長期保存できる食料を買い足すの…基本はイモ類が多かったわ…あとは質素に暮らすことを心がけるように村長に言われていたからカレーライスは食べたことがないわ」
自身の正体を伏せながらサンドラスは村の食事情を語る。
遺跡の観光によって収入があるとは言え贅沢が出来るほどの余裕はなかったので食事内容は味気ないものが多かった。
ただ全く贅沢が出来ない訳ではなかったので時々ではあるが、お菓子などを食べることがあった。
両親が家に帰った時も美味しい料理を食べることはあったが、両親の場合は高級な料理が多かったので、サンドラスは庶民の味と聞いたことがあるカレーを食べる機会に恵まれて来なかった。
「そうなんですか……お口に合えばいいんですが……」
「とりあえず食べるわね……ん、はぐ」
空腹に抗えなかったサンドラスはエクスからカレーを受け取り、スプーンで未知の料理であるカレーと白米を口に勢いよく入れる。
瞬間、口に広がったのは程よい甘みと辛さが混じり合ったスパイスの効いた食欲を促進させる完璧な味。
さらに、そこに柔らかな白米の甘みが噛むごとに増し、カレーとの調和を奏でる。
普段の質素な食事とも、両親が高級と言って作る料理よりも親しみやすく食べやすいカレーライスは、サンドラスの口にベストマッチしていた。
気づいた時には、サンドラスはカレーを次から次へと口に放り込み瞬く間に平らげてしまっていた。
「ふぅ……美味しかったわ」
「見事な食べっぷりですね」
「おかげで元気になったわ……ごちそうさまでした」
食べ終わった皿を近くの机に置き、手を合わせサンドラスは食への感謝を伝える。
同時に世話になったエクスには竜であること以外は伝えようと思った。
「エクス…さっき言ったけど私は砂漠の村の住人…本当のことを言うと何で私は此処にいるのか分からないの」
「……気づいた時には倒れて此処にいたって事ですか?」
「えぇ……だから、村に連絡――」
「あら――目が覚めたのね」
「(……この人は?)」
新たな声にサンドラスが目を向けると立っていたのは青の迷彩を着こなしている身長160cm程のブルーブラックのショートの髪をした女性。
女性の胸には豪華な勲章が付いており一目で階級の高い人物であると理解できた。
二十代に見える女性は微笑みを浮かべるが、どこか普通の人とは違う異質を感じたサンドラスは無意識ながら警戒の態勢を取っていた。